◆明治安田 J1リーグ▽第8節 浦和2―1清水(2日・埼スタ) 【浦和担当・金川誉】まるで体内にたまっていた何かをはき出すかのようだった。1点リードの後半14分、チーム全体で清水を敵陣に押し込み、右サイドからDF石原がクロス。相手DFがクリ…

◆明治安田 J1リーグ▽第8節 浦和2―1清水(2日・埼スタ)

 【浦和担当・金川誉】まるで体内にたまっていた何かをはき出すかのようだった。1点リードの後半14分、チーム全体で清水を敵陣に押し込み、右サイドからDF石原がクロス。相手DFがクリアしきれずにファーに流れたボールを、左足ボレーで押し込んだのが浦和MFマテウスサビオだった。ゴール後は赤く染まったスタンドに向け、何度も叫んだ。まさに咆哮(ほうこう)。その姿は、苦しんだ時間を物語っているように見えた。

 昨季は柏で9ゴール7アシストを記録し、Jリーグベストイレブンにも選出されたサビオは、浦和にとって今季補強の目玉だ。2列目に豪華なメンバーがそろう浦和に置いても存在感は別格。しかし開幕から7試合、ゴールもアシストも記録することができなかった。「サッカーとはそういうときもあります。落ち着いてやるしかないと思っていました」と日々のトレーニングに集中することで、必死にトンネルから抜けだそうとしていた。

 苦しんだ理由のひとつは、やはり気負いか。開幕から7試合は1勝4分け2敗とチームが波に乗れない中で、個人で何とかしてやろうというプレーが多く、球離れもいいとは言えなかった。引き分けた前節のC大阪戦後、MF安居が「性格的に(サビオは)自分がやらないといけない、という思いが強い。でもチームで合わせていかないといけないので、もう少し(周囲が)声をかけてやるべきところかなと思います」と語っていたように、サビオの責任感の強さが、決していい方向に向いてはいなかった。

 そんなブラジル人アタッカーを“呪縛”から救ったのは、前半4分に生まれたMF渡辺凌磨の先制ゴールだ。相手のパスミスを右サイドのサビオがカットし、ドリブルで仕掛けてようとしたが、平行の位置でサポートに入った渡辺へ横パス。渡辺が美しい左足ミドルシュートを決め、サビオにも移籍後初アシストがついた。第2節の京都戦で負傷し、この日が6試合ぶりの先発となったチームの核・渡辺の復帰が、サビオの復活にもひと役買ったと言える。

 「いつかは結果を出せると信じていました。僕は自分のサッカー、仲間のサッカーを信じています。今日の勝利で自信をつかんだと思います。自分だけではなく、チームメートも」。そう話したサビオだったが、表情は晴れやかではなかった。それは同じ柏の10番を背負ったレアンドロ・ドミンゲスさんの訃報に触れ「本当に悲しい日」と繰り返したことにもよる。

 時代は変わり、レアンドロさんのようにブラジルでも一線級の選手がJリーグでプレーすることは少なくなった。そんな中でも、サビオはサッカー王国・ブラジルの香りを強く感じさせるJのトップタレントだ。この日はレアンドロさんとその家族を思い「彼が日本で成し遂げたことは忘れない」と話したサビオ。柏を2011年のリーグ制覇に導いたレアンドロさんのように、高い技術と遊び心が融合したプレーが続けば、サビオが浦和浮上のキーマンとなることは間違いない。