サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マ…
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、口をポカンと開けて見送るしかない、「特大の一撃」について。
■「とんでもない」ゴール
イングランドの6部に当たる「ナショナル・リーグ・サウス」で、とんでもないロングシュートが決まり、話題になっている。
3月29日土曜日に行われた「ホーンチャーチvsウェストン=スーパー=メア」。ビジターチームが3-2とリードして迎えた後半アディショナルタイムに、それは生まれた。ホームのホーンチャーチが左CKを得た。最後のチャンス。同点ゴールを狙ってGKも上がってくる。しかし、キックは跳ね返され、ペナルティースポットあたりでウェストンのFWルーク・コウルソンが拾う。
完全にコントロールできたわけではなかったが、相手も近くにいる。コウルソンは小さくバウンドしたボールをそのまま右足インステップでとらえ、鋭く振り抜いた。「クリア」の意識だったのかもしれない。ボールは相手陣のセンターサークル内に落ち、大きくバウンドした。そして3バウンド目でペナルティーエリアに入り、さらに4バウンドすると、小さな8バウンド目がホーンチャーチのゴール内だった。ウェストン=スーパー=メアは4-2で勝利をつかんだ。
■決めたのは「マンC育ち」
会場はロンドンの東近郊にある「ホーンチャーチ・スタジアム」という小さな陸上競技場である。自治体所有で、ホーンチャーチFCのホームとなっている。ピッチの大きさが公表されていないため、コウルソンのゴールの正確な距離はわからないが、Google Mapで見ると縦100メートル前後のようで、蹴ったのがペナルティーマーク近辺とすると、90メートル近いシュートだったことになる。
ホーンチャーチ・スタジアムは1956年に建設され、収容は3500人。うち座席は800席。この日の入場者は615人だった。
ルーク・コウルソンはリバプールとマンチェスターの間にある「セントヘレンズ」という小さな町の出身で、31歳のウインガー。マンチェスター・シティのアカデミーで育ったが、すぐにはプロになれず、アメリカのミシガン大学に在籍しながら、いくつかのイングランド・クラブのテストを受け続け、ようやくチャンピオンシップ(イングランド2部)のカーディフ・シティと契約した。しかし、リーグ戦出場はならず、その後は主として「ノンリーグ」と呼ばれる5部以下のクラブで活躍してきた。ウェストン=スーパー=メアと契約したのは2024年の5月のことで、今季は39試合に出場して19得点という「エース級」の活躍を見せている。
ちなみに、「ウェストン=スーパー=メア」という地名を私は初めて聞いたのだが、イングランド南西部、サマセット州の北部にある人口8万5000人の保養地だという。「スーパー=メア」はクラブのニックネームではない。「メア」はラテン語由来の「海」のことであり、どうやらフランスで各地にある「○○○シュルメール(海辺の○○○)」という地名の付け方をまねしたものらしい。すなわち、「海辺のウェストン」ということになる。
その名のとおり、この町はブリストル湾に臨む保養地で、海岸には2本の大きな桟橋(船を係留するためのものではない)がつくられ、そこが遊園地のようになっていて、夏のバカンスの時期にはたくさんの人を集めるという。
■世界記録の保持者は「GK」
さて、「ロングシュートの世界記録」というものが『ギネスブック』で認定されている。それによると、記録保持者はイングランド「リーグ2」(4部リーグ)のニューポート・カウンティFCでプレーしていたトム・キング(現在はプレミアリーグのウォルバーハンプトン・ワンダラーズ所属)。ポジションはGKである。
2021年1月19日に行われたチェルトナム・タウンとのアウェーゲームの前半12分、ゴールキックを得たニューポートは、GKキングがボールをセット、相手陣深く目がけて右足を振り抜いた。ボールは高く上がり、折からの強い北風に乗って伸びた。そしてチェルトナムのペナルティーエリアの手前で大きく弾むと、懸命にジャンプするGKジョシュ・グリフィスの頭上を越え、ゴールに吸い込まれて先制点となったのである。ただ、試合は前半のアディショナルタイムにホームのチェルトナムが同点として1-1で引き分けた。
チェルトナムのワドン・ロード・スタジアムのピッチは、縦111ヤード(101.5メートル)、横72ヤード(65.8メートル)と、やや小ぶり。キングのゴールキックはゴールエリアラインのほぼ中央にボールが置かれて行われたから、『ギネスブック』は相手ゴールまでの距離は105ヤード、すなわち96.01メートルと認定した。これが、それまでの「世界記録」だった「91.9メートル」を抜いたのである。