北海学園大〜躍進の舞台裏(後編) 工藤泰己に同期の髙谷舟(たかや・しゅう)について聞くと、あきれたような口調でこんな答えが返ってきた。「舟のボールは、北海道で一番いい球質だと思います。僕の球は『ドーン』とくるタイプですけど、舟の球は下から伸…

北海学園大〜躍進の舞台裏(後編)

 工藤泰己に同期の髙谷舟(たかや・しゅう)について聞くと、あきれたような口調でこんな答えが返ってきた。

「舟のボールは、北海道で一番いい球質だと思います。僕の球は『ドーン』とくるタイプですけど、舟の球は下から伸びてくる。キャッチボールをしていても、怖いですよ。胸に向かって投げてきた球が、『顔に当たるんじゃないか』というくらい伸びてくるので。中学の頃からその片鱗はあって、キャッチボールするのが本当に怖かったです」

 その感想を本人にぶつけてみると、髙谷は控えめに笑って、こう答えた。

「僕のほうが怖いです。泰己はとにかくスピードが速いので」


北海学園大のドラフト候補、工藤泰己(写真左)と髙谷舟

 photo by Kikuchi Takahiro

 最速158キロの工藤と、最速153キロの髙谷。北海学園大の島崎圭介監督に言わせれば、「唯我独尊の工藤」と「マイペースの髙谷」。ともに今秋のドラフト候補に挙がる両者は、小学生時からの友人であり、中学では軟式クラブT・TBCのチームメイトだった。

 中学時代は前川佳央(現・日本大)という絶対的なエースがいたこともあり、工藤は捕手、髙谷は外野手だった。ただ、時には髙谷がマウンドに上がり、バッテリーを組むこともあったという。工藤が当時を振り返る。

「舟は肩甲骨が柔らかくて、上半身がしなるのは昔から変わらないです」

【巨人三軍戦で158キロをマーク】

 今春に実施した関東遠征では髙谷が胃腸炎のため、大事をとって登板を回避。そのため、スカウト陣の興味も工藤に傾いた。そのなかで、工藤は持ち味をアピールする。

 リリーフで1イニングを投げた巨人三軍戦では、トラックマンで158キロを計測。三塁側ベンチで投球を見守っていた島崎監督も、予感するものがあったという。

「『あ、今の速い!』と思っていたら、『158キロです』と教えてもらって。ウチの精度の低いスピードガンとは違いますからね」

 その2日後、西武三軍戦で工藤は先発登板し、3イニングを投げている。立ち上がりは「久しぶりの先発で力んでしまった」と制球に苦しみ、2四球とボークで1失点を喫した。それでも、最速153キロを計測。身長198センチ、体重115キロの大型打者である、アンソニー・ガルシアのバットを折るシーンもあった。

 3回を投げて被安打0、奪三振3、与四球2、失点1。登板後、工藤は「四球で悪い流れをつくってしまった」と反省しつつも、こんな手応えを語っている。

「今日は先発として、ゆったりと脱力したフォームでどれだけ投げられるかを試していました。遠征終盤で疲労も多少ありましたが、軽めの力感でも押し込めていたので、ストレートは意外とやれるかもと感じました」

 視察したスカウトのなかには、バランスのいい投球フォームを評価する声もあった。ただし、工藤は「大学で時間をかけて、つくってきたフォーム」と明かす。投手歴は高校3年からと浅く、小・中学生時はずっと捕手だった。

「ずっとキャッチャーだったので、右腕を下ろして投げたことすらなかったんです。ピッチャーらしいフォームをつくるにはどうすればいいか、ずっと悩んできました。最初はいろんなピッチャーの動画を見て真似して、アナリストの加藤さん(拓光/現・西武)にもアドバイスをいただいて。自分が投げたいフォームにするには何が必要か、逆算しながらやってきました」

 工藤は「ピッチャーをやってきた人の倍は練習しないといけない」と、朝から晩まで野球のことを考え続けてきた。依然としてコントロールに課題があるのは確かながら、この3年間で着実に向上してきたのも事実だ。

 現時点でも、支配下でドラフト指名を受けるだけの実力はあるだろう。それでも、本人が目標とするのは「ドラフト上位指名でのプロ入り」。工藤は「自分は上位の実力をつけてプロに入らないと、長く活躍するのは難しいと思う」とまで言いきる。

「上背もない(身長175センチ)ですし、プロ1年目からガンガンいける力がなければ自分は評価されないと思うんです。ここまで大学2年間で体をつくって、3年以降はなだらかに投球がよくなっているイメージがあります。球速は安定して出ているので、変化球やコントロールなど精度にこだわっていきたいです」

【全国でも戦えることを示したい】

 一方、髙谷は関東遠征で登板できなかったものの、特別な悲壮感はない。工藤が158キロを出した際には、ブルペンで見ていたという。

「すごいなと思いましたし、悔しいなとも思いました。でも、焦りすぎるのもよくないですし、自分も投げたら(最速を)更新できるだろうなとも思っています」

 鹿児島でのキャンプでは早くも150キロを計測しており、感触はいい。昨秋までは腰痛に苦しめられたが、現在は順調に回復している。

 髙谷の大きな武器は、工藤も認めるストレートの球質にある。平均して2400〜2500回転(rpm)と高水準だが、冬に「自分の体に合った投げ方を練習してきた」と手応えを深めた。さらに縦のカーブやスライダーにも自信を持つ。

 あとは実績を残すだけ。工藤も髙谷も全国大会での登板経験はなく、リーグ戦でも圧倒的な結果を残したシーズンはない。そのことは本人たちが一番痛感している。

 誰もが「マイペース」と口を揃える高谷であっても、その点は危機感を隠さない。

「ここまで騒がれるような実績もないですし、自分の投球にまったく納得していません。でも、まだまだ伸びる要素はたくさんあると感じています。まずはリーグ戦でチームを勝たせる投球をして、自分が投げる試合は無敗でいきたいです」

 そして、その先に待っているものは何か。髙谷は不敵に笑って、こう続けた。

「北海道の大学でも、全国で戦えるということを示したいです」

 関東遠征を終えて、札幌へと帰る北海学園大の選手たち。髙谷は「北海道はまだ雪が残っているんです」とつぶやいた。

 札幌学生リーグの開幕は5月1日。北の怪腕たちは、大きな野望を秘めて春を待つ。