サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニ…
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は「ピッチの風見鶏」について。
■世間はさらに無関心な「旗」
2021年9月のこの連載で「コーナーフラッグポスト」について書いた。ピッチの4隅に旗をつけた竿を立てるのは、1863年にサッカーという競技が誕生したときからある規則で、さまざまなラインはもちろん、ゴールの「バー」などよりも歴史が古い。それなのに得点が生まれるたびに跳び蹴りをされたり、ボクシングのサンドバッグ代わりにされたり、ひどいときには引き抜かれてギター代わりにされたりと、「虐待」の限りをつくされている。
そしてその「ポスト」の先端についている「旗」にいたっては、世間はさらに無関心だ。私はピッチ上の風の状況を見たいと思ったときにはこの旗に注目するが、無風状態ならだらんと垂れ下がってポストにからみついているだけで、たしかに大きな関心を引く存在ではないのである。
■当時の競技規則では「違反」?
「日本のアマチュア・スポーツで最初の全国リーグ」として1965年に「日本サッカーリーグ(JSL)」がスタート。その最初のシーズン中に公式マークが決まったが、私の記憶ではある時期からJSLの試合ではコーナーフラッグにこの「JSLマーク」を入れていたような気がする。だが、これは当時の競技規則では「違反」だった。
ピッチ内だけでなく、ゴールやゴールネット、そしてコーナーフラッグといった「競技施設」には、広告はもちろん、主催団体のロゴなどもつけてはならなかったのである。あいまいだったルールは、1995年のルール改正の「公式決定事項」で明確に示された。「FIFA、大陸連盟、各国協会、その他の団体のロゴやエンブレム」も「フィールドやフィールドの設備に表示してはならない」。
コーナーフラッグへの大会などのロゴ表示が解禁されるのは、実に2017年のことである。そして現在のように、Jリーグでは全試合でJリーグのロゴがついたコーナーフラッグが使われ、イングランドではそれぞれのホームクラブのエンブレムのついたものとなっているのである。現行の競技規則では、どちらも認められている。Jリーグの60クラブが連名で「クラブのエンブレムがついたフラッグを使いたい」と求めたら、Jリーグも拒めないのではないか。
■甲斐の国の「誇り」の象徴に!
しかしフラッグの形自体は、今もまったく規定はない。フラッグの形は自由なのである。「Jリーグ指定のもの」と決められているので、毎年Jリーグが配布したものを使っているのだろうが、それを「三角形にしたい」と願い出たクラブはこれまでにひとつもないのではないか。
今後、ヴァンフォーレ甲府がJ1に4度目の昇格を果たして定着し、上位に進出して優勝をさらっていく可能性は十分ある。だがこのクラブが常にJ1の優勝争いに加わり、アジアの舞台でも常連になるという可能性は、現時点では、残念ながら想像しにくい。
2022年の天皇杯優勝と、2023/24シーズンでのACLでの大躍進は、約18万人の甲府市民だけでなく約80万の山梨県民、そしてこの地域にルーツを持ち、「甲斐の国」に誇りを持っているすべての人にとって、長く「心の宝」になるものではないか。「ライバルチームに見せつける」などというせこい考え方ではなく、地域の人々の誇りのひとつをシンボライズするものとして、「三角形のコーナーフラッグ」は悪くないのではないと、私などは思ってしまうのである。