ロサンゼルス・レイカーズのルーキー、ロンゾ・ボールの初めてのNBAトレーニングキャンプは、ワッフルと目玉焼きの朝食から始まった。「卵はシンプルに目玉焼きだった。だいたい、いつもそうだね」とロンゾ・ボール。ドラフト1巡目・全体2位でレイ…

 ロサンゼルス・レイカーズのルーキー、ロンゾ・ボールの初めてのNBAトレーニングキャンプは、ワッフルと目玉焼きの朝食から始まった。

「卵はシンプルに目玉焼きだった。だいたい、いつもそうだね」とロンゾ・ボール。



ドラフト1巡目・全体2位でレイカーズに指名された19歳のロンゾ・ボール

 聞かれたことに淡々と答えているだけなのだが、それにしても、プロ初日から朝食のメニューについて聞かれることが、ロサンゼルスでのロンゾ・フィーバーを物語っている。6月のドラフトでレイカーズが2位指名してから、ロンゾ・フィーバーは盛り上がる一方だ。夏の間も、サマーリーグにリアリティショーにと、話題には事欠かなかった。

 最初にロンゾ・フィーバーを作り出したのは彼の父、ラバー・ボールだ。周囲を気にせず、何でも言いたい放題のキャラクターで、ロンゾと彼の弟ふたり(リアンジェロ&ラメロ)のボール3兄弟を有名にした。3兄弟のためのファッションブランドを自ら起業したほか、自分たちの家族のリアリティショーを制作してフェイスブックで流している。独自のマーケティングで一家を丸ごと売り出しているのだ。

 それだけではない。ロンゾがUCLAでプレーしていたときから「ロンゾはステファン・カリーよりいい選手だ」と断言し、ドラフト前から「ロンゾはレイカーズに入る」「3兄弟ともレイカーズに行くんだ」と大胆予言して話題を集めた。カリーとの比較はともかく、実際にロンゾはレイカーズに入ったのだから、ラバーの計画どおりだ。

 とはいえ、父が大胆発言をするだけのマーケティングなら、フィーバーはすぐに冷めてしまう。ロンゾ自身の実力が伴うからこそ、単なる見世物ではなく、本物の熱狂となっている。

 ロンゾは198cmの長身ポイントガードで、広い視野に加え、優れたバスケットボールIQとゲーム感覚を持つ選手だ。高校低学年から頭角を現し、高校最終学年のときはマクドナルド・オールアメリカンに選ばれただけでなく、全米のトッププレーヤーに贈られるネイスミス賞とモーガン・ウッテン賞も受賞。昨シーズンはUCLAで1年生ながら全試合スターターとして出場し、平均14.6得点・7.6アシスト・6.0リバウンドを記録した。

 オールラウンドな能力を持ち、得点以上にパスでチームを率いる自身のスタイルもあって、ジェイソン・キッドやマジック・ジョンソンとよく比較されている。ここ4シーズンの間、プレーオフを逃して低迷しているレイカーズにとって、彼こそが救世主になると言うファンも多い。

 また、ロンゾに大きな期待をかけるのはファンだけではない。かつてレイカーズの黄金時代を率いたスーパースターで、昨シーズンなかばからレイカーズ球団社長に就任したマジック・ジョンソンもロンゾを絶賛する。

「彼はとても賢い選手だ。チームメイトも彼のことが好きで、彼のもとに集まってプレーしようとする。それこそが、彼のすばらしいところだ。とてもいい若者で、生まれつきのリーダーだ。まわりを活躍させることができる選手だ。それに、チームメイトたちが得点できるようなパスを出すこともできる。たしか以前にも、ここでそれをやっていた選手が誰かいたけれど、名前は何だったかな……」

 マジックは最後の部分を思わせぶりに言うと、トレードマークの笑顔を見せた。もちろん、この「誰か」はマジック自身のことだ。リーグ歴代トッププレーヤーのひとりに挙げられるほどの名選手自ら、ロンゾは自分と同じような選手だと称賛しているのだ。

 もっとも、性格はだいぶ違う。外交的で明るく、笑顔と賑やかなおしゃべりでチームを率いていたマジックと比べて、ロンゾは物静かで、謙虚で、どちらかというとシャイだ。記者会見や囲み取材ではきちんとメディアの質問には答えているが、余計なことは言わず、簡潔な言葉で必要なことだけを語るタイプ。誰より大きな声で息子自慢をする父・ラバーとも対照的だ。

 ただ不思議なことに、それだけ静かでも、そしてまだ19歳と若くプロ経験がなくても、彼にはまわりがついていきたくなるようなリーダーとしてのオーラがある。

 レイカーズのロブ・ペリンカGMは言う。

「ロンゾは彼独自のリーダーシップを持っている。伝染性があるリーダーシップだ。彼はよく声を出しているわけでもなく、強い個性を持っているわけでもないけれど、それでも存在感がある。謙虚な姿勢と同時に静かな自信も持っていて、そういった資質がまわりの選手たちを引き寄せているんだ。NBAの他のリーダーとは違うリーダーシップスタイルかもしれない。でも、とても効果的だ」

 レイカーズのGMに就任するまでコービー・ブライアントをはじめ、多くのNBA選手の代理人だったペリンカがそう言うと、説得力がある。

 それにしても、この19歳のルーキーに対して周囲からかけられる期待はとても大きい。プロになったばかりの選手にそんなに大きなプレッシャーをかけて大丈夫なのだろうかと思うが、ロンゾ自身は気にする様子もない。

「僕はずっとこうやって注目されるなかでプレーしてきたから」とロンゾ。高校やUCLAで経験してきても、NBAでのプレッシャーはまた違うのではないかと聞かれると、「僕は同じだと思っている。どこでもバスケットボールにすぎないというのは同じだから」と淡々と語る。

 そんなロンゾに対して、ペリンカとジョンソンも、特にプレッシャーを軽減するような配慮はしていない。それよりは、ロンゾがさらに大きく羽ばたくために、スーパースターにはどんなメンタリティが必要か、自分たちが経験したことや見聞きしたことを語るようにしているのだと言う。

 ペリンカGMは言う。

「そういった話をするのに、マジックはぴったりの人物だ。そして私がコービーと経験してきたことも、彼に語るには理想的なことだ。単にいい選手になるのではなく、グレートな選手になるためにどういうことが必要なのか、そういった話を語るようにしている」

 マジックは言う。

「私は彼のことが好きなんだ。誰かを好きだと、その人がうまくやるところを見たいと思うものだけれど、それだけでなく、彼は活躍するべき選手だと思う。『俺はロンゾだ』みたいな態度はとっていない。みんなが彼のことを大騒ぎしているけれど、彼自身は自分のことに大騒ぎしていないんだ」

 38年前、マジック・ジョンソンは20歳でプロ入りし、1年目からレイカーズを優勝に導き、NBAファイナルMVPにも選ばれた。ベテラン選手が多かった当時のレイカーズとは対照的に、今のレイカーズは若手中心で、優勝どころかプレーオフ出場ですら大難関だ。

 それでも、チームの成績とは関係なく、19歳の新リーダーがどんな存在感を見せ、チームにどんな影響を与えるのか――。そのことに多くのファンが、そしてマジックとペリンカが注目している。