創部3週間足らずで公式戦初勝利-。野球界でなかなか前例のない出来事が今年、女子野球の世界で起こった。 気になるそのチーム…
創部3週間足らずで公式戦初勝利-—。野球界でなかなか前例のない出来事が今年、女子野球の世界で起こった。
気になるそのチームとは……。過去に春7回、夏11回の甲子園出場を果たした名門・尽誠学園に新設された女子硬式野球部である。
中四国地区の女子硬式野球チームがカテゴリー問わずリーグ戦で戦う「ルビーリーグ」3部A初戦に臨んだ同部は、社会人クラブチームの備前サンラッキーズ(岡山)相手に12安打を放っての6対2で快勝したのである。
尽誠学園女子硬式野球部はなぜ、そのような快挙を達成することができたのか。「昨年、同好会として活動していた時にしっかりやってくれた現3年生2名の力が大きいです」と語るのは、同部の初代監督を務める青山 剛氏である。
基盤づくりとSNS戦略などで「女子野球同好会」2名から23名に
2020年夏の甲子園高校野球交流試合では野球部コーチとして智弁和歌山(和歌山)相手に8対1と快勝を遂げるサポート役を務めた青山氏。その後は2021年度限りで野球部を離れ主に顧問として男女バレー部や陸上競技部に関わっていた。他競技からの知見を学び取っていた最中、転機が訪れたのは2024年のことであった。
野球部監督としては2007年夏に甲子園出場、男子バスケットボール部トレーナーとしても元NBAプレーヤーの渡邊 雄太(現B1千葉ジェッツ)の成長期に関わった下山 優校長から持ち掛けられた「女子硬式野球部の創設はどう?」という提案。2つ返事で応え、2024年4月、正式創部の準備段階として同好会がスタートしたものの、これまで高校女子野球部が皆無だった香川県で苗を植え、水をやるのは困難を極めた。
それでも最終的には「中学校時代は香川オリーブガールズで軟式野球を経験していて、JRC部と茶道部との兼任でやってもらっている」(青山監督)主将の近藤 梨菜さんと、「野球経験はまったくなくて、インスタでの投稿を見て面白そうだから来てくれた」西條 帆乃香さんの2年生2人が初代メンバーとして参加することに。看護科実習などで多忙を極め、最高学年となった現在は練習参加がなかなか叶わない2人であるが、彼女たちの存在は間違いなく尽誠学園女子硬式野球部の礎となった。
そんな2人に野球の基本を指導しつつ、学校グラウンドに加え、善通寺市営球場、レクザムボールパーク丸亀、連携包括協定を結んだ四国学院大硬式野球部グラウンドでの週1回ずつの練習場所の確保、さらに女子専用の「桜楓寮」新設など学校側の大きなサポートも受けながら、2025年度新規入学者へ女子硬式野球部の新入部員募集をかけた青山氏。ここで活きたのが藤井(香川)野球部での監督経験や、尽誠学園で培った人間関係や宣伝手法であった。
SNS戦略は藤井時代のブログからインスタグラム中心に方向性を変え、広く活動内容を紹介。さらにチーム同士の結び付きが強い女子野球部の特性も理解し、香川オリーブガールズとの関係性を発信源にリクルートに尽力。結果、香川県のみならず中四国、関西地区から21名の新入生が集結することとなった。
さらにSNS戦略は副産物も生み出した。現在顧問の𠮷村 亘冬氏は他校での教師時代にSNSを目にし、一念発起しして4月から尽誠学園に転籍。現在は技術指導ばかりでなく、自らの得意分野であるメンタルトレーニングでも選手たちによき影響を与えている。
理解力高き選手たちで1年目からの快進撃へ

こうしして晴れて今年4月、23名で創部の時を迎えた「尽誠学園高校女子硬式野球部」。4月9日、レクザムボールパーク丸亀での初練習を前に青山監督が選手たちに与えた課題は1つだけだった。
「紅白戦をしますので、それができる準備をしといてください」
その理由は初日から紅白戦をしても問題ないほど「理解度が高い」選手がそろっているから。1年生21人が参加した4月16日の練習、紅白戦を見ても、その片鱗はそこかしこにうかがえた。
昨年、主将として全日本中学女子軟式大会の頂点に輝いた千葉 如乃さん(兵庫レッドガールズ出身)が「巨人の甲斐 拓也に憧れている」と扇の要として制球力ある複数投手をコントールすれば、山本 莉子さん(小豆島アカデミー出身)や和氣 永佳さん(マドンナ愛媛ジュニア出身)などは男子選手顔負けの俊足を披露。新設チームに多々課題が見られる守備面でも「全員が1個1個のプレーを確認していることで、紅白戦でのミスも減っている」と和氣さんも話す通り「ナイスジャッジ!」などコミュニケーションを図りながら質を上げていく姿が随所に見られた。
そして何よりも印象的だったのが選手全員からあふれる向上意欲。取材日も「中学時代は男子と一緒にプレーしていたが、高校でも野球を続けて親に恩返ししたいと考えていたところ、青山先生に声をかけて頂いて」と真っ先に尽誠学園女子硬式野球への進路を選択した森 睦稀さん(香川中央シニア出身)をはじめ、全員が青山監督が止めるまでボールを追い続けていた。これには「これはいいチームになりますよ」と指揮官は心からの笑顔を見せた。
「愛されるチーム、部員」として、不屈の精神で日本一へ向かう
かくして「野球を通じての人間形成、誰からも愛される野球部・野球部員」を目的にしつつ、選手たちから発案のあった日本一を掲げて前に進もうとしている。
持ち前の行動力で5月25日(日)には全国屈指の強豪・履正社(大阪)のBチームとの練習試合を組んだ。青山監督は、6月8日(日)にレクザムボールパーク丸亀を使用し、現在4チームある四国地区高校野球女子チームが一堂に会しての「第1回女子野球四国交流大会」開催を緊急決定。
現在、四国の女子高校野球部は2021年に全国高等学校女子硬式野球選手権で「甲子園決勝」を経験した高知中央がトップを走り、そこに室戸、新田(愛媛)、尽誠学園が続く構図である。今大会でまずそこに風穴を開けるべく、野球部と同じユニフォームの誇りと、右袖に付けるフェニックスのごとき不屈の精神をもって闘いにいく。