井上とカルデナスの激闘を捌いたレフェリーが衝撃のダウンを振り返った。(C)Getty Images 場内が騒然となる中でも、怪物は誰よりも冷静だった。 ボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)が、WBA世界同級1位…

 

井上とカルデナスの激闘を捌いたレフェリーが衝撃のダウンを振り返った。(C)Getty Images

 

 場内が騒然となる中でも、怪物は誰よりも冷静だった。

 ボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)が、WBA世界同級1位のラモン・カルデナス(米国)に勝利した今月4日に米ラスベガスで行われた防衛戦。その試合をクレバーに捌いたレフェリーが、タイトルを守り抜いた王者の様子を振り返った。

【動画】世界が騒然となった井上尚弥のダウン カルデナスの渾身フックをチェック

 井上が8回45秒TKOで制し、史上最多となる世界戦でのKO数(23)を樹立した試合にあって、小さくない反響を呼んだのは、他でもない井上自身のダウンシーンだ。

 2回の終盤、カルデナスとの接近戦を繰り広げた井上は、パンチの打ち終わりにカウンターの左フックを被弾。プロキャリアでは24年5月のルイス・ネリ(メキシコ)戦以来2度目のダウンを奪われた。

 アマチュア時代を含めて人生2度目の出来事である。このまさかの展開に井上の勝利が「堅い」と予測していたはずの場内は慌ただしくなった。

 井上が崩れた――。ざわつく雰囲気をよそに怪物は飄々としていた。米衛星ラジオ局『SiriusXM』のボクシング専門チャンネル「Fight Nation」に出演した審判を務めたトム・テイラー氏は、カウントを取るために井上の正面に回った際に「全く問題ない」と悟ったという。

 番組MCから「あなたにとって、彼の目は少しうつろに見えた? それとも、立ち上がった時は全く問題ないように見えた?」と問われたテイラー氏は、こう回想した。

「もう一度見てもらえれば分かると思うが、私が4、5カウントを数えた時には、もう彼は片膝をついて私を見て、しっかりと頷いていた。彼がすぐに立たなかったのは、ただ7、8カウントまで持っていきたかっただけなんだ。本当に全く問題なかった。私は彼が完全に問題ないと信じて疑わなかった」

 思えば、ネリ戦もそうだった。初回にダウンを喫した井上は、4万3000人が詰めかけた東京ドームが静まり返る異様なムードの中でも動じず、しっかりとダメージを回復させた。そして、この時も片膝をつきながら8秒後に立っていた。

 ネリとの攻防の再現を見るような冷静な振る舞いだった。「この男は、観客が求めているもの、つまり倒されても立ち上がる姿を見せてくれる。あれ以上のものはない」とも振り返るテイラー氏は、なおも続ける。

「イノウエは呆然として、おそらく混乱もしていた。だが、彼は片膝をついて、私のカウントをずっと見ていた。そして立ち上がって、優しく頷いたんだ。だから私は彼に左右に歩いたり、私の方に来たりするように要求しなかった。それは『大丈夫だ』と分かっていたからだ」

 世界に衝撃を与えたダウン。それを誰よりも近距離で見ていた男の証言は、業界で異彩を放つ井上の才覚を何よりも物語った。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

 

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