蹴球放浪家・後藤健生は、サッカーを通じて文化の見分を広めている。今では一般的になっているが、かつて日本に存在しなかった社会のルールを、イングランドのスタジアム最寄り駅で「発見」した!■1列から「2列」へ 埼玉スタジアムに行くとき、僕は東川…
蹴球放浪家・後藤健生は、サッカーを通じて文化の見分を広めている。今では一般的になっているが、かつて日本に存在しなかった社会のルールを、イングランドのスタジアム最寄り駅で「発見」した!
■1列から「2列」へ
埼玉スタジアムに行くとき、僕は東川口駅でJR武蔵野線から埼玉高速鉄道「スタジアム線」に乗り換えます(「スタジアム線」を名乗るのなら、「スタジアム駅」を設置してほしいものです)。
すると、エスカレーターの前に警備員が立っていて「エスカレーターには2列で立って乗るように」と注意をしています。
日本ではエスカレーターでは左側に立って右側を空けておき、急ぐ人は右側を歩いて上ったり下りたりするという習慣が浸透しています(大阪など関西圏では左側を空けることになっていますが……)。
しかし、埼玉県では2021年10月に「エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が施行され、片側を空けることが禁止されたのです(ただし、罰則はありません)。エレベーターで歩くことが転倒や接触事故の原因になるからであり、また、両側に2列で立って利用したほうが運送効率が良いというのが理由です。
スタジアムに行くときは、駅は比較的すいているので警備員が注意しても右側が空いていることが多いので、僕はありがたく右側を歩かせていただいています。しかし、試合終了後はかなり混雑していて、埼玉県民のみなさんは条例を守って2列で立っていらっしゃることが多いようです。
■「日本にはない」習慣
僕が若い頃、日本には片側を空けるという習慣はありませんでした。人々は両側に(ばらばらに)立っていたので、誰も乗っていないとき以外は歩いて上ったり下りたりするのは不可能でした。
エスカレーターで片側を空けるという習慣を初めて目撃したのは、英国ロンドンでのことでした。
1973年の秋に、フジテレビの「クイズ・グランプリ」という番組で優勝して、賞品のヨーロッパ旅行に行ったときのことでした。毎週1人ずつ優勝者が出る形式のクイズでしたから、半年分の優勝者が集まって団体旅行に連れて行ってもらえるのです。
スカンジナビア航空で早朝にデンマークのコペンハーゲンに到着して、市内を観光してから夕方の飛行機でロンドンに向かう日程でした。
ロンドンでは団体行動から離れて、フットボール・リーグの好カード、アーセナル対マンチェスター・シティ戦を見にいきました。会場は昔のアーセナル・スタジアム「ハイバリー」でした。
■「これはいいっ!」
当然、最寄りの「アーセナル駅」を利用するため、地下鉄にも乗りました。地下鉄ですから駅にはエスカレーターがあります。そこで、人々が必ず片側に(左側だったように記憶していますが、定かではありません)立っていて、急ぐ人はその脇をさっと歩いて上り下りしていました。
僕は「ああ、これはいいっ!」と感心しました。そして、「さすが文明国だ」とも思ったのです。
都市というのは非常に多くの(何百万人という)互いに見知らぬ人々が密集して生活している場所です。そんな人々が密集しているところで、トラブルもなく、効率的に生活するためにはさまざまなエチケットや暗黙のルールが必要になります。
エスカレーターで急ぐ人々のために片側を空けておく……。これも、社会生活を円滑化するためのルールです。英国というのはいち早く産業革命を成し遂げて、近代的な都市生活を長く続けている国ですから、そういったルールが作られたのでしょう。