「94年組」──いつ誰が言い出したか、日本女子テニス界にはいつしか、そう呼ばれる選手たちがいる。ジュニア時代……いや、それこそ小学生のころから互いを知り、手垢のついた表現ではあるが「切磋琢磨」しながら高めあってき…

「94年組」──いつ誰が言い出したか、日本女子テニス界にはいつしか、そう呼ばれる選手たちがいる。ジュニア時代……いや、それこそ小学生のころから互いを知り、手垢のついた表現ではあるが「切磋琢磨」しながら高めあってきた友人にしてライバル。現在、四大大会など主要トーナメントに名を連ねる日本人の大半を占めるのが、実はこの94年生まれの選手たちだ。

 今年9月末に東京で開催された東レパンパシフィックオープンの本戦にも、単複含めて4人の「94年組」が出場。そこで、日ごろは日本で一堂に会する機会のあまりない皆さんに、このときとばかりに座談会をお願いした。

 集まると同時に「これって、真剣な感じなんですか?」と問う尾崎選手に、すかさず「真剣って、どういう意味!?」とツッコミを入れる面々。そんなに堅苦しくなく、でも皆さんの想いをそれなりに真剣に、リラックスしつつも少しばかりこそばゆい緊張感が浮遊するなかで、まずは互いが出会った日を振り返ってもらった。

【対談参加者】
穂積絵莉(ほづみ・えり)
1994年2月17日生まれ。神奈川県出身。2013年全日本選手権優勝。ダブルスでは2016年に加藤未唯と組みカトヴィツェ大会を制してツアー初優勝。2017年の全豪オープンでも加藤と組んでベスト4に入り、シングルスでは予選を突破して本戦出場を果たした。

尾崎里紗(おざき・りさ)
1994年4月10日生まれ。兵庫県出身。2016年にWTAツアー江西大会でベスト4となり、同年末にトップ100入り。今季はグランドスラムやツアーを主戦場とし、3月のマイアミ大会は予選から勝ち上がり4回戦進出。8月の全米オープンではグランドスラム初勝利をあげる。

二宮真琴(にのみや・まこと)
1994年5月28日生まれ。広島県出身。2011年のトヨタ75,000ドル大会を同期の澤柳璃子と組んだ「17歳ペア」で制するなど、早くからダブルスで頭角を現す。2016年に青山修子と組んでジャパンウィメンズオープン優勝。2017年はレナタ・ボラコバ(チェコ)と組んでウインブルドンベスト4。

加藤未唯(かとう・みゆ)
1994年11月21日生まれ。京都府出身。ダブルスでは2016年に穂積と組み、カトヴィツェ大会を制してツアー初優勝。2017年は同じく穂積と組んで全豪ベスト4入り、シングルスでも全仏本戦出場。ジャパンウィメンズオープンでは予選から勝ち上がって準優勝と飛躍の年を迎える。



ダブルスを組むことの多い加藤未唯(左)と穂積絵莉(右)

── まずは皆さんの出会いの時期を、それぞれ振り返っていただけますか?

加藤未唯(以下:加藤) 私は(穂積)絵莉と会ったのは中3のとき……その前から会場とかでは会ってたらしいんですが、顔と名前は一致してなくて。2009年かな? 10月のスーパージュニア(大阪市開催の世界トップジュニアが集う大会)でチラッと挨拶したのが最初です。そして翌年1月の全豪ジュニアで初めてダブルスを組んで、そこからよく組むようになりました。(尾崎)里紗とは小学6年のとき、関小(関西小学生テニス選手権)で対戦したのが最初。

尾崎里紗(以下:尾崎) ……覚えてない。

加藤 その後の全小(全国小学生テニス選手権)のときに、「えっ、あの子(尾崎)第1シードなん?」って驚いたのを覚えてます。(二宮)真琴はよく京都や関西の試合に来ていたから、前から知ってて。小4のときかな? お正月に京都でやっていた大会で会ったのが最初だよね。

二宮真琴(以下:二宮) あのときのこと、よく覚えてる。ちょーセレブな小学生がいるって(笑)。

加藤 セレブちゃうって(笑)。

二宮 あの日、すごく寒くてめっちゃ雪が降ってたんだけど、(加藤)未唯ちゃんは白いモコモコした毛皮みたいなのを羽織ってて。「超お嬢様!」って感じで、でもすごく可愛くって。インパクト残ってる。

穂積絵莉(以下:穂積) 私が未唯を覚えているのは、たぶんスーパージュニアよりも前の、8月の全日本ジュニア(12歳から18歳までの年齢別大会)かな? センターコートの入り口のところで、すごいたくさん……10人くらいの女子が騒いでいて、その中心にいたのが未唯だった。

尾崎 いそ~(笑)。

穂積 でしょ? で、それまでは会ったことも話したこともなかったけれど、未唯の噂は聞いていたから、名前は知ってて。「こいつがカトウミユか」って(笑)。最初の印象は「うるさい子だな~」だった。真琴と会ったのは13歳のとき。RSK全国選抜ジュニアで3~6位になった人が参加するワールドジュニア(国別対抗戦)の選考会があって、そのときだよね。里紗とは……どうやって会ったか、あまり覚えてなくて。

尾崎 私も覚えてない。……というか、みんな覚えてない。

一同 笑。

穂積 里紗は友だちいなかったからね~(笑)。里紗とは友だちという距離感じゃなかったから。「あっ、オザキさんだ。おはようございます」って感じで。

加藤 エリートだったから、里紗は。

尾崎 ウチはコーチとも話して「他の子はライバルなんだから、ワイワイつるまない」という方針だったから。いつも単独行動を取ってたね。浮いてたかな、私?

穂積 浮いていたというより、私たちは避けられてるって感じてた。



今年の全米OPでグランドスラム初勝利をあげた尾崎里紗

尾崎 でも私、未唯のことは小学生のとき、「かとちゃん」って呼んでたよね?

加藤 うん、呼んでた、呼んでた。友だち”風”だった(笑)。

尾崎 マコちゃんと会ったのは……いつだっけ?

二宮 高校に入ったときじゃない?

穂積 ふたり、同じ高校(西宮甲英高等学院)だもんね。

尾崎 そのときが初めてかな、ちゃんとしゃべったのは? それまでは……お互い、おとなしくて口数が少ないほうだから。

加藤 買い物に行ってたやん、ふたりで。

尾崎 そうだ。通信制の高校だったけど、ときどき授業にも一緒に出て、その帰りにどっかに行ったりね。

二宮 モールに行って買い物したね。

尾崎 未唯とは関小で対戦してたんだ?

加藤 うん。負けた。里紗がすんごい飛ばしたボールをドライブボレーしたのを覚えてる。見送ればアウトなボールを、わざわざノーバウンドで手を伸ばして、ドライブボレーしてネットにかけた(笑)。

── 加藤さんがさっき、尾崎さんが全小で第1シードだと知って驚いたと言っていましたが、それはそこまで強くない印象だったからですか?

加藤 いや、その時代は望帆(※1)がすっごい強かったんですよ。

※1=小和瀬望帆(こわせ・みほ)。1995年1月18日生まれ。千葉県出身。高校卒業後は米国オハイオ州立大学に進学してNCAAで活躍。今年5月、NCAA選手権ダブルスを制して全米チャンピオンになる。

尾崎 望帆はその前の年から全小に出てたからね。私はその前の年まで、全小どころか関小も出てなかったから。

穂積 大丈夫。私、全小、一度も出てないから(笑)。

── お話をうかがっていると、改めて皆さんが昔からお互いを知っていることに驚くのですが、それだけ長く付き合っているなかで、この子は変わったなと感じる人はいますか?

加藤 ここにはいないけど、璃子(※2)ですね。前はめっちゃ騒いでたんですよ。私たちのなかでも、たぶん一番はしゃいでたんじゃないかな? 今はクールだけど。

※2=澤柳璃子(さわやなぎ・りこ)。1994年10月25日生まれ。北海道出身。2015年10月にシングルスランキング178位に到達。

尾崎 ウインブルドンのときとか、ヤバかったよね。ドッキリを仕掛けたときとか。

一同 あった、あった(笑)。

── なんですか、そのドッキリとは?

穂積 ウインブルドンジュニアのときなんですけど、会場からホテルへ帰る送迎車に、私、望帆、真琴、未唯が一緒に乗っていて、そのとき「同期で団体戦やりたいよねー」という話で盛り上がっていたんですよ。そんなに盛り上がっていたのに望帆が突然、「あれ、ジョコビッチの家だ!」って私が話しているところにかぶせてきて、そこから話題を変えちゃって。望帆って基本的に人の話、聞かないんです(笑)。それで私は「あ~、また始まった」という感じで黙ってたんですが、「これ、このままずっと怒ったふりして黙ってたら、何かに使えるかな~」と思って、ホテルに帰るまでずっと黙ってたんです。で、その後、望帆は自分の部屋に行ったんだよね?



早くからダブルスで頭角を現していた二宮真琴

加藤 そう。で、「ドッキリを仕掛けよう」って話になって。「望帆は人の話を聞かないから、ちょっと懲らしめよう」って(笑)。

穂積 そうそう。ホテルも寮のような場所でリビングルームがあったから、そこで話し合って。そのときのメンバーは、ここの4人と、菜緒(※3)、璃子もいたよね。

※3=日比野菜緒(ひびの・なお)。1994年11月28日生まれ。愛知県出身。2015年にタシュケントオープンを制し、ツアー本戦出場2大会目にして優勝の快挙を成し遂げる。その後も2016年タシュケントオープン準優勝、2017年にはマレーシアオープンと江西オープンで準優勝、ダブルスでもモントレイオープン優勝と活躍。シングルス最高56位の94年組出世頭。

加藤 で、作戦を練ったんですよ。私たちが話をしているときにひとりが怒ったふりして、「そんなに怒らんでもええやん」「いや、さっきから怒っているといえば絵莉だよ」みたいな流れにもっていこうって。

穂積 テーブルに私、真琴、望帆が座っていて、隣のソファーに里紗と未唯や菜緒たちがいて。で、私が無言で、めっちゃキレてる雰囲気を出す。そこに未唯と菜緒が「絵莉、なんでそんなに怒ってるの?」って聞いたら、私が望帆に向かってブワーッてキレて言いたいことを言って、最後はバーンと扉から出て行く……という作戦で。

加藤 私たちは「絵莉、あんなつまらんことで怒らんでもええやん」と望帆をフォローしつつ、絵莉が前もって用意していた『ドッキリ大成功!』って書いた紙を持って部屋に戻ってくる(笑)。

尾崎 それさ、テイク2やったよね。

一同 やった、やった! ビデオ撮ろうって。

尾崎 全部演技(笑)。

加藤 でも望帆、最初のときは半泣きだったよね。

尾崎 なるよね、あれは。

加藤 「もうやだ~、あんなに怒んなくてもよくない!?」って言ってたもん。

穂積 たしかに。あんなに怒ることではない。

一同 爆笑。

── その小和瀬さんは今年の全米オープンのとき、「みんなに会いたいから」とニューヨークに来ていましたよね。皆さんと食事にも行ったとか?

二宮 望帆ちゃん、ずっとしゃべってたよね、そのときも。

穂積 100パーセント、望帆だった。絶対に人の話、聞いてなかったよね。「うんうんうん、でね……」って自分の話を始める(笑)。

加藤 会うのは久しぶりだったからね。話したくって仕方なかったんだろうね。

穂積 もうドッキリのことも忘れてたね。

加藤 その話、したらよかった(笑)。

(後編に続く)