高校野球の指導者は忙しい。甲子園に出場するチームであれば、なおさらだ。 それでも、男性も育児をするのが当たり前の…

平野桂一郎部長の息子・蒼ちゃんをあやす滋賀短大付の保木淳監督=大津市で2025年2月8日午前9時21分、吉川雄飛撮影

 高校野球の指導者は忙しい。甲子園に出場するチームであれば、なおさらだ。

 それでも、男性も育児をするのが当たり前の時代で、野球との両立を模索する姿がある。

 阪神甲子園球場で開催中の選抜高校野球大会に出場した指導者たちも、悩みながらグラウンドに立っている。

「子どもがかわいそうだな……とは思う」

 初出場した滋賀短大付の平野桂一郎部長(34)は、2歳の息子・蒼(あおい)ちゃんを連れてグラウンドに立つことがある。

 記者が取材に訪れた2月上旬は、滋賀県南部としては珍しく雪が積もった日だった。極寒だからか、蒼ちゃんは少しご機嫌斜めな様子で、平野部長に代わって保木淳監督が必死にあやしたものの、ついには大声で泣き出した。そのほほえましい光景に、ウオーミングアップをしていた部員たちから笑いが起きた。

 平野部長は保健体育科の教員で妻と共働き。いつもは妻や妻の実家が蒼ちゃんの面倒を見るが、妻の仕事などがある場合はグラウンドに連れてきて、ボールの届かない場所で世話をしながら、部員たちにアドバイスを送る。

 平野部長に抱かれた蒼ちゃんに向かって、ミーティングを終えた部員らが笑顔で手を振る光景もあった。グラウンドに子ども用のやわらかいボールが数種類持ち込まれ、練習の合間に選手やマネジャーが一緒に球遊びをすることもあるという。

 飯塚悠仁(ゆと)選手(3年)は「いつもかわいいな、と思っています。(センバツ前は)チームが少しピリピリしてくる中、なごやかな気分にさせてくれました」と話す。

 平野部長は「学校で遊ばせてもらって、うちとしては助かっています」。ただ、複雑な心境も吐露する。「土日もあまり世話してやれなくて、子どもがかわいそうだな……とは思います」

「こんな大人もいるんだよ」

 21世紀枠で出場した壱岐(長崎)の坂本徹監督(40)は保健体育科の教諭で、妻と共働きという。

 女1人、男2人の3人の育児をしている。小学生にまだなっていない子もおり、坂本監督はグラウンドに子どもたちを連れていくこともある。子どもたちはマネジャーや選手たちと球遊びをしたり、一緒にグラウンド整備をしたりすることもある。

 坂本監督は「野球ももちろん責任をもってやらないといけないが、家族の支えがないと、そもそも仕事ができませんし、家族が第一」と語り、「一人の父親として、子どもと接する時間も大切にしたい」と率直な思いを語る。

 さらに「(監督自身が)野球の指導者である以前に、一人の人間である」ということを選手に理解してほしいという思いもある。

 「選手たちには、いろんな大人の姿を見せたい。世の中、十人十色でいろんな考え方がある。『こんな大人もいるんだよ』ということを見て、何か感じてくれたらいいかな、という思いも少しはあります」

 坂本監督の願いは、選手にも伝わっているようだ。山内徠惟(らい)選手(2年)は「野球の監督も頑張りながら、子育てまで頑張っていてすごいと思う。少し憧れます」。山内選手も将来は教師を志望している。

進まない男性教員の育休取得

 高校野球の指導者は学校の教員が多数派だが、そもそも男性教員自体が育休を取得できていない現状がある。

 文部科学省が全国の公立学校を対象に行った調査で、2021年度に新たに育休を取得可能となった男性教職員1万7260人のうち、実際に育休を取得したのは9・3%の1603人にとどまった。教員不足や、男性が育休を取得する前例が少なく心理的な壁があることなどが理由とみられる。

 さらに、高校野球の指導者の休日が少ない実態もある。

 日本高校野球連盟などが23年に発表した、加盟3818校を対象にした実態調査によると、監督が指導を休みたい日数として、月に6日以上という回答が合計で3割以上あった。

 だが、実際に指導を休めるのは、全体の約半数が月に「4~5日」と回答。3日以下も合計で3割近くあった。理想と現実がかけ離れているようだ。

 今春のセンバツに出場したある監督は「生徒が甲子園を目標に練習しているのに、自分たちが休んでどうするのか」と話す。

 別の出場校の監督は「量をやらないと野球はうまくならない。量をやらずに質で調整するというのは難しいから、それだけ選手に付き合ってあげないと(いけない)」と説明する。

 部員たちと向き合いながら、自身の家族や育児とも、どう向き合うのか。指導者たちの模索は続く。【吉川雄飛】