データ分析の進化が続くサッカー界で、人工知能(AI)を使った新たな挑戦をしているベンチャー企業がある。立ち上げたのは、…

 データ分析の進化が続くサッカー界で、人工知能(AI)を使った新たな挑戦をしているベンチャー企業がある。立ち上げたのは、日本代表の三笘薫(ブライトン)が育った筑波大蹴球部の同期や後輩たち。昨年から始まったワールドカップ(W杯)アジア最終予選の映像をもとに、三笘の動きを「分析」してもらった。

 「ボールを持っている選手だけでなく、持っていない選手の得点機会を数値化できるのが一つの特徴です」

 株式会社Playboxのスコットアトムさん(27)は言う。

 三笘と同期のスコットアトムさんは蹴球部に所属していた当時、対戦相手のデータ収集などを担う「分析班」だった。同じく蹴球部出身の内田郁真さん(27)らと会社を創業したのは昨年11月。「サッカー界のために分析にかかるコスト(値段)を下げられないか」という問題意識がきっかけだった。

 欧州のトップをはじめ、Jリーグなどプロの世界ではスタジアムで収集された専用データを使うことが主流だ。ただ、分析会社に依頼すれば最低でも1試合で十数万円。大会によっては数百万円単位の費用がかかり、高校・大学など部活動の現場やリーグ戦ではなかなか浸透してこなかった。

 「育成の現場でももっと手軽にデータを分析し、客観的に自分のプレーを顧みる習慣がつけば、自身のプレーももっと良くなると思うし、日本のサッカー界のためにもなる」と内田さん。そこで、AIを使ってテレビ映像からピッチ上の選手の座標(位置)を推定し、選手やボールの位置をふまえて攻撃の価値を可視化する取り組みを始めた。

 実際に、攻撃選手の動きやスペースを評価する手法を用いてW杯アジア最終予選の初戦、中国戦での三笘の得点シーンを分析してもらった。

 前半47分、右サイドの堂安律(フライブルク)のクロスを頭で合わせて決めたシーン。その瞬間の得点の期待値は、三笘よりも堂安や中央に陣取っていた守田英正(スポルティング)、上田綺世(フェイエノールト)の値のほうが高かった。

 「三笘選手が得点を決めたので注目が集まりがちですが、ほかの選手よりもスコア(期待値)は低い。堂安選手がピンポイントで合わせたクロスの質や守田選手、上田選手といった他の選手がスペースを作る動きが巧みだったからこそ、挙げられた得点とも言えます」

 相手を崩すドリブルやパスなど、目立った動きばかりが評価されがちだが、こうしたデータ分析によって、味方にスペースを作る動きなども客観的に可視化できるようになる。

 ほかにも三笘のシーンを分析してみると、ドリブルで直接相手をかわしていなくても、2人を引きつけてパスを出すなど、チャンスを作り出しているシーンも目立つという。

 現状は、観戦しているときにリアルタイムでデータを出すことはできないが、徐々に分析範囲が広がってきている。「テレビの映像を見ながら、プロだけではなく、アマチュアのチームでも戦術分析ができるようになれば」とスコットアトムさんは話す。(照屋健)