夏の世界水泳(世界選手権2025シンガポール/7月)の代表選考を兼ねた競泳日本選手権(3月20日~23日)が東京アクアティクスセンターで行なわれた。その最終日、男子自由形1500mで高校2年生の今福和志(枚方SS/四条畷学園高)が、これま…

 夏の世界水泳(世界選手権2025シンガポール/7月)の代表選考を兼ねた競泳日本選手権(3月20日~23日)が東京アクアティクスセンターで行なわれた。その最終日、男子自由形1500mで高校2年生の今福和志(枚方SS/四条畷学園高)が、これまでの記録を4秒62も更新する14分50秒18の日本新をマークして優勝を飾った。

 今福は大会初日の自由形400mに続いて、派遣基準となる世界水泳スタンダードA記録を突破。2種目での世界水泳初代表を決めた。


先の日本選手権で躍動した今福和志

 photo by Kishimoto Tsutomu

 1500mで日本記録を大幅に更新するまでに、今福は大会初日に400mの予選と決勝を泳いだ。続いて、2日目には800mにも出場。派遣記録突破はならなかったものの、同距離でも1位でフィニッシュし、翌3日目に1500mの予選を泳いだ。

 そして迎えた最終日の1500mの決勝。今福は疲労を抱えながらも、最初から日本記録を上回る100m59秒台のペースを刻んで攻める泳ぎを見せた。今福が言う。

「自分の世界に入った時は周りがまったく見えなくなって、自分と勝負する気持ちになるのですが、今日は(そういった感覚が)いつもより増して、本当に隣に自分がいるみたいな感じで泳げて楽しかった」

 終盤に入ってからは100m1分台のラップが4回続いたが、ラスト100mでは57秒32とタイムを上げてゴール。記録更新を狙って、見事に成し遂げた日本新だった。

 2種目の高校新を含め、まさに記録尽くしでの日本選手権三冠を果たした今福。しかし彼は、その結果に何ら満足していなかった。

「まだこんな記録では(世界では)絶対に戦えないし、日本で強くても世界で弱い、というのが今の日本の自由形長距離。なので、うれしくも悲しくもなく、何とも言えない感情です」

 そもそも自身の専門種目と意識する1500mでは、今回は14分50秒切りを狙っていたという。というのも、昨年のパリ五輪において、同種目で予選を突破した5位~8位のタイムが14分45秒台だった。世界水泳で同等のタイムを記録して決勝進出を果たすためには、現時点で14分40秒台をマークしておきたかったからだ。

 高校2年生ながら、すでに世界を見据え、そこでの戦いを現実的に捉えている今福。日本競泳界に登場した、待望のスター候補と言っていい。

 しかもこの今福、実は昨年の世界ジュニア7.5kmで7位になるなど、オープンウォータースイミング(海や川、湖といった自然の水のなかで行なわれる長距離水泳競技)にも積極的に取り組んでいる。大学生選手をマークしてラスト50mで抜け出した400mでの優勝もその成果のひとつであり、自らの泳ぎの大きな糧にもなっている。

「400mは『絶対にやってやろう』という感じではなく、ベストが出たらいいか、というくらいでした。でも、思った以上に調子がよくてタイムも出た。オープンウォーターの試合のあとは、必ず400mは速くなるんです。海では駆け引きが主で、相手の様子を見ながらどこで勝負するか、という考えがものすごく育つというか。そうしたことも含めて、長距離では絶対に海の要素は必要だなというのを、あらためてこのレースで感じました」

 こうして今回の日本選手権で一躍脚光を浴びた今福だが、幼い頃はそこまで水泳に熱心だったわけではない。両親がスイミングスクールのコーチをしていたこともあって、0歳から水泳を始めて小学1年生で選手コースに入ったが、「小学生の時はあまり水泳が好きじゃなくて、練習に行くのも嫌だった」という。

「中学生の時は警察官になりたくて、剣道か柔道をやろうかな、と思っていました」

 だが、水泳をやめることは当時のコーチに止められた。そうして中学2年生の冬、「チーム全員で泳ごうとなって、初めて1500mを泳いだらタイムがよかった」と今福。以来、長距離に興味を抱いて、真剣に取り組むようになっていく。

 その時のコーチからその後、オープンウォーターも勧められた。

「(コーチが)わざわざ家まで話に来たんですが、(オープンウォーターは)絶対にやりたくなかった。波も嫌だし、寒そうだし、(海には)クラゲもいるし......。それで、『海は怖いから、絶対に泳ぎたくない』と言って泣きました(笑)」

 それでも、コーチから「頼むから」と必死に説得されて泣く泣く始めた。すると、始めて2カ月で出場した選考会で世界ジュニアの出場が決定。それから「オープンウォーターも楽しいなと思うようになって、ずっと続けられるようになりました」と、今福は笑う。

 その時に出場した世界ジュニアでは5㎞で13位。以降、世界ジュニアや国内大会の他、全豪選手権などにも出場し、5㎞、10㎞で上位に入る成績を残している。その過程において、泳ぎのコツもつかんだ。

「ずっと力を入れていると、(泳ぐ時間が)1時間とか2時間とかになるともたないので、手をだらんとしたままで、とにかく水を当てているだけで泳いだり、リカバリーも力を入れずに、ただ回すだけ、みたいな感じでやったりして。それを、プールでもやっていました」

 最初は50m~100mぐらいから始めたその泳ぎも、今では「気づいたら10㎞までになっています」と今福。そうやって、ゆっくりした動きであってもタイムの速い泳ぎができるようになったことが、競泳でも生かされるようになった。

 また、今福は10㎞を泳ぐことで1500mが短く感じることも「オープンウォーターをやっている利点」と言って、こう続ける。

「この前、オーストラリアに行った時は全身をクラゲに刺されて眠れなかったけど、プールでは安心して泳げますしね(笑)。それに、(プールでは)50mごとにターンで区切りがあるので、レースプランもたくさん考えられますから。

 そういったことから、競泳だけをずっとやっていたら、たぶんこんなにタイムは出てないな、というのはあります。競泳だけだと、1500mだけ(に専念)みたいになっていたと思うけど、(オープンウォーターも)並行してできていると、心に余裕ができていいのかな、と。

 とにかく、今回結果が出たので、自分の目標にしているところには着実に近づいている感じはします。日本の長距離界は世界に少し遅れているところがあると思うので、世界レベルに少しでも近づいて、しがみついて......。いずれは、あわよくばメダルを獲れたらな、という意気込みでいます」

 今福と同じ枚方SS所属で、同じくオープンウォーターにも取り組んでいる梶本一花(同志社大)は、昨年2月の世界選手権ドーハ大会で競泳とオープンウォーターに出場。今回の日本選手権でも、女子自由形400m、800m、1500mで優勝し、世界水泳の代表となった。

 今福の今後の目標は、その梶本ともに2028年のロザンゼルス五輪で競泳とオープンウォーターの2種目に出場することになるだろう。

 そんな今福に対して、現在指導にあたっている太田伸コーチも大きな期待を寄せる。

「今福は本当に人なつっこい性格で、海外の大会に行っても毎回友だちを作って帰ってくる。将来的には強い選手と一緒に練習できる海外も拠点とし、世界で戦える選手になってもらいたい」

 大舞台において、日本の競泳界がこれまで踏み込んでいけなかった自由形長距離。今福がその、世界への道を切り開いていく先駆者となるに違いない。