西山秀二インタビュー(後編) かつて広島の正捕手として一時代を築いた西山秀二氏。狭い球場での苦労、金本知憲や松井秀喜との駆け引き、そして落合博満との"入り込めない勝負"。現役時代に数々のエースとバッテリーを組んだ西山氏が、捕手としての哲学と…

西山秀二インタビュー(後編)

 かつて広島の正捕手として一時代を築いた西山秀二氏。狭い球場での苦労、金本知憲や松井秀喜との駆け引き、そして落合博満との"入り込めない勝負"。現役時代に数々のエースとバッテリーを組んだ西山氏が、捕手としての哲学と配球術、そして今の若手捕手に伝えたい「リードの真価」について語ってくれた。


現役時代の西山秀二氏(写真左)と松井秀喜氏

 photo by Sankei Visual

【金本知憲に訊いた松井秀喜攻略法】

── 西山さんの現役時代、広島市民球場やナゴヤ球場など狭い球場がほとんどで、リードに苦労されたのではないですか?

西山 南海時代に、二軍監督だった柴田猛さんから「配球のいろは」を教わったのが私の原点です。野村克也さんも言っていましたが、「捕手は考えるのが仕事」と。私は四六時中、リードのことばかり考えていました。同じタイプの打者への対策を、ほかの選手から聞いて学ぶことも多かったですね。

── たとえばどなたに?

西山 広島時代の金本知憲に、巨人の松井秀喜の攻め方を聞いたことがあります。「カネ、松井をどう抑えようか?」と聞いたら、「ニシやん、高めからド真ん中に落ちるフォークを投げてみい。打者はワンバウンドになると思っているから、意外と手が出えへんよ」とアドバイスをくれました。翌日、黒田博樹にそのとおり投げさせたら、松井は見逃し三振。見事でした。

── その配球で何度も抑えたのですか?

西山 いえ、松井は賢いですから、使えたのは一度だけ(笑)。翌年、黒田が瀬戸(輝信)とバッテリーを組んだ試合で同じように投げさせたら、しっかりスタンドに放り込まれました。さすがですよね。

── その金本さんは2003年から阪神にFA移籍しました。

西山 「ニシやん、なんでも来い。何が来ても打てるから」って言われましたよ(笑)。広島時代の金本は"トリプルスリー"を狙う三拍子揃ったタイプでしたが、阪神に移籍してからは長打力が加わり、「3割、40本塁打、100打点」の手がつけられない打者になりました。正直、抑える球がなかった。ある打席で、2ストライクと追い込み、佐々岡真司に外のボールからストライクゾーンに入ってくるカーブを投げさせたんです。いまで言う「バックドア」です。

── 結果は見逃し三振だった?

西山 金本にとっても想定外のボールだったようで、見逃しはしたのですが......判定はボール。球審に「今のはストライクでしょう!」って食い下がったら、イニングの間に「ごめん」とつぶやかれました(笑)。

【リードで勝たせる捕手の存在意義】

── 配球において、スコアラーやデータ班の資料は使っていましたか?

西山 佐々岡と組んだ時、ヤクルトの土橋勝征によく打たれていて、スコアラーに調べてもらったら、「2ボール1ストライクからスライダーを投げるクセ」があるとわかったんです。

── ヤクルトの「ID野球」はデータ分析が得意でした。

西山 その後の対戦で、2ボール1ストライクからあえてストレートを投げさせたら、土橋は驚いていましたね。データの力は大きい。だから私が中日のバッテリーコーチをしていた時(2022〜23年)、捕手の木下拓哉にカウントごとに球種の偏りがないかをスコアラーと一緒に分析させました。木下は偏りがなく、しっかり考えている捕手でした。

── 西山さんの現役時代、マスク越しに多くの強打者と対峙したと思いますが、なかでも落合博満さんは球史に残る打者でした。その落合さんですが、豪快なホームランを放つ一方で、あっけなく見逃し三振をすることもありました。落合さんという打者は、狙った球種を待ち続けるタイプだったのですか。

西山 というより、コントロールに不安がある若手投手の球は打ちにいかなかったですね。どこに来るかわからないですし、ケガのリスクがあるから無理に打ちにいくことをしなかった。その代わり、コントロールのいいピッチャー、特にエース級の投手には強かったです。

── 大野豊さんとの対決は、落合さんも真剣でした。

西山 大野さんと落合さんは年齢も近いですし、互いをリスペクトしていました。特に大野さんはコントロールが抜群で死球の心配がないから、本気の勝負ができた。私も捕手として、「ふたりの勝負に入り込めない」と感じました。

 落合さんは、初球はあまり振らなかったので、まずスライダーでカウントを稼ぎ、最後はギリギリのコースで勝負。それでも落合さんはしっかり打ち返してくるんです。落合さんが打てば一塁ベースで、大野さんが抑えればマウンドで、それぞれドヤ顔をしていましたね(笑)。

── 最近は「厳しいコースを突け」と強く言いづらい時代だそうですね。

西山 そうなんですよ。それを言うと、投手コーチから「ピッチャーがイップスになります」って反論されることもあります。でも、「配球とはこういうものだ」という基本は教えなきゃいけないと思います。

── 今の時代、どう育てていくべきですか?

西山 160キロを出せる投手なら、力でねじ伏せられます。でも150キロに満たない投手は、力まかせでは通用しません。だからこそ、捕手のリードが重要なんです。「守備型捕手」は、打てなくてもリードで投手を勝たせることができる。それが彼らの価値ですし、今後もそういう捕手がどんどん出てきてほしいですね。

西山秀二(にしやま・しゅうじ)/1967年7月7日、大阪府出身。上宮高から85年のドラフトで南海から4位指名を受け入団。プロ2年目の87年シーズン途中、トレードで広島に移籍。広島では94年、96年にベストナイン、ゴールデングラブ賞をそれぞれ獲得。リーグを代表する捕手として活躍。2004年オフに巨人に移籍し、05年の1年間プレーし現役を引退した。引退後は巨人、中日のコーチを歴任。現在は評論家として活躍している