全日本大学野球選手権決勝で1失点完投勝利、6日間で323球投じたタフネス 大学日本一を決める全日本大学野球選手権大会の決…

全日本大学野球選手権決勝で1失点完投勝利、6日間で323球投じたタフネス

 大学日本一を決める全日本大学野球選手権大会の決勝が15日に行われ、東北福祉大(仙台六大学野球連盟)が8-1で福井工大(北陸大学野球連盟)を撃破。6大会ぶり4回目の優勝を飾った。エース右腕・櫻井頼之介(よりのすけ)投手(4年)は大車輪の働きで、今秋ドラフト上位候補に浮上した。

「やっと終わった」。試合終了後に櫻井頼が口にした言葉は、偽らざる本音だっただろう。6日間の今大会でチーム5試合中4試合に登板(先発3試合、リリーフ1試合)し、計323球を投じた。決勝は9回118球1失点完投で締め、大会最優秀投手賞を受賞した。

 前日(14日)の準決勝・青学大戦にも先発し、4回途中までに49球を投げ降板していた(3失点)。東北福祉大には最速164キロ右腕の堀越啓太投手(4年)もいるだけに、櫻井頼は「(決勝の先発は)ないだろう」と思っていたと明かす。しかし、山路哲生監督は「堀越の右肩に少し張りがあったという状況もありましたが、(先発投手の選択は)全く迷いませんでした」と全幅の信頼を寄せていた。

 初回から無死二塁のピンチを背負うも、2番打者の投前への送りバントを捕球すると、よどみないフィールディングで三塁へ送球して二塁走者を刺した。その後2死一、二塁となったが、5番打者に対してチェンジアップ、スライダー、フォークを駆使してカウント2-2と追い込み、最後はこの日最速の150キロのストレートを外角低めに決め、見送り三振に斬って取った。

「疲れはありましたが、捕手の伊藤和也(3年)と話し合って変化球を中心に配球した分、疲労は軽減されたと思います」とクレバーな一面もうかがわせる。山路監督は「とはいえ、精神力で乗り切ってくれたと思います」と称賛した。

入学当初から進路はプロ一本「高校時代も育成なら…」

 進路は「プロ一本」に絞っている。山路監督は「高校(愛媛・聖カタリナ学園高)時代も、育成であれば獲ってくれるプロ球団があったようですが、4年間で支配下で指名される投手になれるように、ウチで預かった経緯があります」と明かし、「着実に成長していると思います」と目を細める。

 173センチ、66キロと小柄で細身だが、「球の切れでも球速でも、体の大きい人に負けているとは思わないですし、そもそも大きい人に小さい人間が負けるとも思っていません」と言い切る気の強さでカバーしている。

 東北福祉大は仙台六大学リーグで断トツの76回の優勝を誇るが、昨秋までの最近5シーズンでは4度も仙台大の後塵を拝していた。リベンジを期した今春、櫻井頼が3勝、防御率1.45をマークしMVPに輝く活躍で3季ぶりの優勝に導き、その勢いのまま大学日本一の座に駆け上った。

 圧倒的な馬力を誇るチームメートの堀越(184センチ、96キロ)の方が今のところ、知名度、今年のドラフトの目玉ともいわれる評判で上回るが、実績は櫻井頼の方が一枚上。今大会で抜群のタフネスぶりも証明した格好だ。櫻井頼は「堀越が結構(メディアに)取り上げられていますが、自分も頑張っています」と負けん気を垣間見せる。珍しい名前は「頼りにされる人間になってほしい」との願いを込めて両親が付けてくれたもので、座右の銘が「努力に勝る天才なし」というのも、さもありなん。憧れの野球選手を聞かれ、「いないです」と即答したのは、誰にも似ていない、唯一無二の存在になるという覚悟の表れだろう。

 今月21日から3日間、神奈川県平塚市で行われる侍ジャパン大学代表選考合宿にも、櫻井頼は堀越とともに追加招集された。ドラフト候補生同士の切磋琢磨が佳境を迎えるのは、これからだ。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)