サポーターという言葉は、Jリーグの誕生とともに日本中に広がった。ワールドカップ優勝を目指すサッカー日本代表の森保一監督…

 サポーターという言葉は、Jリーグの誕生とともに日本中に広がった。ワールドカップ優勝を目指すサッカー日本代表森保一監督は、日本全体でのサポートを訴えている。蹴球放浪家・後藤健生が目撃した、サッカーが「国民的関心事」になったことで実現した「大きな夢」!

■3度目の優勝「大きかった」サポート

 ワールドカップ予選突破を決めた日本代表の森保一監督が、この頃しきりに口にする言葉があります。「国民的関心」についてです。

「ワールドカップが国中の関心事でないと優勝できない。共闘して、日本中の関心事にしていただきたい」というのです。国民からのエネルギーがピッチ上の選手たちのエネルギーになるというのです。

 どこか精神論っぽく聞えますし、抽象的でもあります。また、「国民」という政治的な意味も含む言葉を持ち出すと、ちょっと炎上しそうで恐いのですが、ただ、これまで数多くのワールドカップで現場にいた僕としては、森保監督の言いたいことについては思い当たるフシが数多くあります。

 たとえば、2022年のカタール・ワールドカップではアルゼンチンがPK戦の末にフランスを破って3度目の優勝を果たしました。リオネル・メッシの最後の(と、あのときは誰もが思っていた)ワールドカップへの執念とか、PK戦も含めて好セーブを連発した“お騒がせ男”エミリアーノ・マルティネスとか、優勝を手繰り寄せたのはピッチ上で戦った選手たちであることに間違いありませんが、あのときのアルゼンチンの「国民的なサポート」の力もたしかに大きかったことでしょう。

■チケットを「持っていなくても」応援に

 あのときのカタールには、いったい、どれだけの数のアルゼンチン人が滞在していたのでしょう?

 決勝戦があったルサイル・スタジアムの収容力が9万人弱。その約半数がアルゼンチン人だったとして約4万人ですが、おそらくチケットを持たないアルゼンチン人が数万人はいたに違いありません。

 実際、僕がカタールに到着して空港から宿泊場所に移動するバスの中で出会ったアルゼンチン人は「チケットはまったく持っていない」と言っていました。あの後、彼は無事にチケットを手に入れることができたのでしょうか?

 それでも、チケットも持っていなくても、彼らは大金をはたいでカタールまで来てしまうのです。

■ドーハで「アルゼンチン人」に囲まれて

 僕が泊まっていたのはドーハの南、アル・ワクラ市にあった外国人労働者用住宅でした。

 人口300万人のうち、カタール国籍は30万人ほど。肉体労働や家事労働などは南アジア、東南アジア、アフリカなどからやってきた労働者にすべて任せているカタール。その労働者は労働者向け集合住宅で集団生活をしています。

 高い塀に囲まれた敷地内に、まったく同じデザインの3階建ての集合住宅が何百棟も建ち並んでいるのです。

 アル・ワクラに新しく建設された新築の集合住宅を、ワールドカップ観戦者用に貸し出し、大会終了後に改装して労働者住宅にするというわけです。

 世界各国からのファン、サポーターが何万人もともに宿泊し、無料のシャトルバスに乗ってスタジアムや市内に往復するわけです。

 で、僕が借りていた部屋の周囲は、ほとんどがアルゼンチン人でした。人口約4000万人のアルゼンチンから、数万人がワールドカップのためにカタールに来て、1か月を過ごすわけです。

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