◇メジャー初戦◇マスターズ 事前(8日)◇オーガスタナショナルGC(ジョージア州)◇7555yd(パー72)例年オーガ…

開幕前から大勢のパトロンでにぎわうオーガスタナショナルGC

◇メジャー初戦◇マスターズ 事前(8日)◇オーガスタナショナルGC(ジョージア州)◇7555yd(パー72)

例年オーガスタナショナルGCで開催されるゴルフの祭典はチケットもプレミア級で、ファンにとっても生観戦が困難な“夢舞台”だ。今回は過去にオーガスタを視察した大会運営者に話を聞き、選手やギャラリーとは異なる視点から、テレビだけでは伝わらない現地での体験談を紹介する。

細部までこだわる“おもてなし”

国内男女ツアーとシニアツアーの大会運営に携わる株式会社ダンロップスポーツエンタープライズのトーナメント事業部・松尾和哉さんがオーガスタを訪れたのは2022年大会。運営側の動きを中心に、最終日まで7日間にわたり視察を行った。

会場には例年700人ほどが集まるとされるボランティアをはじめ、数千人の大会スタッフが運営に関わる。大切な業務のひとつが、コース内の景観をキレイに保つごみの対応だ。日本でも、ほかのPGAツアートーナメントでも、定期的にカートで大量のごみが入った袋を運ぶ様子を見かけるが、マスターズはやっぱり違う。

「ごみを回収しているカートは一回も見ませんでした。グリーンやティイングエリアの脇の茂みに4m幅くらいの、中が見えないようになっているボックスみたいなものがあって。そこにためておいて、会場をクローズしてから(回収を)やっているのかもしれません」。さらに、専用のハサミ付きステッキでごみを拾うスタッフがコースを巡回。落ちているごみへの対応にも抜かりはない。

コースを回遊する清掃スタッフ

入場者への“おもてなし”は隅々まで行き届き、「トイレには4、5人のスタッフがいました」というスタッフ配分も他トーナメントとの違いを感じさせる。日本では「1、2時間と定期的に仮設トイレの清掃チェックはしていても、スタッフを常駐させることはない」という。

日本のトーナメントでは1カ所でも珍しくはない救護エリアも、オーガスタではコース内に5カ所、ゲート付近も含めれば計8カ所もある。広大な土地に、想像できないほどの集客力を持つゆえの体制とも言える。

晴れているけど…避難して!

日本で企画から運営まで大会づくりに奔走してきたプロの目から見て、悪天候時の対応の早さに目を見張ったという。それは開幕2日前の火曜日のこと。「午前11時くらいに突如ホーンが鳴ったんです。まだ晴天ですよ?」

日本ツアーでも、レーダーによる会場付近の天候チェックは常に行われている。既定の距離に雷雲が観測されれば迅速な避難誘導が求められるのはもちろんだが、このとき雷雲が来たのは午後1時過ぎだった。実に2時間前に避難を告げるホーンが鳴ったことになる。松尾さんは「日本だと怪しい雲が近づき、50㎞圏内に入ったら…と判断をするときもあるけど、晴れ間にホーンを鳴らそうとはなかなかならない」と言う。

青空が広がっていても油断は禁物

コースは練習日から観戦チケットを手にした通称“パトロン”たちで埋め尽くされる。その中には抽選にようやく当たった人がいれば、大金を払って入場した人もいるだろう。予報が外れる可能性を考慮すれば晴天時にホーンを鳴らすことに躊躇(ちゅうちょ)しそうなものだが、「オーガスタはたぶんギリギリまで待つと(全員の避難が)大変なことになる」と推測する。

ギャラリーが車で訪れた場合、日本ではコース付近の専用駐車場から送迎バスで向かうことが多い。対してマスターズは徒歩で駐車場とコースを往来するため、即座に車両へ避難することは難しい。松尾さんはホーンが鳴った当時、ゲートから遠いインコース側にいたと言い、「車に戻るまでに1時間かかった」とのこと。広大なコースに散在するギャラリー全員が避難するためには、決して早すぎるタイミングではないのかもしれない。

大雨でも心配無用?

開幕前日の水曜日も会場は激しい雨に襲われた。恒例行事のパー3コンテストは午後4時前にサスペンデッドとなり、会場を離れた松尾さんは約20㎞離れたオーガスタ空港に車を飛ばした。「人を迎えに行ったんですけど、アトランタ空港から飛行機が飛べないほど風も雨もすごくて。車内で5時間待機するほどの嵐。コースはすごいことになっているのではないか」。本戦を翌日に控えたコース状況が気がかりだった。

大会初日は30分遅らせた午前8時30分にスタート。1番のティイングエリア周辺がギャラリーに開放されたのは午前8時で、松尾さんはコースに真っ先に向かったが、「水たまりなんてどこにもなかった」と振り返る。

大雨でも…大丈夫!

米経済誌フォーブス(電子版)によると、オーガスタナショナルGCのグリーン下には「サブエアーシステム(Sub Air System)」が導入されており、芝下から温風を吹き込んで土壌温度と水分の管理ができるようになっている。9番、18番といった後ろのホールを大会スタッフが先行して排水作業をするありがちな光景も、「作業している人なんていなかった」と驚いた。

心に響いた日常の風景

7日間の視察でなによりも心に刺さったのは、コースで会う誰もが交わす日常的なひと言だったと振り返る。

「警備員、ボランティアと全てのスタッフが業種に関係なく気持ちよく挨拶していて。これが一番良かった。国民性もあるかもしれないけど、朝は『Good Morning(おはよう)』から始まって。イベントをやっていく上では必要なことだと思った」。参加する一人ひとりの思いが1年に一度の開催へとつなげている。(編集部・石井操)

株式会社ダンロップスポーツエンタープライズのトーナメント事業部・松尾和哉さん