5月18日、川崎フロンターレの選手が新しい取り組みを始動させた。在籍9年目となる家長昭博がホームゲーム7試合にそれぞれ…
5月18日、川崎フロンターレの選手が新しい取り組みを始動させた。在籍9年目となる家長昭博がホームゲーム7試合にそれぞれ41人を招待する企画「AKI41 スペシャルシートwithインフォマート」を実施すると発表していたが、セレッソ大阪との試合でそれがついに具現化したのである。
「川崎に何か還元できたら」
家長は麻生グラウンドでそう話し、「川崎に何か還元することはけっこうずっと考えていた」とも明かすが、そのきっかけについて「(森谷)賢太郎が戻ってきたことがきっかけです」と説明していた。森谷賢太郎さんはかつて選手としてこのクラブでプレーしていたが、引退して今季から強化部スタッフに就任。クラブを通じて、「強化部と事業部をつなぐ役割「事業部連携担当」として、クラブ、選手、行政やパートナー企業の皆様、地域の皆様、そしてファン・サポーターの皆様をつなげていくために尽力していきたい」とコメントを発表していた。
その意気込み通りに、選手の考えていることを見事に具現化。クラブと街を、選手とサポーターの潤滑油になってみせた。
■「選手の思いを形にするのは楽しい」
森谷さんが今回の企画で見せた働きは幅広い。選手の意見を聞いてから、クラブ内外でさまざまな協力を得られるように奔走した。さらに、家長が招待者にプレゼントするグッズ製作にもアイデアを出し、その際にはユーチューブにも出演した。
いざ招待するとなった18日には、子どもたちをアテンド。喜びと興奮でなかなかまとまりきれない中で、一つ一つ丁寧に説明してはグッズを手渡し、そして、思い出に残るように言葉を発していった。
子どもたちの中にはもらったばかりの特製トートバックを森谷さんに差し出して「サインして!」とねだる子も大勢いた。しかし森谷さんは、「せっかく家長選手からもらったんだから、もったいないよ」とゆっくりと話しかけ、別の物にサインしてあげていた。今も人気を誇る元選手ではあるが、今はスタッフ。立てるべきは選手であると、その行動が雄弁に物語っていた。
そんな森谷さんに聞けば、「選手の思いを形にするのは楽しい」と笑顔を見せる。そして、「自分一人でやったわけじゃなくて、森澤くん(=クラブ広報)とかが手伝ってくれた。みんなで実現にこぎつけたので、サッカーと同じです」とも語ってみせた。
■半年間ですでに大きな存在感
今季からスタッフとして活動する森谷さんは、麻生グラウンドでもよく見かける。練習の輪に入ることもあれば、周囲から見守ることもある。空いている時間を見つけて選手とチームメイト同士のように近い距離感で談笑することもあれば、竹内弘明強化本部長や長谷部茂利監督らと真剣な表情で話し込むこともある。さまざまなものを結び付けるという役割において、そのポジショニングはとても有益に見える。
サウジアラビア・ジェッダで行われたACLEファイナルズでは、チームの決勝進出決定後に負傷した選手らとともに渡航。遠く日本から見守っていた選手のそばに寄り添いながら、時間を過ごしていた。日本帰国時にも、選手とクラブの間に立って優しく見守っていた。
18日のイベント時に森谷さんに「この役割になって、最初の大きな仕事ですね」と聞くと、「そうでしたっけ……」とここまでの半年間を振り返っていたのだが、その時にハッとした思いがあった。
森谷さんの仕事は、今回の「AKI41 スペシャルシートwithインフォマート」のように大きく表に出ることもあるだろう。一方で、人と人、あるいは街や組織をつなぐように、目に見えないものも多いのである。心やつながりは数値には表せない。そして、近くで森谷さんの動きを見ていれば、クラブやチームに有形無形の多くのものを与えていることが伝わってくる。その存在が、このクラブを大きく育てる。
(取材・文/中地拓也)
【その16「対戦相手」に続く】