鬼木達監督を迎えた鹿島アントラーズが好調だ。開幕戦こそ落としたが、その後は白星を重ねて首位に立っている。前節のヴィッセル神戸戦では、その強さの理由が垣間見えた。昨季王者との対戦で見えた「鬼木アントラーズ」の現在地をサッカージャーナリスト後…

 鬼木達監督を迎えた鹿島アントラーズが好調だ。開幕戦こそ落としたが、その後は白星を重ねて首位に立っている。前節のヴィッセル神戸戦では、その強さの理由が垣間見えた。昨季王者との対戦で見えた「鬼木アントラーズ」の現在地をサッカージャーナリスト後藤健生が探る。

■可能性を感じた「2つの決定機」

 だが、鹿島アントラーズはボールを奪ってからロングボールを蹴るだけではなかった。

 たとえば、前半の40分にレオ・セアラが放ったシュートが右サイドのゴールポストをかすめた決定機の場面だ。

 最初は、再びGKの早川友基が蹴ったロングボールを左タッチライン沿いで追ったチャヴリッチが収めたところから攻撃が始まった。左サイドで、チャヴリッチとサイドバックの安西幸輝、そして、2トップの一角ながら再三左サイドに顔を出す鈴木優磨の3人が絡んで、ワンタッチパスを回し始める。

 チャヴリッチが落としたボールを安西が鈴木につなぎ、鈴木が落としたボールをMFの舩橋佑がタッチライン沿いの鈴木に渡し、鈴木がポケットに入り込んだ安西にスルーパスを通し、安西の折り返しをレオ・セアラがダイレクトシュートしたのだ。

 チャヴリッチがボールを収めた瞬間から、たぶん7本のパスがつながった決定機だった。

 あるいは、26分にチャヴリッチのシュートがGK前川黛也の正面を衝いたチャンスの場面があった。

 ここでは、右サイドから左にパスをつないでサイドを変えてチャンスを作った。

 早いタイミングで右サイドに開いたところから始まった攻撃だ。

 右サイドハーフに入りながらも、場面によってポジションを変えて、攻撃に変化をつけ続けた小池龍太と、昨シーズン、その得点力で注目を集めたSBの濃野公人の2人がタッチライン沿いでパスを何本か交換してチャンスをうかがう。小池からトップから下りてきた鈴木にくさびのパスが入り、鈴木がMFの樋口雄太に落とし、樋口から左の舩橋、安西とつながり、最後は安西がチャヴリッチを使ってワンツーで抜け出して左からのクロスを、レオ・セアラが落としてチャヴリッチがシュートしたのだ。

 ここも、速いパスを使って相手守備を崩した場面だった。

■「求められる」選手たちの状況判断

 先ほども述べたように、この日のピッチ・コンディションを考えれば、パスをつなぐことにはリスクが伴う。

 パスをつなぐのか、それとも思い切ったロングボールを蹴り込むのか……。重要なのは選手たちの判断の正確さだ。

 たとえば、40分の場面。鹿島は左サイドで数的優位を作り出していた(GKからのロングボールが通ったからだ)。それに、タッチライン沿いでのパス回しが失敗して、あのポジションでボールを奪われても、すぐに決定的ピンチにつながることはない。

 そういう場面では、思い切ってパスをつないで攻撃の形を作ることに積極的にトライする。

 鬼木監督の言葉によれば「蹴ったらまた相手に取られる」。せっかく奪ったボールをすぐに相手に渡すことがないように、パスをつなぐときにはつなぐというのだ。逆に、相手が激しくプレッシングに来たら、ロングボールを使って引っ繰り返す。大事なのは状況判断なのだという。

 僕は「安全な相手陣内とか、サイドのスペースではつなぐ」という意識なのかと思っていたが、鬼木監督によれば「エリアではない」という。いずれにしても、つなぐか、蹴るかは、選手たちの状況判断が求められるのだ。

 新監督就任から時間が経過していないこの時期で、しかも、悪いコンディションの中でも、パスをつなぐか、ロングボールを蹴り込むのかという判断が正確にできるようになっている鹿島アントラーズ。

 これから、さらにトレーニングでパスの回し方のパターンを増やし、ゲームを経験することによって判断力が上がれば、「ハイプレスでボールを奪った後の攻撃」という、どのチームも直面する課題を解決することができるはずだ。

■「まさに鉄壁」CBコンビ欠場の備え

 もちろん、鹿島にも解決すべき課題は多いだろう。

 たとえば、第7節までの13得点のうちレオ・セアラが6ゴール、鈴木優磨が3ゴールと得点者が偏っている点。鹿島にはチャヴリッチや徳田誉、田川亨介、さらに荒木遼太郎など期待すべきアタッカーは多い。これから、そうした選手たちを組み込んだ攻撃のパターンを増やす必要もあるだろう。

 また、植田と関川のCBコンビはまさに鉄壁だが、2人が欠場した場合のことも考える必要があるかもしれない。

 ただ、選手層は厚さを増している。このところ、セントラルMFは柴崎岳と樋口で組むことが多かったが、神戸戦は柴崎はベンチで、22歳の舩橋が先発して樋口と組んだ。ミドルレンジのパスで組み立てる柴崎と違って、樋口と舩橋は自らがドリブルで運んでゲームを組み立てるという特徴を出していた。

 また、神戸戦では1対0でリードした79分に三竿健斗が今シーズン初出場を果たし、ゲームをクローズさせる役割を果たした。昨シーズン、ボランチに転向した知念慶もいるし、小池もMFでプレーできるので、MF陣は相当な選手層ということになる。

 第7節で首位を走っている鹿島。たまたまスタートダッシュに成功したというよりも、新しい指揮官の下で、新しい方向に向かって回り道せずに進んでいるように見える。

 ACLと並行して戦うハンディキャップから開放された昨年の覇者のヴィッセル神戸、昨年準優勝のサンフレッチェ広島もこれから巻き返してくることだろうが、鹿島が優勝候補の一角にいることは間違いない。

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