4月12日、長野県安曇野市。超満員の会場で、サントリーサンバーズ大阪はVC長野トライデンツを3-0のストレートで下している。怒涛の15連勝で、レギュラーシーズン2位以上を確定。SVリーグ初代王者を決するチャンピオンシップには、1位の大阪ブ…
4月12日、長野県安曇野市。超満員の会場で、サントリーサンバーズ大阪はVC長野トライデンツを3-0のストレートで下している。怒涛の15連勝で、レギュラーシーズン2位以上を確定。SVリーグ初代王者を決するチャンピオンシップには、1位の大阪ブルテオンとともに準決勝から参戦することが決まった(3~6位は準々決勝から出場)。
実は3月中旬のインタビュー、サンバーズのエースである髙橋藍(23歳)はこう誓っていた。
「2位以内に入れるように戦います」
当時、チームはチャンピオンシップ出場が決まったばかり。3位に浮上していたが、2位以上になるのは他のチーム次第という状況だった。しかし、彼の言葉は確信に満ちていた。それだけの手応えがあったのだろう。
実際、サンバーズは破竹の勢いだった。2位だったウルフドッグス名古屋が星を落とす一方、首位を独走していたブルテオンに連勝し、事もなげに目標を達成した。チャンピオンシップに向け、王者の風格が出てきた―――。
レギュラーシーズン2位でチャンピオンシップ準決勝進出を決めたサントリーサンバーズ大阪の髙橋藍 photo by Koji Watanabe/Getty Images
プロスポーツにおいて"王者にふさわしいか"は、ビッグマッチのあとの何気ない一戦で問われる。
1週間前、サンバーズは強豪ブルテオンと死闘を繰り広げ、劇的な連勝を飾っていた。その高揚感は想像できるだろう。一方、その後は疲労感が出るものだし、どこかで気も緩む。奢りや油断が生まれやすい。10チーム中9位の長野戦は、周りも「勝って当然」となるからこそ厄介で、「3-0のストレート勝利で2位確定」は、簡単な条件ではなかった。
「先週末にブルテオン相手にいい試合をしたあと、(長野戦は)むしろ難しい試合になると思っていました。先週と同じレベルで集中力をきらさず、プレー効率性を保つのは簡単ではありません」
そう語ったオリビエ・キャットヘッドコーチは、さすがに勝負の機微を理解していた。
髙橋もそれは同じだった。
「自分も(その難しさは)考えていて、チームでも『相手に合わせないようにしよう』と声をかけていました。今週は特に自分たちのリズムで戦うのが大事だと思っていて、長野とは気持ちの面でも違い、相手の流れに合わせると、ぐだぐだといってしまう。攻撃を仕掛け、得点を取りにいく、自分たちのリズムが大事だと思っていました」
【確立されているチームの勝ちパターン】
髙橋はそう振り返るが、まさに有言実行だった。
「(序盤は拮抗した展開だったが)最初から引き離せたらラクですけど、なかなか簡単にはいきません。だから、まずは我慢で、相手がいいプレーをしてきても食らいついていく。必ず離せるチャンスがあるので、エースやブロックを自分たちがものにできるか。結局、10点くらいからはブレイクを取って差を広げ、"自分たちのバレーの勝ち方"をしっかりと出せたかなって」
サーブで崩し、ブロックで勝負。チームには単純明快な勝ちパターンが"インストール"されている。サーブはドミトリー・ムセルスキー、アライン・デ・アルマスがパワーサーブでエースを狙い、怖さを与える。髙橋はショートサーブで崩し、大宅真樹がジャンプフローターで幻惑。相手チームはわかっていても戸惑い、レシーブが乱れ、Aパスを戻すのにも四苦八苦だ。
「サンバーズはもともとサーブ能力が高い選手多いです」
髙橋はそう説明する。
「ディマ(ムセルスキー)やAJ(アライン)がパワーヒッターとして、サービスエースで貢献してくれて。他の選手はエース狙いよりも効果的に崩し、ディマとAJのふたりがブロックで勝負できる強みを生かす形ですね。(効果的なサーブで)相手の攻撃枚数を減らしながら、ディフェンスとブロックで崩していく。それが自分たちの戦い方です」
ムセルスキー、アラインのふたりが制空権を握るだけでない。ミドルブロッカーも、復帰した小野寺大志、長野戦のPOM(プレイヤー・オブ・マッチ)の鬼木錬などが奮戦。サーブとブロックの両輪で勝機を呼び込んでいる。
そして髙橋は、変幻自在の攻守で意外性を見せる。長野戦もオールラウンダーぶりは健在で、バックアタックが光彩を放ち、広角に振り分けるスパイクは非凡で、サーブレシーブも一流リベロ顔負けだった。サーブがネットインしてエースになる幸運もあったが、相手を苦しめているからこそ、そうした現象も生まれるのだ。
もはや、死角はないのか?
「今はすごい自信を持って、サンバーズはプレーができています。それは、すごくいいことですけど......」
髙橋は一拍置いて、こう続けている。
「ファイナルはファイナルで戦っていく、というのも重要だと思っています。このままファイナルに行くと、きっと難しいところもあって、初心というか、気持ちを一回リセットして戦うべきで。気後れはせず、でも意識はしすぎず、今以上に強いサンバーズを求めていくことが勝利につながると思います」
髙橋は、彼らしい勝負論を語っていた。死角がない、という自信過剰こそ、勝負の感覚を鈍らせる。流れを失った途端、バレーボールは魔物に底まで引きずり込まれるのだ。
翌4月13日、サンバーズは長野を再び3-0とストレートで打ち負かしている。髙橋など主力を温存しながら、16連勝でレギュラーシーズンを締めくくったことは、チャンピオンシップに向けて朗報だろう。ただ、タイトルをかけた戦いは別物だ。
「最後は自分たちを信じて」
髙橋の誓いだ。