かつて、海外遠征馬の帰国初戦というのは凡走することが多かったが、最近はだいぶ少なくなっている。それは、日本のホースマンたちの努力とノウハウの蓄積によるものだろう。 とはいえ、海外遠征では長距離輸送と検疫など、それまでと違った環境下に長時間…

 かつて、海外遠征馬の帰国初戦というのは凡走することが多かったが、最近はだいぶ少なくなっている。それは、日本のホースマンたちの努力とノウハウの蓄積によるものだろう。

 とはいえ、海外遠征では長距離輸送と検疫など、それまでと違った環境下に長時間置かれることになる。競走馬にとって、その負担の大きさは昔も今も変わらない。

 その意味では、海外遠征馬の帰国初戦は少なからぬリスクが常にはらんでいると言っても過言ではないだろう。

 そして今週、春のGIシリーズでは上半期の女王決定戦となるGIヴィクトリアマイル(5月18日/東京・芝1600m)が行なわれるが、1番人気が予想されるアスコリピチェーノ(牝4歳)には、その懸念がある。


ヴィクトリアマイルでGI2勝目を狙うアスコリピチェーノ

 photo by Sankei Visual

 アスコリピチェーノは昨秋、オーストラリアへ遠征して初の海外競馬に挑んだ。オープンのゴールデンイーグル(11月2日/ローズヒルガーデンズ・芝1500m)に参戦。環境の違いや極端なトラックバイアスなどに苦しんで、自身初の馬券圏外となる12着と惨敗を喫した。

 しかしその後、年が明けてから臨んだサウジアラビア遠征では本領を発揮。GII1351ターフスプリント(2月22日/キングアブドゥルアジーズ・芝1351m)に出走し、同じ日本調教馬のウインマーベルとの叩き合いを制して勝利を飾った。

 そうして迎えるのが、今回のヴィクトリアマイル。昨年の同レースでは、ドバイ遠征帰りのナミュールが2番人気の支持を裏切って8着に沈んでいるが、アスコリピチェーノはナミュールの二の舞を踏む危険はないのだろうか。

 関西の競馬専門紙記者はこんな見解を示す。

「ドバイとサウジアラビアで行なわれる国際競走の開催日程には1カ月の差があります。3月開催のドバイよりも、2月開催のサウジアラビアのほうが間隔は空いていますから、その後の調整にはゆったりと時間が取れます。その分、(昨年の)ナミュールと同じようなことにはならないと思います」

「ただ......」と言って、専門紙記者はこう続けた。

「アスコリピチェーノはサウジアラビアでの一戦でかなり頑張りましたからね。ゴール前まで、相当な距離をウインマーベルと競り合って、勝ち時計も速かった。つまり、海外遠征の帰国初戦ということより、この"頑張った"ゆえの反動がないかどうか、そっちのほうが心配されます」

 専門紙記者のこの指摘について、参考になりそうな例がひとつある。それは、2022年、2023年と2年連続でGI安田記念(東京・芝1600m)を制したソングラインのケースだ。

 同馬は、連覇を遂げた安田記念の前の2戦において、2年とも同じローテーションで挑んでいる。サウジアラビアの1351ターフスプリント→ヴィクトリアマイルというローテである。まさしく今年のアスコリピチェーノと同じローテだ。

 それぞれの結果を見てみると、2022年は1351ターフスプリント1着、ヴィクトリアマイル5着。2023年は1351ターフスプリント10着、ヴィクトリアマイル1着。前者を勝った年は後者で敗れ、前者で敗れた年は後者で勝利している。

 馬自身の状態や相手関係などいろいろな要素が絡むため、一概には言えないものの、この相関関係は気になるところだ。なにしろ、アスコリピチェーノに当てはめれば、今回のヴィクトリアマイルは厳しい結果が予想されるからだ。

 先述の専門紙記者によれば、アスコリピチェーノは今回、通常放牧先から2週間くらいで厩舎に戻されるところを、それよりも早く帰厩させられたという。それだけ、陣営がサウジアラビアでの一戦のあとの、アスコリピチェーノの体調の変化に気を遣っているということだ。

 その点について、専門紙記者は「よく言えば、それだけ入念に調整している、とも取れますが、少しうがった見方をすれば、サウジアラビアで頑張りすぎた反動がそれほど大きかった、と取ることもできます」と、含みのある言い方をした。アスコリピチェーノへの不安は膨らむばかりだ。

 そうは言っても、GI阪神ジュベナイルフィリーズ(阪神・芝1600m)で戴冠を遂げて、GI桜花賞(阪神・芝1600m)、GINHKマイルC(東京・芝1600m)ではともに2着と奮闘。国内では6戦4勝、2着2回と連対を外したことがないアスコリピチェーノ。この実績は、好メンバーが集った今回のヴィクトリアマイル出走メンバーにあっても、最上位と言える。

 また、ある競馬関係者は「昨年の今頃は、完成度の高い馬ゆえ、伸びしろとなるとどうだろうか、と見ていました。でも、今も明らかに成長を続けています。そうした状況を踏まえると、ここもあっさり勝っても不思議ではありません」と、きっぱり言った。

 アスコリピチェーノは今回の女王決定戦を制して、さらにもう1段、名牝への階段を上がることができるのか、注目である。