春と夏では「勝てるチーム」が違う 夏の大会のシードを争う春季大会が各地で開催され、地方大会の出場校も決まってきた。過去、夏の甲子園で上位に勝ち進んだチームと、センバツで勝ち進んだチームを比較すると、「勝てるチーム」の条件は異なる。 まず、セ…
春と夏では「勝てるチーム」が違う
夏の大会のシードを争う春季大会が各地で開催され、地方大会の出場校も決まってきた。
過去、夏の甲子園で上位に勝ち進んだチームと、センバツで勝ち進んだチームを比較すると、「勝てるチーム」の条件は異なる。
まず、センバツでは「必勝パターン」を確立したチームが勝ち進むケースが多い。今年のセンバツ上位校がそうだ。
優勝した横浜は152キロ右腕・織田 翔希投手(2年)、146キロ左腕・奥村 頼人投手(3年)の必勝リレーを見せた。
準優勝の智弁和歌山は、渡邉 颯人投手(3年)が全試合先発してゲームメイク。そして決勝戦以外の4試合はすべて先制した。
ベスト4の浦和実は技巧派左腕・石戸 颯太投手(3年)の快投が大きかった。石戸の失点は計算できるので、しっかりと守って機動力を活かせば勝てる、というパターンがあった。
このように、猛暑がないセンバツはあまり戦力が揃わなくても、必勝パターンを確立すれば勝てる。特に浦和実は選手たち自身が「自分たちの選手層はセンバツの中でも下位だ」と自覚していたという。
しかし夏はそうはいかない。猛暑による体力の消耗が激しいうえに、日程も過密だ。特に激戦区では1週間で3〜4試合もある。勝ち抜けるかどうかのカギは「選手層の厚さ」なのだ。特に絶対的な投手を休ませて勝てる試合があるチームは強い。
実際、昨夏優勝した京都国際は中崎 琉生(現・国学院大)、西村 一毅(3年)の2枚看板がいた。しかし、二人が継投したのは、準決勝の青森山田戦から。準々決勝までの4試合は交互の完投しあい、体力温存を図っていた。
少し気が早いかもしれないが、夏に勝ち上がれそうな選手層の厚い「大型チーム」をセンバツ出場校の中から紹介しよう

まず春の神奈川県大会でも優勝し、公式戦25連勝を収めた横浜だ。県大会の勝ち上がりを見ても、多くの投手を起用してきた。織田、奥村を含め、実に10投手が登板。二人が登板したのは準々決勝以降の3試合だった。計5試合で7失点。2枚看板に頼らなくても勝ち抜くほど、各投手のレベルが高い。
コントロールの良い山脇 悠陽投手(3年)、前田 一葵投手(3年)、146キロ左腕・片山 大輔投手(3年)が軸となり、これまでベンチ外だった東濱 成和投手(2年)も浮上した。東濱は23年のU-15代表のエースとして活躍し、140キロ前半の速球を投げ込む。フォームもよく、秋以降は織田とともに2枚看板が期待される。スーパー1年生の福井 那留投手も登板し、すでに140キロ台の速球を投げ込んでいる。ショートを守る池田 聖摩内野手(2年)も登板。150キロ近い速球を投げ込み、ショートリリーフで活躍できるだろう。
横浜は春季県大会後、宮崎招待試合に参加。その後も春季関東大会、県外の招待試合が予定されており、主力投手の負担軽減のために多くの投手を起用していく方針だという。
センバツ準優勝の智弁和歌山も大型チームだ。センバツで大奮闘した渡邉は春季大会でベンチ外。中谷仁監督の方針で、渡邉以外の投手が登板して春の県大会で優勝した。152キロ右腕・宮口 龍斗投手(3年)が背番号1をつけ、145キロ右腕・田中 息吹投手(3年)も先発起用され、この2人を中心に勝ち上がった。
2人以外でも、センバツで志願してアルプス応援を行った和気 匠太投手(2年)が台頭。和気は140キロを超える速球を投げ込んでおり、近畿大会でアピールすれば、夏の大会も期待できる。中井 貴投手(3年)もリリーフで好投を見せており、渡邉を使わず、県内で圧倒したのは収穫だ。
打線は強打者の福元 聖矢外野手(3年)、高校日本代表候補の藤田 一波外野手(3年)と役者揃いのメンツに加え、1年生3人がベンチ入りした。投手登録の井本 陽向(1年)も打者として才能を発揮している。昨年、1年ながらレギュラーだった松本 虎太郎内野手(2年)は打撃不振でセンバツでは控えだったが、県大会では復調傾向。本塁打を放ち、レギュラー争いは熾烈となっている。

健大高崎が全国優勝するための課題
センバツベスト4の健大高崎は早くからエースに頼らない投手作りをしてきた。昨春チームをセンバツ制覇に導いた左腕・佐藤 龍月投手(3年)がトミー・ジョン手術の影響で離脱し、155キロ右腕・石垣元気投手(3年)はセンバツ直前で脇腹を痛めた。しかし、チームはこのアクシデントを乗り越え勝ち進んだ。
2年春からベンチ入りし、高校日本代表候補までに成長した下重 賢慎投手(3年)、144キロ右腕・島田 大翔投手(3年)、左腕・山田 遼太投手(3年)が台頭した。健大高崎の3年生は3度の甲子園出場で、石垣、佐藤、下重、山田の4人が先発勝利を挙げている。投手層の厚さを示す快挙である。
多くの投手が先発勝利を挙げられたのは、強力打線があるからだ。春季群馬大会では5試合42得点を記録。高校日本代表候補の小堀 弘晴捕手、伊藤 大地内野手(3年)ら主力選手たちが圧倒的な打撃を見せた。
この強力打線に2つの課題がクリアできれば健大高崎の夏は盤石となるだろう。一つ目は石垣、下重、島田、山田以外の投手が現れ、石垣・下重の負担を減らせる投手運用ができるかどうか。もう一つは佐藤の復活だ。佐藤が故障前以上の投球ができれば、全国の中でも盤石な投手陣になる。
早稲田実業は投打ともにスケールの大きいチームへ成長
早稲田実も投打ともにスケールの大きいチームへ成長しそうだ。昨年の甲子園出場時は投手力に大きな課題があり、10点取られれば11点取ることを目指すチームだった。現在は146キロ左腕・中村 心大投手が成長し、安定して試合が作れるレベルになった。春季都大会でチームは、中村以外の投手を起用。2年生右腕・小俣 颯汰投手、196センチ右腕・浅木 遥斗投手(3年)は140キロ前半の速球を投げ込み、自信をつけた。リリーフタイプでは田中 孝太郎投手(2年)の台頭も大きい。
打線は都大会では3試合連続でコールド勝ち。センバツでも好投手が揃う高松商相手に打ち勝っている。
地方大会の内容が問われる山梨学院と天理 超高校級右腕の復帰が待たれる東洋大姫路

春季地方大会の内容や、主力投手の復帰次第では大型チームになりそうなのが、山梨学院、天理、東洋大姫路の3チームである。
山梨学院の県大会での戦いぶりは秋、春ともに申し分ないものがあり、他校を寄せ付けない強さがある。一方で、関東大会、甲子園では綱渡りの試合が続いており、投手陣を打線が援護していた。野手陣の力量は関東地区では横浜、健大高崎に劣らないものがある。
課題の投手陣では、152キロ右腕・菰田 陽生投手(2年)、148キロ右腕・山岸 翔輝投手(3年)とパワーピッチャーが浮上してきた。県大会でも足立 康祐投手(3年)、竹下 翔太投手(2年)、左腕・檜垣 瑠輝斗投手(2年)の3投手が好投。センバツとは投手陣の顔ぶれが変わった。
関東大会では初戦で叡明と対戦し、勝利すれば、常総学院、東海大相模の勝者と戦うことになる。いずれも強打のチームだ。関東大会で安定した試合運びができれば、夏は全国でも躍進できる可能性が出てくるだろう
天理は春の奈良大会を無失点で優勝した。高校日本代表候補の遊撃手・赤埴 幸輝内野手、永末 峻也外野手を中心とした打線は強力で、機動力も使え、守備力も高い。野手のスキルは申し分ないが、投手陣が課題だっただけに収穫のある大会だった。
エースで野手としても才能が高い下坊 大陸投手(3年)がセンターで出場し、今大会は未登板。右アンダーの松村 晃大投手、左横手の技巧派・橋本 桜佑投手(2年)、長尾 亮大投手(2年)、岡田 煌生投手(2年)の両右腕の4投手が登板した。橋本は決勝戦でノーヒットノーランを達成している。
ここまで挙げたチームはいずれも1人は145キロ以上の速球を投げる本格派がいるが、天理は技巧派が並ぶ。下坊も技巧派の投手で、三塁を兼任する伊藤 達也内野手も投手として登板するが、常時130キロ後半だ。天理を率いる藤原忠理監督は天理大を全国常連にした名将だが、天理大の投手陣もタイプが異なる投手を揃え、技巧派が多かった。技巧派中心の投手陣が夏の大会でも通用する例はあまりない。5月25日開幕の近畿大会では成長が見えた投手陣の腕試しの大会となりそうだ。
東洋大姫路は肘の怪我で離脱した超高校級右腕・阪下 漣投手、左腕・末永 晄大投手が春季大会ではベンチ外となった。147キロ右腕・木下 鷹大投手(3年)が穴を埋める活躍を見せ、決勝戦では完投勝利を挙げた。センバツでは登板がなかった西垣 虎太郎投手(3年)、小柳 祥太郎投手(1年)の2投手も登板。阪下、末永が夏に戻り、近畿大会でも木下以外の投手が好投すれば、打線は強力なだけに夏も本命になりそうだ。
センバツを盛り上げた強豪校たちが夏も主役となるのか。今後の試合内容に注目が集まる。