積極的に取ったコミュニケーション「正直、シーズンの最初はすっごい悩みましたし、めっちゃ泣いてました。毎日のように泣いちゃって」…
積極的に取ったコミュニケーション
「正直、シーズンの最初はすっごい悩みましたし、めっちゃ泣いてました。毎日のように泣いちゃって」
今シーズン(2024-25)、シャンソン化粧品シャンソンVマジックのキャプテンをはじめて務めた佐藤由璃果から、意外とも取れる言葉が返ってきた。
それは、八雲学園高校(東京都)時代には3年生のときにキャプテンを務め、今シーズンもその振る舞いから、早い段階でキャプテン役が板についていると勝手に感じていたからだ。
「もともと小池(遥)さんがずっと(キャプテンとして)引っ張っていて、私もその姿を追っていたので、キャプテンを任されたことにまず動揺しました。小池さんはどちらかというと、プレーする姿で仲間を鼓舞するタイプ。最初は私も同じような姿を見せないといけないと思っていたんです。でも、私にはそれはできないとも感じ、そのギャップに悩んでいました」と、佐藤は言う。それでも、周囲のアドバイスなどもあって、「途中からは自分の色のキャプテンシーを出した方が自分自身もやりやすいと」と考えるようになったという。
そこで重きを置いたのはコミュニケーション。もともとコミュニケーションは取れる方だというが、今シーズンはコート内外においてチームメートと今まで以上にコミュニケーションを図り、中でも「うちは若いチームで若い選手の力は必要」と、後輩たちとの交流も意識的に行った。加えて、中川文一ヘッドコーチの体調不良によりシーズン途中から采配を振るった濱口京子アシスタントコーチも「昨年までプレーヤーだったこともあってすごくコミュニケーションを取ってくださった」と、大きな存在となったことを明かした。
また、「それまでは練習でも思っていることを言えないタイプでしたが、段々と思ったことを積極的に言えるようになりました」と、自身の変化もあった。そうした新米キャプテンの奮闘もあり、「後輩も先輩もみんな、試合中に思ったことは良いことも悪いことも言えていたと思います」と、振り返る。さらにそれが、ユナイテッドカップ優勝やレギュレーション変更でレギュラーシーズン上位4チームのみに与えられるプレーオフ出場権獲得などの成果にもつながったのではないかと佐藤は笑顔を見せた。
ベストディフェンダー賞は大学時代の恩師に感謝
佐藤個人にフォーカスを当てると、今シーズンのレギュラーシーズンでのスタッツは1試合平均11.7得点5.1リバウンド。ディフェンスでは1.75スティールとランキング1位となった。それこそ大きな選手に対して体を張ったディフェンスなど数字に表れないところでの貢献も光っていた。
シャンソンに入団して4シーズン、「高校、大学までは私が点を取らないと勝てないというのがあったのですが、Wリーグはそういう(点を取ってきた)人たちの集まり。私よりも点が取れる、才能に長けてる人が多いので、逆にそこではないところで自分が何ができるかを考えたらディフェンスやリバウンドでした。得点でも誰かを生かしながら得点するというパターンがWリーグに来てから増えたのかなと思います」と、これまでを振り返る。
さらには、「誰かが泥臭いことをやらないと勝てない。このレベルに来ると点を取っているだけで勝てる試合はないので、ディフェンスやリバウンドという基本的なことを今、一番大事にしています」とも言い、そうしたリバウンドからのシュートなどが得点につながっているのではないかと分析した。
今シーズン、佐藤はスティールのタイトルに加えて、ベストディフェンダーも初受賞した。だが、ディフェンスに関しては「もともと高校までは得意ではなかった」という。
所属していた八雲学園高校はオフェンシブなチーム。特に佐藤が3年のときには吉田舞衣(シャンソン)、奥山理々嘉(日立ハイテククーガーズ)のオールラウンダー3人が破壊力抜群の攻撃を武器に全国大会でも勝ち上がっていったのだから無理もないだろう。
その佐藤がディフェンスを一から学んだというのが筑波大学時代だ。「高校では得点の取り方などをたくさん教わったのですが、大学では(当時監督だった)柏倉秀徳さん(現日立ハイテククーガーズヘッドコーチ)が4年間指導してくれて、そこでディフェンスを基礎から教わりました。その4年間でディフェス力を積み上げることができたので柏倉さんには感謝してますし、今に生きているとも感じます」と、今は同じWリーグという舞台で戦っている恩師の名前を挙げる。
それこそ、1対1のディフェンス練習ではオフェンスとディフェンスのペアをコーチが決めていたため、1年生のときは柏倉氏があえて佐藤をガードと組ませていたという。「だから最初の頃はガードの選手たちに屈辱的な抜かれ方をして(笑)。でも、回数を重ねていくことで段々とついていくことができるようになりました」
そうしたこれまでの経験や努力が一つの結果となった今シーズン。チームに関しては後一歩のところでファイナル進出を逃したが、悔しさとともに手応えも感じている。
「今までの3年間はセミファイナルでも大差で負ける試合が多かったのですが、今シーズンは3戦までもつれ、点差も僅差でした。ユナイテッドカップ優勝など、自分たちの自信がついてのプレーオフだったと思うので、今までは高い壁なのかなと感じていたファイナル進出も、自分たちにその実力はあると感じることができたシーズンでした」
充実のシーズンを経て、名門・シャンソンを引っ張る新リーダーは、次なるシーズンに向けてさらに前進を続けていく。
取材・文=田島早苗