名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」連載●第11回 2位の西武に13.5ゲーム差をつける圧勝劇でパ・リーグを制…

名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」連載●第11回

 2位の西武に13.5ゲーム差をつける圧勝劇でパ・リーグを制したソフトバンク。16勝で最多勝を獲得した東浜巨、46ホールドポイントを挙げ最優秀中継ぎ賞に輝いた岩嵜翔、シーズン記録となる54セーブをマークしたデニス・サファテを筆頭に投手陣の活躍が目立ったが、打線も柳田悠岐、デスパイネを軸に厚みのある攻撃を展開した。投打とも充実のソフトバンクの”牙城”を崩す方法はあるのか? 近鉄、ヤクルト、巨人などでコーチを務め、短期決戦の戦いを知り尽くす伊勢孝夫氏に解説してもらった。
(第10回はこちら)



今シーズン、本塁打と打点の二冠王に輝いたデスパイネ

 ソフトバンクというチームは、実に不思議なチームだ。シーズン94勝はプロ野球史上5番目の成績らしいのだが、チーム打率は2割5分9厘。3割打者も柳田悠岐ひとりしかいない。

 その一方で犠打はリーグトップの154。選手層の厚さや豪快なバッティングに目を奪われがちだが、実はパ・リーグのなかで最も手堅い野球をしているチームといえる。

 そうは言っても、私ら現場にいた者のイメージでは、どうしても器(ヤフオクドーム)の狭さが気になってしまう。かつては、ホームランの出にくい打者泣かせの球場だったが、すっかり”打者に優しい球場”になってしまった(笑)。

 他球団の関係者からも「ソフトバンクの打者はヤフオクでの打ち方を心得ている」という声を聞く。要するに、スタンドに放り込むコツを知っているということだ。具体的には、打者は引っ張らず、逆方向を意識した打ち方をしている。もちろん、相手チームの打者も条件は一緒だが、そうした球場を本拠地にしている利点は大きい。

 とはいえ、ソフトバンクが一発に頼った野球をしていないのは、いかにも投手出身の工藤公康監督らしい。たとえば、この数字を見てもらいたい。

柳田悠岐/3割1分0厘(3割7分9厘)
デスパイネ/2割6分2厘(3割2分6厘)
今宮健太/2割6分4厘(2割9分6厘)
松田宣浩/2割6分4厘(2割8分0厘)
中村晃/2割7分0厘(2割6分3厘)

 左の数字はそれぞれ選手たちの今季の打率で、( )内は得点圏打率を示している。これを見ると、得点圏打率のいい打者が揃っているのがわかる。要するに、”勝負強い”打者が多いということだ。こうした勝負強い打者の特徴は、狙い打ちをしているか、カウント球をうまく打っているかのどちらかである。投手にもよるが、得点圏の場面で初球からウイニングショットを投げるケースがパ・リーグには多く、ソフトバンクの打者はその球を狙い打っているわけだ。そうでなければ、いくら投手陣がいいとはいえ、2割5分9厘のチーム打率で94勝は残せない。

 さて、そのソフトバンクとCSファイナルステージで戦う楽天だが、勝機があるとすればどこなのか。そのカギとなるのは、ソフトバンクの投手陣を打ち崩すというよりは、いかに打線を封じ込めるかだろう。今宮健太や上林誠知など、脇役的な存在の選手でもレベルは高いのだが、それでも「ここに投げておけば大丈夫」というポイントはある。ありきたりな表現になるが、投げミスさえしなければ寸断できる打線である。

 そのなかでポイントに挙げる打者は……本来なら柳田になるのだろうが、CS出場は絶望と聞く。ならば、やはりデスパイネだ。

 そのデスパイネに関して、面白いデータがある。リードしているときの打率は3割6分1厘あるのに対して、リードされているときは2割4分2厘。一概には言えないが、おそらくリードしているときというのは、すでに相手の先発投手が降板し、2番手以降の投手が投げていることが多いだろう。つまり、投手の質が落ちている可能性が高いということだ。35本塁打、103打点は見事だが、リードしてからの数字も存分に含まれているに違いない。そう考えれば、そこまで恐れる心配はない。むしろ、必ず抑えられるツボがあるということだ。

 その弱点は、低めだ。最も三振が多いのは、真ん中低めゾーンの落ちる系のボール。ここをウイニングショットにして、そこまでいかにして追い込めるかだ。ただし、安易に外角のスライダーを投げたらスタンドに持っていかれる。手の届くコースへの配球は細心の注意が必要である。

 むしろ、より厄介なのは、松田宣浩の方かもしれない。おそらく松田はヤマ張りタイプの打者だろう。それも球種ではなくコースを張るタイプ。たとえば、外角の球が2球続けば、次は内角一本に絞る。それがホームランの方向に出ている。

 今季、松田が放った24本塁打のうちレフト方向は16本。もともと広角に打つバッターだが、手堅くヒットを打つときはライト方向に、一発を狙うときにはレフト方向に。つまり、ホームランを狙うときというのは、ある程度決め打ちをしているのだろう。

 その松田に対しては、やはりヤマを張らせないことが最も重要になる。外角を2球続けたあと、もう1球、外に投げ込んでみるとか、いつもと違う攻めをするのも手だ。とにかく打者というのは、配球パターンの変化に敏感である。打者に「あれ?」と考えさせるだけでも十分といえる。松田は乗せると厄介な打者だけに、デスパイネに勝るとも劣らない、”要警戒”の打者になるだろう。

 このように短期決戦ではデータをひとつひとつ潰していくことで、対策が見えてくる。もちろん、ミーティングでもこうした話を中心に相手の対策を立てていくわけだが、戦うのはあくまで選手。CSファーストステージを勝ち上がり勢いに乗る楽天がソフトバンク相手にどんな戦いを見せてくれるのか、楽しみにしたい。
(つづく)

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