ハンドボールの新リーグ「リーグH」のプレーオフが13日に東京で開幕する。そこで初代女王を狙うのが熊本県山鹿市に本拠を置…

 ハンドボールの新リーグ「リーグH」のプレーオフが13日に東京で開幕する。そこで初代女王を狙うのが熊本県山鹿市に本拠を置く熊本ビューストピンディーズ(BP)。レギュラーシーズン4位に終わり、勝ち続けるしかない3連戦で「下克上」に挑む。

 「チームの存続も危ないかというくらい、いろいろあった」。宇野史織主将は、ホーム最終戦に勝った5月17日、苦しかった戦いを振り返った。

 昨年9月、プロ化を目指すリーグHの開幕に際して、BPは所属選手17人のうち7人とプロ契約を結んだ(現在は選手21人でプロ11人)。

 オムロンの関連会社で引き続き働きながらプレーする選手とプロが混在するチーム。開幕3カ月前に就任した洪廷昊(ホンジョンホ)ヘッドコーチと選手たちの思いがかみ合わない時期もあったという。けがで長期離脱する選手も相次いだ。

 11チームで3回戦総当たり、計30試合の長丁場でBPは18勝3分け9敗の勝ち点39。首位のブルーサクヤ鹿児島(25勝2分け3敗)に勝ち点で13もの大差をつけられた。

 総失点の少なさでは11チーム中2番目の堅守を誇ったが、総得点は765の8位。守備からリズムをつかみ、接戦をものにする――。大柄な選手が少ないチームに、洪ヘッドコーチが一貫して求めたのは攻守の切り替えの速さとスピードだった。

 チームの努力はシーズン終盤に実を結び始めた。ホーム最終戦は3位アランマーレ富山に29―20と圧勝。試合後、チーム存続の危機を口にした宇野主将は、こう続けた。

 「だれもやめずにここまで来られたのは応援してくださる皆さまのおかげ。新加入の選手も含めて可能性のあるチームに成長している。選手みんなが大きく成長してくれたシーズンだった」

 翌週、今季最終戦の相手はブルーサクヤ鹿児島だった。敵地で28―29の逆転負け。プレーオフ初戦でBPが勝てば準決勝で両チームが対戦することが決まっており、ともに手の内を見せられない中での接戦だった。

 プレーオフは13日にBPと5位香川銀行シラソル香川が対戦。その勝者と首位ブルーサクヤ鹿児島、2位北国ハニービー石川と3位アランマーレ富山による準決勝が14日にあり、15日の決勝進出をかけて戦う。(城戸康秀)

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 BPの前身は熊本市にあった大洋デパートのハンドボール部。1960~70年代に国民体育大会(国体)や全日本実業団選手権で優勝を重ねていたが、1973年11月の火災後、立石電機(現オムロン)が引き継いだ。

 76年創設の日本リーグでは通算17回の優勝を誇る。元韓国代表の洪ヘッドコーチも2003~10年に所属。この間、リーグ4連覇を達成している。昨季はシーズン3位でプレーオフ進出を果たしたが、決勝で北国銀行に敗れた。

 リーグH参加にあたってチーム名には「山鹿」や「オムロン」を入れず、熊本ビューストピンディーズに改称。「ビュースト」は「より強く、より美しく」というチームのスローガンの「ビューティフル」「ストロング」を採り入れた。オムロン時代のチーム名「ピンディーズ」も残した。

 一方、ハンドボールは競技人口が少なく、昨年6月には、日本中学校体育連盟(中体連)が、全国中学校体育大会で27年度以降、ハンドボールなど9競技を実施しないと発表した。

 リーグHの各チームがジュニアの育成などに力を入れているが、最大の課題は、入場料収入やグッズ販売につながる集客力アップ。BPの本拠地・山鹿市総合体育館の観客数は、先着1千人限定のシャツを配布した2月22日に1213人に達したが、他は333~843人にとどまる。

 それでも、洪ヘッドコーチは試合後のインタビューで、真っ先に観客への感謝の思いを伝える。「皆さんの声援が支え」。その姿勢は選手たちも変わらない。

 勝田祥子GMは「走り跳び投げるというハンドボールのスピード感と魅力は一度みてもらえれば分かってもらえる」と強調する。

 「たとえ負けていても、最後まであきらめない姿は(子供たちからその祖父母まで)幅広い世代の胸に届くはず」。一戦一戦ひとりでも多く。地道な取り組みが続く。(城戸康秀)