サンティリアンとの打ち合いを見せた那須川。(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext 日本格闘技…

サンティリアンとの打ち合いを見せた那須川。(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
日本格闘技界の“神童”は、とてつもない進化をふたたび証明した。
6月8日、東京・有明コロシアムで行われたWBAバンタム級ノンタイトル10回戦に挑んだ那須川天心(帝拳)は、同級6位のビクトル・サンティリャン(ドミニカ共和国)に判定勝ち。ボクシング転向2年で積み重ねた無敗記録(7勝0敗)を維持するとともに、今年11月に見据える世界初挑戦への切符を掴んだ。
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世界前哨戦――。そんな位置づけで挑んだ今回の一戦は、「減量は、むちゃくちゃ今までで一番順調」と戦前から手応えはあった。まさに万全の状態でリングに立った那須川は圧巻のパフォーマンスを見せつけた。
サウスポー同士の一戦とあって近距離戦の様相を呈した中で、序盤3回でサンティリアンを手数で上回り、主導権を握った那須川。4回には偶然のバッティングから左目をカットするアクシデントはあったが、ほとんど動じず。左右のワンツーを駆使しながら接近戦で確実にダメージを加えると、5回には身体を密着させたところから鈍い音をさせるボディからのフックという連携を繰り出していった。
終盤はKO勝ちを狙って前に出た那須川。対するサンティリアンも劣勢を覆そうと攻勢を強めたことで、両雄が激しく打ち合う展開となった。それでもパンチを貰わないテクニカルな動きを披露した神童はペースを崩さずに勝ち切った。
今年2月の元WBC世界同級王者ジェイソン・モロニー(豪州)との戦いでは、課題としてきたインファイトに臨んだ那須川。3-0の判定勝ちを収めたものの、仕留め切れなかったことを悔やんだ26歳は、そこからショートレンジでの上下の連打、カウンターなどフィニッシュワークを磨き上げてきた。今回の決着は、その驚異的な成長を証明する戦いになったと言える。
「自分の中のボクシングの型が完成しつつあるなっていうのが。やるべきこと、手段が分かったというのがある」
前回のモロニー戦後にそう自信を口にした那須川は、不気味なシングルランカーにも勝ち切った。相手のパンチを見切りながら、手数を多く繰り出し、意地でも仕留めに強打を打ちに出る姿に、ボクシング開始当初の戸惑いは見られない。
打たれ強さも身に着け、よりボクサーらしくなった。ただ……、この日も主導権を掌握しながら相手は倒せなかった。モロニー戦から続く課題が浮かび上がり、7回終了時にはセコンドから「お前、やれんのか?」「気持ちが入ってねぇんだよ」「世界は絶対に無理だからな。練習の半分も出てないぞ!」と発破をかけられた。そうした自陣営から飛んだ厳しい喝も、特大のポテンシャルに対する期待の表れと言えよう。
才覚を随所で示した。それでも「ただのチャンピオンを目指しているわけじゃない」と語る男に求められるのは、やはりKO。そうした周囲の空気も理解する当人は、試合後のマイクで「ここまで上手くいかないかぁって感じ。これが自分の実力なんで。まだ課題はいっぱいありますね。また日々、一歩一歩生きていきたいなと思います」と吐露。それでも「僕は何があっても負けないので。強い選手たちを倒していきたい」と前を向いた。
まだまだ課題はある。それでも「ボクシングに真摯に向き合いたい」と語った那須川だけに、一部でWBO同級王者・武居由樹(大橋)が有力視されている今秋の世界戦への希望も膨らむばかり。その一戦は間違いなく神童の未来を占う“審判の日”となるはずである。
[取材・文/構成:羽澄凜太郎=ココカラネクスト編集部]
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