プロ3年目で非凡な打撃センスは、さらに磨きがかかり、球界屈指のものへと昇華しつつある。(C)産経新聞社「何もいじってない…

プロ3年目で非凡な打撃センスは、さらに磨きがかかり、球界屈指のものへと昇華しつつある。(C)産経新聞社
「何もいじってない」のに打てる 名伯楽も絶賛する打撃センス
大阪桐蔭高校時代には通算38本塁打を放った松尾汐恩。4度経験した甲子園では5発をスタンドに放り込み、史上10人目の2打席連続アーチと高校球界を席巻した。プロ入り後もルーキーイヤーから非凡な打撃センスを発揮し、2年目には二軍ながら打率.326と飛躍。日本シリーズでもヒットを放つなど経験を積んだ。
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迎えた3年目の今季は、開幕から一軍で攻守ともに急激な成長曲線を示している。
トレバー・バウアーを強気なリードで引っ張る守備面では、強肩を武器にした盗塁阻止にも磨きがかかり、ポテンシャルを開花させている。だが、「自分のアピールポイント」と自負するバッティングはやはり別格。3、4月こそ打率.174に留まったが、5月は.452と目覚ましい飛躍を遂げた。
一気に打撃開眼の兆しを見せている松尾だが、本人は「高校時代から変わってないですよ。ナチュラルに打ってますよ」とスタイルの変更はしていないとキッパリと語る。ルーキー時代から「変えることはないよ。やることはもう一緒でいい」と言い続けてきた田代富雄野手コーチも、「(今季も)何も変えていないよ。いじってない」と同調する。
「なかなか教えても難しいことを、普通のバッターより上手くやるんだよ」
そう名伯楽も舌を巻く高校からの非凡な打撃スキル。曰くプロでも即通用する技術とは「バットの芯が身体の近くを通ってくるから、バットが巻き込むように出てくる」と理想的なスイングを可能にするフォームにあるという。
「だからボールを長い時間、見られているんだよね。打てるポイントも多いし、なかなか三振しないのもそこに理由があるよ」
無駄な動きがないからこそ、様々な変化にも崩されない。5月に入ってからの劇的な良化の理由もそこにある。実際、田代コーチも「間隔が開くとどうしても難しいからね。5月から打てるようになったのは突然ってわけではないよ」と単なる慣れの問題であるとアッサリと語る。
ではなぜ、昨季よりも明確に「結果」が出ているのか。そこには本人の野球に対する姿勢が影響している。
「今年のキャンプで話したときに、考え方が変わったと思ったよ。野球に取り組む姿勢が良くなった」
筒香嘉智や内川聖一、多村仁など数々の名打者たちを手塩に掛けてきた。そんな男の「(松尾は)いずれ首位打者も獲れるようなバッターだよ」との言葉には、たまらない説得力がある。

捕手としてもバウアーら主戦投手を強気にリードする松尾。その姿勢もまた評価を高める要因となっている。(C)産経新聞社
村田コーチも証言する天賦の才
その田代コーチを師と慕う村田修一野手コーチも「練習試合やオープン戦の前、最初に見たときから凄いなと思っていましたよ」と、今季からコーチに入った瞬間から、天賦の才を見抜いていたと証言する。
「一番速い真っ直ぐをイメージしながらも、浮いた変化球にも柔らかく“ふにゃ”って付いていけるんですよね。その“ふにゃ”っていうのはあまり上手くできるものじゃないんですけど、あいつはそれが最初からできているんです。なのでバットの振り出しから最後まで長くボールが見られるんですね」
田代コーチと同じポイントに着眼する村田コーチは、「逆球で内側に来たフォークをライトに打ち返せたりする。高めの150キロを超えるストレートでもカチンと当てますしね。あんなにホップ成分の高いボール、普通は空振りしますよ。それはやっぱり柔らかさがあるからですよね」と唸る。
そして、「『真っ直ぐから狙って行きます』って言いながら、初球の抜いたスライダーを打ち抜いたりしますしね。経験が浅いとガチャガチャになったりするもんなんですけど、それもない」と、弱冠二十歳とは思えない地に足のついたプレーにも驚きを隠さなかった。
かくいう村田コーチもキャリアは相当なものだ。現役時代にNPB通算360本の本塁打を放ったレジェンドは、引退後も巨人とロッテで指導者を歴任。まさに球界の酸いも甘いも知る。そんな名手をして松尾は「長野(久義)に似た感じかな」と言わしめる。
長野も2011年にセ・リーグで首位打者を獲得した経験のある好打者だが、二人を比較する理由を村田コーチは、こう解説する。
「構えもあまり変えないままというのも同じだし、後ろが小さくて前がビヨーンって長く使えて。だから安打も生まれるし長打も打てるし。さらにシオンはちょっとずつパワーも付いてきているから、もっと面白いですよね」
さらに松尾が「本当に”漢”です」と心酔し、2年連続で自主トレを共にした戸柱恭孝も「1年目は守備がメインでしたけど、2年目はホップステップで段階を踏んでやりましたね。走攻守でめちゃくちゃ練習しました」と自らとともに愛弟子を追い込んだことを告白。その濃厚な1か月半で「あの子のバッティングは本当に天才的。持っているものが本当に凄い」と図抜けたポテンシャルを実感したという。
プロで名を馳せた数々の猛者も認める松尾の打撃センス。あくまでベースとなるのは、し烈な競争の日々を送った大阪桐蔭高校の1年時に培った打ち方。だが、「試合の中では自分の本能で戦わないといけない」と自分の思うままに任せてスイングするスタイルで勝負するポリシーは変えない。
一方で、前出の“戸柱塾”ではフィジカル強化とともに、メンタル面にも目を向けた。「考えすぎず、目の前の獲物にすべて食らいつくように」とひたすら目をギラつかせていた去年から一転し、「練習の中ではいろいろ考えてやろうと強く思っています」と準備の段階でケースバッティングなどの心持ちを整理するようにマインド切り替えた。それによって松尾は「いろんなケースを意識して、ゲームで引き出しから出せるようにやっている」と冷静な状況判断も武器に加えた。それが打撃にも生きているというわけだ。
投手を支える捕手というポジションは決して容易ではない。その役割を全うしながら、3年目にして頭角を現している松尾。努力を怠らない天才はこの先、とてつもない怪物に変貌を遂げる可能性を秘めている。
[取材・文/萩原孝弘]
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