例年以上の大混戦となっている今季のJリーグ。その中にあって注目されているのが、3連勝を飾って4位に浮上した浦和レッズだ…
例年以上の大混戦となっている今季のJリーグ。その中にあって注目されているのが、3連勝を飾って4位に浮上した浦和レッズだ。なぜV字回復できたのか? 名門の「知られざる」復活劇のウラ事情と、「残された」最後の課題を、サッカージャーナリストの後藤健生があぶり出す!
■「幸運」と「実力」の3連勝
開幕から出遅れていた浦和レッズがJ1リーグで3連勝を飾った。
4月13日に東京・国立競技場で行われたFC町田ゼルビア戦に2対0で勝利すると、FIFAクラブ・ワールドカップ参加のために前倒しで行われた同16日の京都サンガF.C.戦、そして同20日の横浜F・マリノス戦でも勝利したのだ。
もちろん、浦和の3連勝は今シーズン初めてだ。
3勝目の横浜FM戦は多分に幸運なものだった。
前半のアディショナルタイム(45+8分)にマテウス・サヴィオが壁の横を抜いて直接FKを決めて1点リードで折り返すと、後半開始早々に横浜FMのDF諏訪間幸成がGKの朴一圭へつなごうとしてミスキック。これを拾った渡邊凌磨が難なく決めて2点のリードを奪う。
だが、その後は監督解任騒動直後の横浜FMが意地を見せ、浦和が押しこまれる展開となって、59分にはクイックスローインからつながれて、最後は山根陸にミドルシュートを決められて1点差とされた。さらに、84分には右からのクロスをエウベルが頭で落としたところに植中朝日がフリーで飛び込んで横浜FMは同点のチャンスを作ったが、植中がシュートをはずしてしまい、その直後にCKからの原口元気のクロスをダニーロ・ボザが頭でダメ押し点として勝負が決まった。
ラッキーな2点目が生まれず1点差のままだったら、あるいは植中が同点ゴールを決めていたら、試合はどう転んだか分からなかった。
ただ、互角の攻防が続いた前半でも時間の経過とともに浦和のチャンスが続くようになっていたし、後半は押しこまれながらも守備陣が耐え続けたことは事実。
そして、横浜FM戦はラッキーな勝利だったが、その前の町田、京都との試合では浦和は完勝していた。
■3連戦を現地観戦「見違えた」姿
2024年シーズンはJ1リーグで13位という順位に沈んだ浦和。
同年8月には、2023年に監督として浦和をJ1で4位に導き、ACLのタイトルをもたらしたマチェイ・スコルジャ監督を復帰させていた。
しかし、スコルジャ監督が「家庭の事情」でチームを離れていたわずか半年強の間に、浦和は主力選手の流出を含めて、彼が築き上げていたものの多くを失っており、チームの立て直しはなかなかできないままだった。
だが、ようやくここに来てチームにまとまりができ、方向性も明確になってきた。その結果が、4月後半の「3連勝」につながったのだ。
僕は、スケジュール上の都合で、町田戦からの3連戦をすべて現地観戦することになった。当初は、それまであまりパフォーマンスの良くなかった浦和の試合を3戦連続で観戦することに意欲が沸かなかったのだが、実際には見違えるように改善された姿を目撃することができた。
何が良くなったのか……。
一言で言えば、選手がよく動き、そして、その選手たちをつなぐようにボールも動くサッカーに変わったことだ。
京都戦の後半の立ち上がり(48分)に、こんな場面があった。
中盤でサミュエル・グスタフソンが右サイドにいた松尾佑介にグラウンダーのパスを付けた。そして、ボールは松尾から金子拓郎につながる。
すると、パスを出したグスタフソンは、そのまま一気に相手のペナルティーエリア内の深い位置に走り込んだ。いわゆる「ポケット」を取ったのだ。そして、金子からのパスを受けたグスタフソンがシュートを放ったが、角度がなく、ゴールの枠を捉えることはできなかった。
■パスの技術は「一級品」だったが…
この場面でのグスタフソンの動きに、僕はかなり驚いた。
グスタフソンは、スコルジャ監督が退任した後、後任としてやってきたペア=マティアス・ヘグモ監督が連れてきた選手である。スウェーデン代表歴があり、ミドルレンジのパスがうまい選手で、ヘグモ監督の下ではボランチとして絶対の存在となっていた。
たしかに、パスの技術は一流品だった。
だが、中盤の底にどっしり構えてパスを使ってチームを動かそうとする、かなりクラシックなスタイルのMFであり、チームにモビリティー(攻撃の活動性)をもたらすことができなかった。
対戦相手に対する「対策」がうまいのがJリーグというリーグだ。
当然のように、どのチームも浦和が必ずグスタフソン経由でボールを動かすのを見越して、グスタフソンにプレッシャーをかけてボールを奪おうとしたし、グスタフソンの両脇のスペースが狙われた。
そんなグスタフソンのプレー、あるいはヘグモ監督の戦術が2024年シーズン前半の浦和の失速を招いてしまった原因の一つだったことは間違いない。
そのグスタフソンも、今シーズンはスコルジャ監督のサッカーの中で動きを入れるようになっていた。だが、そのグスタフソンがパスを出した後、足を止めることなく走って、相手のボックス内の「ポケット」を取るようなプレーを見せたのだ。
昨シーズンのグスタフソンからは、考えられないような動きだった。