今季のWEリーグ(日本初の女子プロサッカーリーグ)が終了した。最終節までもつれた優勝争いを制したのは、日テレ・東京ベレ…

 今季のWEリーグ(日本初の女子プロサッカーリーグ)が終了した。最終節までもつれた優勝争いを制したのは、日テレ・東京ベレーザだった。かつての「絶対女王」は、いかにしてWEリーグ初優勝を成し遂げたのか。その舞台裏をサッカージャーナリスト後藤健生が明かす!

■大きな武器となった「攻撃」

 男子のトップチームの東京ヴェルディでも、2022年に就任した城福浩監督が意識改革を行って、激しい攻防や1対1の強さを追求。一昨シーズン、久しぶりにJ1昇格を成し遂げ、昨年は多くの人々の予想を覆して6位進出を果たしてみせた。

 日テレ東京ヴェルディベレーザでも、城福監督より1年遅れて就任した松田岳夫監督が同じようなことを行ったのだ。

 ちなみに、城福監督と松田監督は同じ1961年生まれで、1980年代にはともに富士通サッカー部(川崎フロンターレの前身)でプレーした。

 松田監督は、ウィングバックやサイドバックからのアーリークロスを多用させることから意識改革に着手した。今シーズンの初めまでは、鈴木陽という高さや強さのあるセンターFWタイプの選手も起用しており、鈴木をターゲットとしてクロスを上げる攻撃が目立っていた。

 鈴木はその後退団して韓国の仁川現代製鉄レッドエンジェルズに移籍したが、サイド攻撃は最後まで松田監督のベレーザの大きな特徴の一つとして大きな武器となっており、最終節のジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦で右サイドの山本柚月が2ゴールを決めたのは、その象徴的な出来事だった。

■先発の「平均年齢」は22.18歳

 ベレーザが、この数年間苦しんでいたもう一つの原因は、選手たちの海外流出だった。

 男子サッカーと同じく、女子でも日本代表クラスの選手たちは相次いで欧州や米国のクラブに移籍している。いまでは、日本代表(なでしこジャパン)で先発する選手たちの半数以上が海外クラブに所属している。そして、海外移籍の年齢が低下していることも、男子と共通の流れとなっている。

 とくに、ベレーザの場合、海外流出の流れは激しい。

 マンチェスター・シティで大活躍している長谷川唯清水梨紗や藤野あおば。2023年の女子ワールドカップで得点王に輝いた宮澤ひなた(マンチェスター・ユナイテッド)、籾木結花レスター・シティ)、植木理子(ウェストハム・ユナイテッド)らは、すべてベレーザ出身者だ。

 こうして優秀な選手が次々と離脱する一方、ベレーザの場合、下部組織であるメニーナ(U-18)から、さらに若い年代の選手が次々と供給される流れになっている。

 そのため、最近のベレーザは、数人のベテラン選手以外は20歳前後の若手が多いチーム構成となっている。たとえば、最終節の千葉L戦の先発11人の平均年齢は22.18歳だった。

 ライバルのI神戸でも昨年夏には北川ひかるがスウェーデンのヘッケンに、また今年の2月には守屋都弥がアメリカのエンジェル・シティにそれぞれ移籍したが、それでもDFの三宅史織や土光真代、MFの成宮唯、FWの高瀬愛実のような日本代表で活躍したベテランがチームを固めており、また、外国籍選手も活躍している。

 また、三菱重工浦和レッズレディースは大ベテランの安藤梢を筆頭に、ベテランから中堅、若手までがバランスよくそろっている。

■初優勝の「最大の要因」は…

 これに対して、ベレーザの監督はシニアでのプレー経験の少ない若手選手を、さまざまなポジションで試し、個人を成長させながらチームの成績に結びつけなければならないのである。

 松田監督は、若手選手をさまざまなポジションで、さまざまに組み合わせてテストしながら、“最適解”を見つけることで選手個々も、チームも成長させてきた。

 そうした試行錯誤の中で、センターに30歳のベテラン村松智子を置き、左のストッパーに中堅24歳の松田紫野、右には21歳の若手、坂部幸菜という年齢構成の3バックを完成させ、ボランチも24歳の菅野奏音と18歳の眞城美春で固定した。

 この3バックとボランチ2人の合計5人。チームの中核となるポジションを固定できたことは、初優勝を達成できた最大の要因だった。

 菅野は、パス出しのうまさには定評のあるMFだったが、今シーズンはさらに成長した姿を見せた。

 ゲーム展開やボールの位置に応じて、常にポジションを修正しながらプレーできるようになったことで、攻守にわたってチーム全体を動かせる選手に成長した。WEリーグの中では、浦和Lの中盤を支え続けている柴田華絵(32歳)のような存在になっていくのかもしれない。

 実際、最終節のジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦での菅野のパフォーマンスは素晴らしいもので、2ゴールを決めた山本ではなく、菅野こそがMVPだったような気がする。

いま一番読まれている記事を読む