現在のドラフトでは長身の高校生投手が人気だ。昨年はじつに16人もの身長185センチ以上の長身投手がプロに指名された。 今…

現在のドラフトでは長身の高校生投手が人気だ。昨年はじつに16人もの身長185センチ以上の長身投手がプロに指名された。

 今年も愛知県に長身の逸材がいる。モレチ アレシャンドレ投手(誉・3年)だ。194センチ90キロ。高卒プロ入りを目指しているモレチは、現在NPB8球団、MLBのスカウトからも視察を受けている。

 愛知県北西部の小牧市にある誉高校は、19年夏に初の甲子園出場を果たし、3年前にはソフトバンク1位に指名された大型遊撃手・イヒネ イツア内野手を輩出した。徹底したフィジカルアップで速球投手、スラッガーを毎年育て上げ、野球関係者から注目を浴びている学校だ。選手の育成に携わる矢幡 真也監督は、モレチを高卒からプロで勝負させたいと考えている。

 実はモレチの存在は入学前から耳にしていた。22年のドラフト後にイヒネを取材した時、矢幡監督が「来年、面白い投手が入ります」と語っていたのがモレチだったのだ。

地元のスター・イヒネに憧れて誉へ

 小牧市在住のモレチにとって、ドラ1まで駆け上ったイヒネは地元のスターだった。

「めちゃくちゃ憧れですね。イヒネさんと僕の兄が同級生だったんですけど、たびたびイヒネさんの話を聞いていて、実際にグラウンドで練習を見学した時にイヒネさんのプレーを見て本当にすごい選手だと思いました。ドラフト1位指名を受けたイヒネさんの姿を見て、どんな形でもいいからプロに行きたいと思いました」

 誉に進んだのもイヒネの存在が大きい。

「ドラフト時には小牧市内では大きな話題となっていて、自分もイヒネさんのようになりたいと思って、誉に進学しました」

 中学時代のモレチは外野手がメインで、打力も決して優れたわけではなく、打順は下位打線が中心で、球速は130キロがやっとだった。強豪校が熱心に誘う選手ではなかったが、モレチに多大な可能性を感じた矢幡監督は手塩をかけて育てていくことを決めた。

 入学してから矢幡監督からどんな練習をして、いつピークに持っていくのかという“成長ロード”についての説明があった。

「監督からピークは3年夏。そして『線が細いので、体重を増やしていきながら、球速アップを高めていこう』と言われました。身長は当時から190センチあったので、その身長に見合った体格にしようと体作りから始めることになりました」

 当時体重74キロと細身だったモレチはフィジカルアップに努めた。それまでウエイトトレーニングをしたことがなかったため、平日ほぼ毎日行うトレーニングについていくことが精一杯だったが、体重が増えて、少しずつ球速アップを実感すると、トレーニングの楽しさを覚えた。

「最初は苦しいですが、毎日やることがレベルアップにつながることを知り、トレーニングが楽しくなりました」と笑顔で振り返る。

 そして高校2年生5月、県岐阜商との練習試合で、最速142キロをマークする。

「県岐阜商のグラウンドは球速が出るグラウンドなのですが、142キロが出たことを監督が教えてくれました。ただ相手打線がすごくて、抑えることに精一杯で、球速が出た喜びはあまりなかったですね」

 2年夏まではベンチ外。それまではBチームで投げることがメインだったが、新チームになってからベンチ入りを果たし、公式戦で登板する機会が増えた。矢幡監督曰く、それまでは良い時と悪い時の差が激しかった。

ダルビッシュ有のフォームを参考に安定感が向上

投球練習するモレチ

制球力アップのために取り組んだのが、右腕の動きを小さくして投げるショートアーム。モデルとなったのはダルビッシュ有投手だった。

「ダルビッシュ投手は憧れであり、一番参考にしている投手です。体の使い方を参考にしたり、スライダーの握り、変化は参考にしています」

 昨年、秋の県大会後に行われた全尾張大会でモレチは好投を見せて、課題だったコントロールも少しずつ改善。最速は144キロで、平均球速も138キロ前後まで伸び、手応えを掴んで冬の練習に入った。

 モレチはこの冬が勝負だと臨んでトレーニングに励んできた。

「監督とは高卒でプロにいくためには、夏にどれだけピークに持って行くことができるか。そのためには冬にどれだけ追い込んで練習をするのか、話し合いました」

 秋までの体重は87キロ。冬明けには90キロ、そして最終的に100キロまで増やすことを目標に立てた。球速も150キロ到達を目指して、取り組んできた。ウエイトトレーニングだけではなく、三段跳び、ボックスジャンプなど投手の球速アップにつなげるためのトレーニングに取り組んできた。

 結果として体重は90キロに到達。スポーツメーカーのフィジカル測定では、三段跳びは全国1位、メディシンボール投げは全国5位の数字をたたき出した。

 レベルアップのためには、研究は怠らない。昨秋、ヤクルトからドラフト1位指名を受けた中村 優斗投手(愛知工業大)を直接、球場で見て刺激を受けた。

「中村さんは平均球速150キロ中盤と、マックスの160キロとほぼ変わらない。中村さんは柔軟性があって、それを高めるトレーニングをされていました。それは自分も大事にしていて、監督とはフォームの捻転差を大事にしようといわれています」

勝負は夏。夏が終わっても貪欲にレベルアップしたい

インタビュー中のモレチ

モレチの将来性を評価してグラウンドで練習を視察する球団も増え始め、秋までは4球団だったが、8球団に増えた。さらにあるMLB球団も視察するほどになった。

矢幡監督は「この8球団の中には、熱心に足を運ぶ球団さんもありますし、まだ爆発的な球速アップとまではいきませんが、変化球の成長が著しく、ある球団からは『カットボールの精度の高さはプロの世界でも通用する』という評価をいただきました。小さな歩みですが、マウンドに立つモレチの姿は以前よりも自信を持っているように感じます」と成長に目を細める。

 ちなみに外国人の両親のもとに生まれたモレチは英語も堪能で、海外でプレーすることも選択肢の1つとしてあるという。

モレチは夏での活躍、そしてプロ入りへ向けて貪欲にレベルアップすることを語った。

「目指すのは常時140キロ中盤の速球をしっかりとコントロールできて、力を入れれば150キロを投げられるレベルまでにしたい。甲子園を狙いたいです」

 また近年の高校生投手は夏の大会後の成長も指名でのポイントとなっている。モレチは夏の大会が終わってからも貪欲にレベルアップを目指す。

「夏の大会が終わっても休まずに練習に取り組みたい。自分の2学年上に独立リーグの石川ミリオンスターズでプレーしている黒野 颯太さんがいますが、黒野さんは夏が終わってからも貪欲に練習に取り組んで、さらにレベルアップした姿を目の当たりにしました。独立リーグでも活躍し、ドラフト候補にあがっていますが、自分もそこは見習いたい」

 将来性抜群なモレチはこの春の大会、そして夏の大会で素質を開花させることができるか。

<モレチ・アレシャンドレ>

右投げ右打ち 194センチ90キロ

小牧市出身。小学校4年生から野球を始め、小牧市の少年野球チーム・マシンガンズでプレーし、中学校では名古屋富士ボーイズでプレーし、主に外野手だった。小牧市の誉から誕生したドラ1選手・イヒネ イツアに憧れ、同校に入学。B戦では投げていたが、2年秋から公式戦で登板。3年夏をピークに持っていくことをテーマに練習に取り組んでいる。