梶谷隆幸氏はDeNAの球団初出場となった2016年CSで活躍した DeNAで14年間プレーした梶谷隆幸氏は、球団初出場となった2016年の巨人とのクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージで、死球を受けて左手薬指を骨折した。だが広島と…
梶谷隆幸氏はDeNAの球団初出場となった2016年CSで活躍した
DeNAで14年間プレーした梶谷隆幸氏は、球団初出場となった2016年の巨人とのクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージで、死球を受けて左手薬指を骨折した。だが広島とのファイナルステージにも強行出場し、激痛に耐えながら本塁打を放ったり、ダビングキャッチを敢行したりと恐ろしいほどの根性をみせて「骨が折れても死ぬ気でやればできる」と振り返った。
ファンの間では語り草となっている“梶谷伝説”だ。巨人とのファーストSで内海から死球を受けて左手薬指を骨折し、ベンチ裏で悔し涙を流したが、チームの勝利を見届けると「行くしかない」。腹を括って広島戦の強行出場をラミレス監督に直訴した。
初戦を前にしたマツダスタジアムのトレーナー室。折れた薬指と“添え木”代わりの小指の2本を一緒にテーピングでグルグル巻きにして固定した。だが、「あれ? 手袋もグローブも指が入んねえじゃん」。視界に入ったのはハサミだった。
梶谷氏は迷うことなく打撃用手袋の両指部分をカット。さらに2年間愛用していたグラブの外側にも大きな穴を作った。患部をグラブの外に出すことで、少しでも衝撃を軽減しようとした。「グラブの皮は硬かったけど、うまく切れました」。練習前に鎮痛剤を2錠、プレーボール前にさらに2錠を服用してグラウンドに立った。「副作用でフラフラしていましたけどね」。大胆な行動で周囲を驚かせ、そしてプレーではファンをも驚かせた。
初戦はチームの全3安打のうち2本が梶谷氏。第3戦では適時打に加え、守備でも8回2死満塁のピンチにフェンス際への飛球へ猛スピードで突っ込み、躊躇なくダイブして捕球した。グラブの穴からむき出しの骨折箇所を強く打ちつけ、しばらく起き上がれず。同僚やトレーナーに抱えられながらベンチへ戻った。
「金本さんは手首を折っていましたからね」
「フェンスがあるとか、骨折しているとか、何も考えずに飛び込みました(笑)。今思うと危ないですよね。折れた指を地面にガーっと擦ったんです。それがめっちゃ痛かったですね」
苦悶の表情を浮かべながらも、9回も守備について勝利に貢献した。驚くべきは翌日の第4戦で、痛みでバットを強く握れないながらも本塁打を放ったこと。結局、DeNAは1勝3敗で日本シリーズ進出を逃したが、梶谷氏はファイナルSの全4試合にフル出場し、16打数4安打の打率.250、1本塁打、チーム最多の3打点という成績を残した。
「金本(知憲)さんは手首を折っていましたからね。それでいうと僕は指ですから」。1492試合連続フルイニング出場を成し遂げた「鉄人」を引き合いに、事もなげに振り返った。「あの年の契約更改の会見でもいいましたが、骨が折れても死ぬ気でやればできるんです」と笑った。
「初めてのCSというのが大きかった。高校のときの甲子園もそうでしたけど、僕は短期決戦が好きでギンギンに燃えていました。そういった状況でこそ、人間としての価値が表れるというか、成長できると思っています」。骨折を超越した梶谷氏のモチベーション。“穴あき”グラブは今でも自宅に保管しているという。18年間のプロキャリアで刻んだ伝説の真相だ。(湯浅大 / Dai Yuasa)