「伝統校」の誇りと歴史を胸に戦う──100年以上の歴史を築きあげている高校野球。その中には幾度も甲子園の土を踏んだが、こ…
「伝統校」の誇りと歴史を胸に戦う──100年以上の歴史を築きあげている高校野球。その中には幾度も甲子園の土を踏んだが、ここ数年は遠ざかり”古豪”と呼ばれる学校も多く存在する。
昨年から導入された低反発バットや夏の甲子園二部制など、高校野球にも変革の時期が訪れようとしている。時代の変遷とともに変わりゆく中で、かつて聖地を沸かせた強豪校はどんな道を歩んでいるのか。『高校野球ドットコム』では名門復活を期す学校を取材し、チームの取り組みや夏に向けた意気込みに迫った。
初出場・初優勝で「桜美林フィーバー」巻き起こす
時代は1976年まで遡る。宇野 勝(銚子商)や原 辰徳(東海大相模)、サッシーの愛称で知られる酒井 圭一(海星)ら、好選手が集結した同年夏の甲子園で頂点に立ったのが桜美林だった。選手権初出場にして優勝。決勝では名門・PL学園に延長サヨナラ勝ち。「イエス イエス イエス」の大合唱とともに、60年ぶりに深紅の優勝旗を東京にもたらした。
かくして「桜美林フィーバー」が巻き起こった。当時は東京駅の駅前にあった都庁から校舎を構える町田市までの優勝パレードに多くの人が列をなした。その後も1970年後半から80年半にかけて聖地を経験。春6回、夏4回の甲子園出場歴を誇るが、2002年夏を最後に甲子園出場に届いていない。
今や西東京の”古豪”の立ち位置だ。同校出身の津野 裕幸監督は「『甲子園に行って欲しい』というファンからの声は届いています。OBの方も多くグラウンドに来てくださいますし、学園関係者も含めて大いに期待をかけていただいています」と話す。2023年秋から指揮を執るOB監督として、母校を率いる重圧に責任を感じながら、約四半世紀離れた聖地への切符を狙っている。
春は「成長」と「悔しさ」を経験
この20年近く、桜美林は苦しい時期を過ごしてきた。夏の大会の成績を見ても、2010年に準々決勝まで進んだが、日大鶴ケ丘に敗戦。その後は2、3回戦で敗退することが多かった。しかし2019年に日大三を倒してベスト4入りを果たすと、21年に4回戦、23年は5回戦進出。22、24年はベスト8に入るなど、徐々に復活の兆しを見せている。
今年のチームは主将の増田 篤暉内野手(3年)、昨年から背番号「1」を背負った沼田 優杜投手(3年)をはじめ、投打に下級生から出場している選手も多く、大きな期待を抱いて新チームは発足した。しかし、秋の東京都大会は初戦の駿台学園戦で9回に3点を奪われサヨナラ負け。早々に姿を消したことで、長い冬を過ごしてきた。
冬は体作りや素振りの練習で量をこなし、基礎を徹底させた。迎えた今年の春季大会初戦、日本学園との試合は主導権を握られながらも、土壇場の9回に同点に追い付き、最後は増田が殊勲打を放ってサヨナラ勝ちを収めた。頼りになる主将は「点を取れない状況でも諦めなかったことで、サヨナラ勝ちをものにできた。秋サヨナラ負けだったところから、春はサヨナラ勝ち。終盤での集中力や粘り強さなど、秋に出た反省点を改善できた」と成長を実感している。
それでも、3回戦では東海大菅生に0対10と完敗。7回コールド負けで明確な力の差を痛感した。
「秋の都大会でサヨナラ負けを喫し、そこから春の大会に向けて取り組んできましたが、東海大菅生さんにコールド負け。また悔しさを味わいました。選手たちも敗因を振り返って、その悔しさを忘れず、日々練習に取り組んでいます」(津野監督)
増田主将も「東海大菅生さんと戦って力の差を感じている。夏までの残りわずかな時間でウェイトなどで鍛えて、力負けしないように頑張りたい」と敗戦を肥やしに夏を見据えている。
選手が練習メニューを考案!生徒からは「練習するのが楽しい」の声
春は練習試合でも結果が振るわないこともあった。そこで指揮官はある施策を打った。
「春季大会を終えてからは、選手自身にメニューを考えさせて練習に励んでいます。最終的にグラウンドで戦うのは生徒たち。色々な状況の中で瞬時にプレーしていく能力を身に付けるのが狙いです。選手たちからも『考えて練習することが楽しい』という声が聞かれます。自分たちで発言、行動ができる子たちになってきました。生き生きと練習に取り組んでいます」
主将の増田は春までに出た課題を見つめ直し、チームメイトに提案したこともあった。
「自分たちは速いボールの対策ができていませんでした。140キロを超えると一発で打てないのが課題でした。試合を通して一球で仕留める重要性や正確性を高めていこうと選手には提案しました」
取材の際には、選手たちは打撃練習で3つの練習場所に分かれてそれぞれの課題に時間を費やしていた。屋外では内野と外野の間に柵を置き、ライナー性の打球を意識した練習、室内ではマウンドより近くから投げられた球を捉える練習、さらにフィジカルトレーニングで筋力アップを目指す練習など各選手が個人の課題に向き合っていた。
創意工夫をこらしながら、強豪ひしめく西東京の頂点を目指す。来年で甲子園制覇から50年。半世紀遠ざかっていた聖地切符を貪欲に掴みに行く。
“名門復活”に向けて必要なことは何か。最後の夏を前に増田主将は言う。
「強豪校は隙のないチームが多い。力強い打球や粘り強い守備もあるので、自分たちが隙を見せると大量失点を許してしまう。夏は隙のない野球を目指した上で、自分たちの打順や役割を理解してプレーしていきたい。チームとしては粘り強さが強み。打撃では一球で仕留めるところや、後に繋いでいくサインプレーなどに磨きをかけていきたい」
津野監督も「先輩方が甲子園初出場初優勝をという大変なことを成し遂げて、そこから『桜美林は野球』と言ってくださいます。何とか皆さんに喜んでいただける試合やプレー、そして甲子園に繋げていければと思っています」と頂点奪取に意欲を見せている。OBが繋いできた歴史と伝統を背負い、桜美林ナインはいざ夏に挑む。