◇国内女子◇アクサレディスゴルフトーナメント in MIYAZAKI 最終日(30日)◇UMKCC (宮崎)◇6538yd(パー72)◇曇り(3629人)リーダーボードに並ぶ名前は、最後まで見ないと決めていた。「自分にできることだけに集中…

◇国内女子◇アクサレディスゴルフトーナメント in MIYAZAKI 最終日(30日)◇UMKCC (宮崎)◇6538yd(パー72)◇曇り(3629人)
リーダーボードに並ぶ名前は、最後まで見ないと決めていた。「自分にできることだけに集中する」。工藤遥加の待望の瞬間は周囲の雑音をかき消した先にあった。首位に1打差の3位から出た最終日、4つ目のバーディを奪った後半10番(パー5)で後続に2打差をつけてトップに。16番(パー3)で順位表がついに目に入っても、もう動じなかった。

1打リードで迎えた最終18番(パー5)、左から向かい風を感じたフェアウェイからの第3打。ロフト50度のウェッジで奥2m弱にピタリと止めると、スライスラインを事もなげに流し込んだ。緊張感いっぱいの18ホールをノーボギー「67」で、後続に2打差をつける通算10アンダー。プロ入りからおよそ15年、4991日という長い未勝利の年月などみじんも感じさせない強さを見せつけた。
プロ野球で通算224勝を挙げた左腕、工藤公康さんを父に持つ“サラブレッド”。高校時代に本格的に競技ゴルフに打ち込み、2011年夏に日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)のプロテストに一発合格。ルーキーだけで争われる同年の「LPGA新人戦 加賀電子カップ」を制した後は、期待に反してシード権すら得られないまま時間が過ぎた。

ゴルフへの取り組み方を180度変えたのが、プロ13年目の2023年シーズンを控えたオフ。憧れの女子ソフトボール・ビックカメラ高崎の藤田倭(やまと)投手に、ダメもとでSNSのメッセージを送ったのをきっかけに、チームの沖縄合宿に参加させてもらった。
2週間のトレーニング、練習を通じて「それまでの13年間、私はプロではなかった」と思い知った。「みんな楽しんでやっているけれど、自分のやっている競技に(人生を)かけている」。幼い頃から最も身近なアスリートは父に違いなかったが、同性の選手が、それぞれの限界を引き上げようと汗を流す姿に心を打たれた。

合宿の最中、同チームに所属する元日本代表監督・宇津木麗華氏にもらった忘れられない言葉がある。「ハル(遥加)には足りないものはない。お父さんのプレッシャーはあるでしょう。でも人には春に咲く花、夏に咲く花、秋に咲く花、冬に咲く花がある。自分はいつ咲くか、楽しみにしておくといいよ」。当時、中堅世代の真っただ中の30歳。「自分のことを見て、認めてくれる人もいる」と思えた。
同年5月、下部ツアー「ツインフィールズレディース」で初優勝。昨年はシード獲得に迫るメルセデスランキング61位で終えた。意識改革から3年目のことしは、1月2日から毎日1時間の走り込みを週6日のペースで課している。そして、出場権が開幕の4日前に舞い込んだ本大会で初優勝。「ひとりでは勝てなかった。家族も含めて、自分を強くしてくれた人たちに感謝したいです。(優勝の)報告に行けることがうれしい」。32歳で咲いた花。根と茎は、どれだけ雨風を浴びても折れなかった。(宮崎市/桂川洋一)