過去2年のシーズンMVPは、いずれも投票者全員が1位票を投じる満場一致で決まった。 2023年のア・リーグとナ・リーグは、大谷翔平(当時ロサンゼルス・エンゼルス)とロナルド・アクーニャJr.(アトランタ・ブレーブス)、2024年はアーロン…
過去2年のシーズンMVPは、いずれも投票者全員が1位票を投じる満場一致で決まった。
2023年のア・リーグとナ・リーグは、大谷翔平(当時ロサンゼルス・エンゼルス)とロナルド・アクーニャJr.(アトランタ・ブレーブス)、2024年はアーロン・ジャッジ(ニューヨーク・ヤンキース)と大谷(ロサンゼルス・ドジャース)がそれぞれ選出された。
大谷は2021年も、満票でMVPに選ばれている。ジャッジが初めて受賞した2022年は、30人の記者のうち28人がジャッジを1位とし、あとのふたりは大谷を挙げた。
彼ら3人のうち、アクーニャJr.は今シーズンの開幕を迎えていない。順調にいけば5月後半に復帰できそうだ。
大谷翔平は今季もホームランを量産中
photo by AFLO
一方、ジャッジは三冠王を本当に達成するのではないかという勢いを見せている。まだシーズン序盤とはいえ、可能性は低くないほどのレベルだ。そうなれば今年もMVPを手にするのは間違いない。三冠王はさておき、MVPはすでに独走態勢に入りつつある感も漂う。
大谷も3年連続MVPに向けて、順調なスタートを切っている。5月6日には誰よりも早く、ホームランと盗塁で「10-10」に到達した。
ただ、ジャッジと違ってここまでのMVPレースにおいて、大谷は独走しているように見えない。大谷の3年連続MVPを阻むかもしれない選手が、今シーズンは少なくないからだ。
大谷とともにMVPレースの先頭集団を形成している選手のなかで、特に強力なライバルとなりそうなのは、フェルナンド・タティスJr.(サンディエゴ・パドレス)、カイル・タッカー(シカゴ・カブス)、ピート・アロンソ(ニューヨーク・メッツ)だろう。
この3人は、いずれもパワーがある。メジャーリーグ1年目の2019年に53本塁打を記録して本塁打王に輝いたアロンソは、短縮シーズンの2020年を除くと30本塁打を下回ったシーズンがない。タティスJr.のシーズン30本塁打以上はメジャー5年間で1度ながら、2021年に42本のホームランを打ってタイトルを獲得している。
昨オフのトレードでヒューストン・アストロズから移籍したタッカーは、2021年と2022年の30本塁打が最多だが、昨シーズンは78試合で23本塁打を記録した。出場試合の少なさは、6月3日に自打球が右のすねに当たって3カ月の離脱を余儀なくされたからだ。その時点の19本塁打は、ジャッジと2本差のリーグ2位タイに位置していた。
【スラッガー有利のMVPレース】
2021年以降にMVPを受賞した延べ8人は、いずれもそのシーズンに35本以上のホームランを打っている。ルイス・アラエス(パドレス)のようなパワーのない選手は、バッティング以外がよほど優れていないかぎり、MVPを手にするのは難しい。
アラエスは、直近3シーズン連続で首位打者を獲得している。2023年と2024年は200安打以上だ。だが、ホームランは2023年の10本が最も多く、ふたケタ盗塁のシーズンは皆無。守備もうまくない。過去3シーズンのMVP投票の順位は、13位、8位、18位だった。
1位票のみならず、2位票と3位票と4位票も、アラエスは獲得したことがない。MVPの投票は、30人の記者が1位から10位までの選手を列記する。その順位に応じたポイントの合計で最も多い選手が、MVPを受賞する。
たとえば昨年のナ・リーグは、受賞した大谷が1位票(14ポイント)×30人=420ポイントで、次点のフランシスコ・リンドーア(メッツ)は2位票(9ポイント)×23人+3位票(8ポイント)×7人=263ポイントだった。4位票以降は順位が下がるごとに1ポイントずつ減っていく。
話を戻すと、タティスJr.とタッカーはパワーに加えて、ここまで記録している.380前後の出塁率からわかるように、打席の質も高い。またふたりとも、走塁とライトの守備も優れている。
一方、アロンソは好守の一塁手とは言いがたく、走者としての貢献度も低い。ただ、今シーズンの打率と出塁率は例年にない高さで、5月15日時点の打率.311と出塁率.421は、リーグ7位と4位だ。
昨シーズンまでの通算が打率.249、出塁率.339だったことからすると、数値は次第に低下していくかもしれない。だが、打率はともかく出塁率は高水準を維持してもおかしくない。今シーズンの四球率14.3%は通算より4%以上高く、パワーを損なうことなく打席の質を向上させている。
【2年連続「40-40」達成すれば......】
彼ら以外では、PCAことピート・クロウ=アームストロング(カブス)、コービン・キャロル(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)、ヘラルド・ペルドモ(ダイヤモンドバックス)の「25歳以下3名」も先頭集団に加わっている。
PCAのセンターの守備と、ペルドモの遊撃の守備は、どちらもトップクラス。キャロルは2年前にルーキー史上初の「25-50」(25本塁打・54盗塁)を達成して新人王を受賞した。リンドーアやカイル・シュワーバー(フィラデルフィア・フィリーズ)にフレディ・フリーマン(ドジャース)らは、MVPレースでその後方につけているといったところだろう。
そしてあとひとり、見逃せないのはフアン・ソト(メッツ)だ。4月末までの31試合で打率.241・出塁率.368に対し、5月最初の10試合は打率.282・出塁率.383。これだけでは復調と断言できないものの、8本塁打中5本塁打は5月に入ってから打っている。
メッツの3人は、相乗効果も考えられる。リンドーア、ソト、アロンソはラインナップの1〜3番に並んでおり、昨シーズンのソトはヤンキースでジャッジの直前の2番を打っていた。このパターンからすると、ソトの調子が上がることで最も恩恵を受けるのはアロンソかもしれない。昨年のMVP投票において、ジャッジとソトは1位と3位に位置した。
それらの状況を踏まえて、大谷である。投手として復帰すれば、一気にライバルを引き離す可能性も高いだろう。もっとも、復帰時期は未定だ。ドジャースが急がせることはないと思われる。ローテーションにケガ人が出ているものの、投手・大谷がいなくてもドジャースは勝ち進んでいる。
また、投手として登板しなくても、あるいは復帰後の投球が思ったほどよくなくても、大谷のMVPはあり得る。
昨シーズンは史上初の「50-50」を達成し(54本塁打・59盗塁)、走攻守・投のうち、守と投はなしで、指名打者として史上初めてMVPを受賞した。今シーズンのここまで、それと同じだ。2度目の「50-50」は言うまでもなく、「40-40」を2度達成した選手もいない。2シーズン続けて「40-40」なら、そのインパクトは小さくない。
もし、大谷が今年もMVPを獲得すれば、受賞4度も、3年連続受賞も史上ふたり目となる。いずれも4年連続受賞(2001年〜2004年)、7度受賞のバリー・ボンズに次ぐもので、他の受賞選手は3度以下だ。
大谷は今シーズン、ボンズに次ぐ偉業を成し遂げられるか。