サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「南洋」の「サッカー未開の地」の話。■離散者たちからの「掘り起こし」 何よりも重要なのは、リヴ…
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「南洋」の「サッカー未開の地」の話。
■離散者たちからの「掘り起こし」
何よりも重要なのは、リヴァイとオウワーズの目標が一致していることだ。男女のサッカー代表チームを組織し、オセアニア・サッカー連盟(OFC)と国際サッカー連盟(FIFA)に加盟し、OFCネーションズカップやワールドカップ予選に出場することである。
2人のアイデアはまさに現代的だ。長く続いた核実験による大気汚染、さらには近年の海水面上昇による危機感から、この数十年間で2万から3万人もの人がマーシャル諸島を去り、アメリカを中心に移住している。女子のフットサル代表がトレーニングキャンプを行ったアーカンソー州スプリングデールには、4000人のマーシャル人が暮らしているという。そうした「離散者」たちからサッカー選手を掘り起こそうというのである。
「気候変動により、近年、たくさんのマーシャル人が島々を去りました。私たちは、すべてのマーシャルファミリーとつながっていきたいと思います」
「あなたは海外にいて、マーシャル諸島の市民ですか、または係累にマーシャル諸島の市民がいますか。話をお聞かせ下さい。私たちはアメリカ合衆国内でイベントを行い、プレーヤーのリクルートと、コミュニティー活動をしていきたいと思っています」
MISFの公式サイトには、こんな文章がある。そしてワンクリックすると、データ送信用のページが出てくる。氏名やマーシャル諸島との関係(1マーシャル諸島生まれ、2父母のどちらかがマーシャル諸島生まれ、3祖父母の誰かがマーシャル諸島生まれ、4マーシャル諸島と関係が深いか、現在在住している、5それ以外)などを書き込むだけだ。
実際、2023年夏に女子フットサルチームの合宿をスプリングデールで行ったときには、200人もの応募があったという。
■「デビュー前」ユニフォームを販売
さらに、2023年秋には早くも「代表ユニフォーム」を発表し、オンラインで販売を行っている。青を主体にオレンジ色の横線が入ったデザインは独創的で、すでに世界の30数か国に売られているという。「最後の代表チーム」「まだデビューしていない代表チームのユニフォーム」は、なぜか英国の通貨で46.99ポンド(約8500円)だが、売り切れも近いという。
「代表ユニフォームへの反響には、本当に驚いています。デザインは公募したのですが、200人以上の応募者のなかから、アルゼンチンのデザイナーのものが選ばれました。青とオレンジは国旗の色で、線模様は島と海のつながりを意味しています。収益は、マーシャル諸島のグラスルーツプログラム、インフラ整備、トレーニング施設に投資します」と、リヴァイは説明する。
■日本と「W杯アジア予選」で対戦も
一方のオウワーズは、2025年中には男女のサッカー代表チームを組織し、国際大会にデビューさせたいと語る。
「ここ数年、マーシャル諸島は残念ながら多くの島を失い、2050年までに陸地のほとんどを失うという、目を見張るようなことが言われています。しかし、サッカーの代表チームが生まれ、世界の舞台で戦うことで、そうしたマーシャル諸島の状況を、世界の人々に知ってもらうことができるのではないかと考えています」
リヴァイは、「オセアニア・サッカー連盟(OFC)がダメなら、アジア・サッカー連盟(AFC)でもいい」と語る。「代表を持たない国」は、もうすぐ「最も若い代表チームを持つ国」になる。そしてもしかしたら、アジアのワールドカップ予選に出てくるかもしれない。