例年以上の大混戦となっている今季のJリーグ。その中にあって注目されているのが、3連勝を飾って4位に浮上した浦和レッズだ。なぜV字回復できたのか? 名門の「知られざる」復活劇のウラ事情と、「残された」最後の課題を、サッカージャーナリストの後…

 例年以上の大混戦となっている今季のJリーグ。その中にあって注目されているのが、3連勝を飾って4位に浮上した浦和レッズだ。なぜV字回復できたのか? 名門の「知られざる」復活劇のウラ事情と、「残された」最後の課題を、サッカージャーナリストの後藤健生があぶり出す!

■欠場は「故障」だけが原因なのか?

「モビリティー(攻撃の活動性)」という意味では、松尾佑介の1トップ起用も大きかった。

 それまで、マチェイ・スコルジャ監督はトップにはチアゴ・サンタナを起用していた。チアゴ・サンタナは2022年に清水エスパルスでJ1リーグ得点王となった実績を持ち、決定力のある選手だ。今年のシーズンでも、すでに3ゴールを決めている。

 そのチアゴ・サンタナが、第10節の町田戦でベンチ外となり、代わってトップで起用されたのが、それまでサイドでドリブラーとして活躍していた松尾だった。

 チアゴ・サンタナの欠場が、伝えられている通り故障によるものだけなのか、あるいは他の事情があるのかは僕は何も情報を持っていないが、いずれにしても松尾のトップ起用は大成功。相手DFラインの裏に抜けるスピードが武器となり、また速さのある松尾が前線にいることでチーム全体の前を向く姿勢が強くなった。

 町田戦では、38分にGK西川周作からの縦へのフィードをトップ下の渡邊凌磨がフリックして出したボールを、スピードを生かして飛び出した松尾がそのまま持ち込んで、シュートを決め、京都戦ではマテウス・サヴィオのCKにニアで反応してシュート。DFに当たって跳ね返ってきたボールを拾って、再びシュートし、DFの股下を抜いて決めた。

 スピードに加えて、シュートの落ち着きもあり、結局、スコルジャ監督は3連勝した試合すべてで松尾をトップで起用し続けた。

■攻撃の「起点」となっているベテラン

 町田戦で2点目のきっかけとなった西川からのフィードも話題になった。

 西川は、現在ほどGKの足のテクニックが要求されていない時代から、左足でのキックの正確性を武器としていた選手だ。ただ、若い時代にはキックのテクニックに溺れることがあったり、また右足のキックでミスすることも多かった。

 その西川はすでに38歳のベテランとなっているが、このところパス能力に一段と磨きがかかっているように見える。低い弾道のキックでターゲットを狙ったり、早いタイミングでスペースを使ったりと、再三にわたって浦和の攻撃の起点となっているのだ。

 あの、町田戦の2点目のきっかけとなった西川のパスが注目されているが、どの試合でも西川が攻撃の起点となる場面は数回はある。町田戦の後半には、西川のパスにサイドバックの石原広教が相手ゴール前に走り込んで合わせるような形まであった。

 西川のキックの精度は明らかに高まっている。

 その石原が、タッチライン沿いに縦への正確なパスで右サイドハーフの金子拓郎を使うような場面もあった。西川だけでなく、このところ浦和の選手たちのパスのうまさに驚かされることが多い。

 浦和の好調の原因の一つに、渡邊が復帰してトップ下で非常にクレバーなプレーをしていることもある。

 かつて、FC東京に所属していた頃にはとくに印象的な選手ではなかったが、浦和ではまさに中心選手。昨年の浦和が降格争いを避けられたのも、渡邊の存在が大きかった。

 中盤から前線までいくつものポジションでプレーできるポリバレント性(複数のポジションをこなせる、もしくは、一つのポジションで複数の動きができる)。そして、ゲームの流れを見ながら、巧みなポジショニングでパスのリズムを整える頭脳プレー。ちょうど、日本代表での鎌田大地を見ているような感覚のプレーヤーだ。

■大きな武器になった「セットプレー」

 そして、圧巻のキック・テクニックを見せるのが、柏レイソルから移籍してきたマテウス・サヴィオだ。

 開幕当初は周囲とのコンビネーションが合わず、チーム内で浮いているような時期もあったが、今ではさまざまなポジションに現われて、攻撃のタクトを振るっている。

 マテウス・サヴィオといえば、セットプレーも大きな武器になっている。

 3連勝の間、浦和は7ゴールを決めたが、3ゴールがCK、1ゴールがFKからの得点だった。

 町田戦の先制ゴールは、右CKを松尾が蹴ってマテウス・サヴィオにつなぎ、マテウス・サヴィオの低いクロスにマリウス・ホイブラーテンが合わせて、アウトサイドで巧みなシュートを決めたもの。

 京都戦での先制ゴールはマテウス・サヴィオの右CKに松尾が合わせたもの(前述)。そして、横浜FM戦のダメ押し点は、原口が蹴った左CKからの跳ね返りを拾い、原口が上げたクロスにダニーロ・ボザが合わせたものだ。

 こうした、得点につながったプレー以外にも、3連勝中の浦和はセットプレーからかなりの高確率でチャンスを生み出し続けていた。

 マテウス・サヴィオという正確なキックを持つ選手が存在するので、これからもセットプレーは浦和にとっての大きな武器となっていくことだろう。

 こうして、攻撃のバリエーションを増やした浦和。守備面では、ダニーロ・ボザが完全にチームに溶け込んだことで、ホイブラーテンとのセンターバック・コンビの強さが大きな武器になっている。右サイドバックで起用されている石原も成長しており、また、最近は長沼洋一が左サイドバックで使われているが、本職のSBの荻原拓也もおり、ポジション争いにも注目したい。

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