スポーツをしていると、体が疲れる、骨を痛めた、試合のプレッシャーに落しつぶされそう……など、さまざまな悩みに直面します。その悩み、漢方で治すという手もあるそう。漢方とスポーツの関係を2回に渡ってリサーチする本企画。前回に続き、今回は「体作…

 スポーツをしていると、体が疲れる、骨を痛めた、試合のプレッシャーに落しつぶされそう……など、さまざまな悩みに直面します。その悩み、漢方で治すという手もあるそう。漢方とスポーツの関係を2回に渡ってリサーチする本企画。前回に続き、今回は「体作り」という観点から、漢方薬について考えます。

 お話をうかがったのは、中国の上海中医薬大学で中医学を学んだのち、漢方薬局での漢方相談や、漢方セミナー講師の経歴を持つ、クラシエ製薬・居原田耕平さんです。

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漢方において「体作り」は「気」を増やすこと

▲取材に応えてくださったクラシエ製薬・居原田耕平さん

 今回のテーマである「体作り」は、「疲労」と密接な関係があります。

「痛み」は、自分で誤魔化したり、我慢したりするのはなかなか難しく、何らかの対処が必要になりますが、「疲労」の場合、人間はこれを脳の働きで誤魔化したり、ないものにしたりすることができるそうです。しかし実際には、疲労はたまっており、体を動かす力や何かをする気力もなくなってきます。

 漢方では、疲労を「気」の流れが悪い、「気」が足りない状態と考えています。「気」とは、人間の目、鼻、口、皮膚などを通じて外界と出入りし、体内では血液と同じく循環する、目に見えないが体を支えるすべての原動力です。病気は気の異常や、気の停滞から起こると、古くから考えられてきました。

 したがって、漢方で「体作り」を考えるとすれば、「気」を増やすこと、と言い換えられるのではないかと思います。


体力、抵抗力をつける「補中益気湯」

その名もズバリ「気」を「益す(ます)」と書くのが「補中益気湯」(ほちゅうえきとう)という漢方薬です。

「補中」の「中」は、漢方で人間の体をつかさどる「五臓」のうちの「脾(ひ)」(お腹=胃腸周辺)を指します。「脾」は、食べ物の消化吸収と、食べ物の栄養素を体内の「気」と結びつける働きをしていますので、「補中益気湯」は「脾」の働きを助けて「気」を増やす薬ということですね。


 実際「補中益気湯」を飲みますと、胃腸の運動がよくなって、食べ物が食べられるようになります。食べ物の栄養から、体を動かすエネルギーである「気」を作ってくれて、病気に対する抵抗力が上がり、疲労回復につながっていきます。

▲配合されている生薬のひとつ「人参(にんじん)」

 ちなみに私は以前、花粉症だったのですが「補中益気湯」を2ヶ月ほど飲んで、花粉症がなくなりました。もちろん各人の体の状態を見なければ、一概に、この薬がいいとはいえないのが漢方ですが、私の場合は「補中益気湯」で体の抵抗力が上がりました。


骨を強くする「八味地黄丸」

 直接的に「骨だけを強くする」という考え方は、漢方にはないのですが、先ほどいった人間の「五臓」のなかの「腎」(腎臓)の働きのなかに「髄を生じ、脳に通じ、骨を主る(つかさどる)」という考え方があり、「腎」は骨と関わりがあるとされているんです。


▲配合されている生薬のひとつ「地黄(じおう)」

 「腎」がしっかりしていれば骨もしっかりし、歳をとって腎が弱まると、骨も弱くなる。そう考えますと「腎」の働きを助ける薬である「八味地黄丸」(はちみじおうがん)や「六味地黄丸」(ろくみじおうがん)、また前回「腰痛、しびれに効く」薬として紹介した「牛車腎気丸」(ごしゃじんきがん)などは、腎の力を益すことで、骨をしっかりさせるということができるだろうと思います。

 ただ漢方の効用はゆっくりとしていますので、この薬を飲めばすぐに骨が強くなるというわけではないことは、留意してください。


基礎代謝を上げる「防已黄耆湯」

「防已黄耆湯」(ぼういおうぎとう)は「脾」に働いて、胃腸の消化吸収を助けながら、体が処理できずにいた余分な「水」(すい・脂肪などもこれに含まれる)をとり除いてくれる漢方です。胃腸がきちんと働くことで、気が補われて、基礎代謝といわれるような全身の機能を高めてくれます。

 胃腸の機能が整えられることにより、体に必要なエネルギーを作り出し、それを全身に巡らせ、消費できるようになります。また余分な水分を排泄することで、体をひきしめ、水太りやむくみが改善されます。


▲配合されている生薬のひとつ「防已(ぼうい)」

 また、先ほど紹介した「補中益気湯」も、気を補い、体に必要なエネルギーを作り出して病気への抵抗力をあげ、全身の機能を高めてくれるという意味で、ここに含めていいかもしれません。

 ダイエット効果が高い処方として「防風通聖散」(ぼうふうつうしょうさん)もよく知られていますが、こちらは胃腸、心臓、腎臓などは正常で、体に溜まった余分な水分、脂肪、便などを排出する薬です。「気を補う」という働きはありませんので「防已黄耆湯」や「補中益気湯」とは区別しています。


ストレスに強くなる「半夏厚朴湯」

 スポーツで結果を求められるような場面に感じるプレッシャーや不安感に効果のある漢方として「半夏厚朴湯」(はんげこうぼくとう)があります。

 漢方では、「気」がうまく巡らないことや、「血」(けつ・全身の組織に栄養を与えるもの)が不足したり過剰になったりすることが、不安や緊張の原因だと考えています。


▲配合されている生薬のひとつ「半夏(はんげ)」

 ストレスで気の巡りが滞ると、のどの部分が詰まったような違和感を感じますが、漢方ではこれを「梅核気」(ばいかくき)、西洋でも「ヒステリー球(きゅう)」と呼んで説明してきました(レントゲンを撮っても、何も映らないのですが)。

「半夏厚朴湯」は気の巡りをよくし、「梅核気」というのどのつかえを流れるようにして、ストレスからくる首・肩の力み、震えといった不安感を改善します。『緊張してしまって、試合で十分に力が発揮できない』『焦ってしまう』『言葉が詰まって出なくなる』というような人は、落ち着けるようになると思います。

 スポーツからは外れるかもしれませんが、仕事や人付き合いからくるストレス・不眠に効果がある薬に「柴胡加竜骨牡蛎湯」(さいこかりゅうこつぼれいとう)があります。疲労やストレスがたまると脳が興奮して体が熱くなったり、夜眠れなくなったりしますが、「柴胡加竜骨牡蛎湯」は、気の巡りをよくすることで、体にこもった熱を冷まし、イライラを解消してくれる薬です。


漢方に興味を持ったらドラッグストアや専門薬局へ

 漢方薬を使ってみたいと思ったら、やはり自己判断ではなく、最初はドラッグストアの薬剤師や登録販売者に、どの薬が自分にふさわしいか相談することをオススメします。漢方を扱うストアには「漢方はじめてブック」というものが置いてありますので、それを見るとより詳しい情報を知ることができます。

 本格的に漢方を学びたい方は漢方専門薬局に訪れてみてください。漢方専門薬局は、入り口が仰々しくて、敷居が高い感じがしますが、いったん店に入ってしまえば、私のような話好きの人が丁寧に相談に乗ってくれるはずですよ(笑)。

[監修者プロフィール]
居原田耕平(いはらだ・こうへい)
1996年より上海に渡り、1998年より上海中医薬大学にて中医学を5年間学び、卒業。中医学士。帰国後、漢方薬局・ドラッグストアなどで、漢方相談・接客を行なう。2010年「登録販売者」資格を取得。2011年、クラシエ製薬株式会社に入社し、学術部を歴任。店舗向け漢方セミナーなどで講師を担当する。現在は、クラシエ製薬マーケティング部販促宣伝部・クラシエホールディングス広報部にて、漢方の普及につとめる
クラシエ公式サイト:http://www.kracie.co.jp/

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<Text & Photo:岸田キチロー/Photo:Getty Images>

 

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