ペナントレースも残りわずかとなり、ポストシーズンの展望やドラフト候補の動向に注目が集まるこの時期。そんな中、昨年の…

 ペナントレースも残りわずかとなり、ポストシーズンの展望やドラフト候補の動向に注目が集まるこの時期。そんな中、昨年のドラフトの主役のひとりだったヤクルト・寺島成輝がプロ初登板を果たした。9月30日の中日戦(神宮)がその舞台だった。

 初回、先頭の京田陽太をストレートで見逃し三振を奪い最高のスタートを切ったが、二死からランナーをひとり置いて4番の福田永将にレフトスタンド中段へ完璧な一発を食らってしまう。

 2回にも2点、4回にも1点を失い、なおも走者を残したところでマウンドを降りた。3回0/3で被安打5、与四球3、奪三振3、失点5。ドラフト1位ルーキーの快投を期待したファンにとっては、物足りない結果に終わってしまった。



寺島成輝のプロ初登板は3回途中5失点とほろ苦いものになってしまった

 ただ、この日の寺島にとっては、結果や内容よりも、一軍レベルを肌で感じられる舞台に立てたことが何よりの収穫だったに違いない。試合後、クラブハウスに向かいながら、いつもの落ち着いた口調で寺島は言った。

「実際に投げてみて、大体の感じはわかりました。今日はそれがよかったです」

 この日、4回途中までで73球を投じた。真中満監督は「70球をめどに5回ぐらい投げてくれれば」と試合前に語っていたが、球数の多さからも苦しいマウンドだったことがわかる。試合後、制球力の向上を課題に挙げた寺島だったが、ストレートのさらなるレベルアップが来季活躍のカギを握ることも明らかになった。

 73球のうちストレートは36球で、140キロを超えたのは12球。最速は143キロだった。初回の京田を三振に仕留めたストレートは見事だったが、一軍で活躍するレベルを考えるとボリューム、キレとも足りない印象を受けた。

 履正社時代から、寺島とはストレートについてよく話をした。2年の秋以降、寺島には「高校ナンバーワン左腕」「150キロ左腕」、ときには「怪物」といったフレーズがついてきたが、ストレートは常時140キロ前後。ストレートに関していえば、ドラフト時に並び称された藤平(横浜高→楽天)や今井達也(作新学院→西武)と比べると、球速、球質ともに劣っており、そこは本人も自覚していた。

 プロに入り、ストレートはどこまで変わったのか。本人に現状での手応えを聞くと、こんな答えが返ってきた。

「大事なのはストレートだけじゃないですから。トータルが大事だと思っています」

 初登板の印象は、マウンドでの表情や雰囲気、投球スタイルまで、高校時代の寺島と何も変わっていないように見えた。ただ、相手がプロの一軍に変わったことで、これまでのように抑えることができなくなった。

 たとえば、2回に二死二、三塁から京田に打たれた2点タイムリーの場面。ストレート、スライダーとも厳しいコースに投げ分けて追い込んだが、そこからファウルで4球粘られ、最後は真ん中高めに浮いたスライダーを三遊間に持っていかれた。このシーンを寺島はこう振り返った。

「ファームであの粘りはなかったです。あそこはやっぱり一軍だと思いました」

 ギリギリのコースを突いても対応され、甘く入ると一発で仕留められてしまう。ストレートだけでなく、寺島が得意球としていたスライダーのキレもいまひとつだった。

 昨年夏の時点で、寺島はストレートの速さ、キレ、変化球の精度、制球力など、ハイレベルな投手だったことは間違いないが、それぞれを5段階で評価すると「オール4」の印象があった。

 たとえば、高校時代の田中将大や松井裕樹のスライダーや、菊池雄星や藤浪晋太郎のストレートは突出しており、間違いなく「5」だった。だが寺島にはそうした「5」のボールがなかった。

「大型左腕なのに荒々しさがないのがいい」

 これはロッテの永野吉成チーフスカウトが当時語っていた寺島評だが、端的に特徴を表した言葉として今も耳に残っている。

 その一方で、しっかり結果を出す無類の安定感は文句なしの「5」だった。高校時代、公式戦で崩れたのは2年秋の大阪大会3回戦のみ(対大冠戦、延長10回を投げて被安打15、失点7)。ただ、プロで主戦として活躍するには、胸を張って勝負できる「5」のボールがほしい。そこは本人も課題になることがわかっていた。だからこそ、数字や目標を聞かれるたびにこう返してきた。

「まずはマウンドに立ってみてから。そこでどう感じるかです」

 すべては一軍のマウンドに上がってからということだった。だが、そのマウンドに立つまで、思いのほか時間がかかった。

 キャンプは一軍スタートだったが、ブルペン入り直後に内転筋を痛めた。4月にファームで初登板を果たしたが、今度は左ヒジの違和感でしばらく大事をとった。結局、イースタンリーグでは6試合、19イニングを投げただけにとどまった。もし2度の頓挫がなければ、もっと早く一軍のマウンドに上がっていただろう。

 寺島のプロ初登板の日の朝、海の向こうでヤンキースの田中将大が15奪三振の快投を演じていたが、テレビ中継を見ながら田中の楽天でのプロ1年目のことを思い出していた。

 2月のキャンプ、初実戦となった紅白戦で先発するも2本のホームランを浴びるなど2回2失点。そして2度目の実戦マウンドでも3回を2失点。またしてもホームランを2本打たれた。

 被弾したのはいずれもストレートで、あの田中でさえも入団当時はストレートに課題を抱えていた。ただ田中はそこでプロのレベルを肌で感じ、自慢のスライダーを生かす投球を磨いていった。そうして開幕からローテーションに入り、11勝を挙げる活躍を見せた。

 田中と寺島には、失敗を次につなげていける”学習能力の高さ”という共通点がある。

「投げてみて、大体こんな感じかなというのはわかったんで……そこですね」

 クラブハウスの前で立ち止まっての短い囲み取材のなかで寺島はもう一度、この言葉を繰り返した。

 一軍の雰囲気、神宮のマウンド、球場の景色……「大体こんな感じ」とわかった初登板を終え、寺島の頭のなかは一気に動き出したはずだ。10月9日からは宮崎で行なわれるフェニックスリーグに参加する予定だという。この日の”73球”をどうピッチングに生かしていくのか。さらなる飛躍を期待したい。