連載第33回杉山茂樹の「看過できない」 日本対サウジアラビア戦を中継したテレビ局は、試合開始前、W杯出場国のポット分けとFIFAランキングの重要性を説くコーナーを、時間を割いて流していた。 W杯の抽選は、本大会出場国をまず1から4まで4つの…
連載第33回
杉山茂樹の「看過できない」
日本対サウジアラビア戦を中継したテレビ局は、試合開始前、W杯出場国のポット分けとFIFAランキングの重要性を説くコーナーを、時間を割いて流していた。
W杯の抽選は、本大会出場国をまず1から4まで4つのポットに振り分けるところから始まる。ポットとはいわゆるシード順で、第1シード国、第2シード国......と言ったほうがわかりやすいかもしれない。その基準になるのがFIFAランキングである。1998年フランス大会から始まったスタイルだが、日本は2002年日韓共催大会で、開催国の特権として第1ポットに入った以外、第3ポットか第4ポットの一員として抽選に臨んでいる。
出場国は32だったので、第3ポットは17番目から24番目、第4ポットは24番目から32番目という内訳になる。日本はそこから、2010年南アフリカW杯、2018年ロシアW杯、2022年カタールW杯の3大会でベスト16入りを果たしている。FIFAランキングとの兼ね合いで言えば、序列を逆転させる番狂わせを演じたと言える。
前回のカタール大会は、グループリーグで同組となったスペインが第1ポット(当時FIFAランク7位)、ドイツ(同12位)が第2ポット、日本(同23位)が第3ポットで、コスタリカ(同31位)が第4ポットだった。日本はスペイン、ドイツを抑えグループを首位で通過。決勝トーナメント1回戦でクロアチア(第2ポット・同16位)に延長PK戦負けをしている。
今回、本大会出場国は48なので、4つのポットはそれぞれ12カ国で構成される。共催国の3カ国(アメリカ、カナダ、メキシコ)が開催国の特権で第1ポットに入るので、残りは9チーム。現在FIFAランク15位の日本がここに入ることは、常識的に見て難しい。10番目から21番目の第2ポットで戦う可能性が濃厚だと言える。
ちなみに現在のFIFAランク上位9チームは、アルゼンチン、フランス、スペイン、イングランド、ブラジル、ポルトガル、オランダ、ベルギー、イタリアだ。もしこれらのすべてが予選突破を決めていて、いま抽選が行なわれるとすれば、この9チームが開催国の3カ国とともに第1ポットに振り分けられることになる。
同様に、第2ポットはドイツ、ウルグアイ、コロンビア、クロアチア、モロッコ、日本、セネガル、イラン、スイス、デンマーク、オーストリア、韓国の順となる。
【消化試合にしないために持ち出されたFIFAランク話】
出場国が32から48に増えたことに伴い、日本は第3ポットから第2ポットに昇格した格好だ。順当にいけば、各組の上位2チームと3位チームのうち成績上位の8チームを含めた32チームで争われる決勝トーナメントに進む可能性は、これまでより高いと見る。
だが、繰り返すが、今回はそこでようやく32強だ。従来のW杯のスケールにたどり着いたに過ぎない。そこから先のトーナメントをいかに勝ち上がるか。FIFAランクを上げることとそれは、密接な関係にはない。
W杯出場を決めての会見で(左から)山本昌邦ナショナルチームダイレクター、森保一監督、遠藤航、宮本恒靖サッカー協会会長 photo by Fujita Masato
テレビ局がFIFAランクの重要性を必要以上に説く理由がわからない。たとえば現在ランク8位、9位(第1ポット候補下位)のベルギー、イタリア、同10位、11位(第2ポット上位候補)のドイツ、ウルグアイ、さらに同22位、23位(第2ポット下位候補)のオーストリア、韓国ならともかく、第2ポットから上がることも下がることもなさそうな日本には、ほとんど関係のない話だ。
日本は前戦のバーレーン戦で本大会出場を決めていたので、サウジアラビア戦は事実上の消化ゲームだった。「絶対に負けられない戦いがそこにはある」を宣伝文句に、日本代表戦を煽ってきた経緯があるテレビ局である。FIFAランクの重要性を説く話は、視聴者の関心をつなぎ止めようとするために考え出した企画に見えて仕方がない。
このFIFAランク話の言い出しっぺは山本昌邦ナショナルチームダイレクターだ。今回のW杯予選のメンバー発表の席上で、ベストメンバーを編成する理由として持ち出した題材だった。「W杯優勝を目指すためには少しでも有利な組み合わせで戦う必要がある。そのためにはFIFAランクを上げておく必要がある。本大会に向けて負けていい試合はひとつもない」と、語気を強めるように説いていた。
テレビ局はそれをそのまま盛り上げの材料に用いようと、パクッとエサに食いついたわけだ。大本営発表を一緒になって吹聴する姿勢も情けないが、受験テクニックを掘り下げるような話で点取り虫になるサッカー協会の姿は、それ以上に情けない。呆れるばかりだ。
先述したように、ポット分けの境界にいるチームなら成立する話かもしれないが、2026年W杯の本大会出場国数は48だ。これまで以上に展開は読みにくい。組み合わせ抽選の間隙を突くような、小手先の受験テクニックのような対策は通じにくくなっている。「アジア予選で格下の国に負けるとランキングが下がりやすい」などと、本大会出場を決めてもなお「絶対に負けられない戦い」が続くことを強調する姿は、まさに木を見て森を見ず。世界の広さと、世界での現在の日本の立ち位置がわかっていない島国根性丸出しであると指摘したくなる。
サッカー協会ともども、どんな強豪国を前にしても対抗できる総合力を身につけるべき時に、点取り虫丸と化す姿は、見ていてつくづく情けない。それでいながら、サウジアラビアに0-0で引き分け、ポイントを落としても大きな反省はない。代表監督の試合後の表情も、特段、不満そうではなかった。
この有様では何十年経ってもW杯優勝は難しいと言うべきである。
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