今季のAFCチャンピオンズリーグでは、昨季J1王者のヴィッセル神戸が逆転負けを喫するなど、Jリーグチームが早くも姿を消…
今季のAFCチャンピオンズリーグでは、昨季J1王者のヴィッセル神戸が逆転負けを喫するなど、Jリーグチームが早くも姿を消した。女子でも同様の事態が起こった。WEリーグで上位を争う三菱重工浦和レッズレディースが、中国のチームに敗れたのだ。内容と結果が大きくかけ離れていたことは驚きだが、サッカーの奥深さを感じさせるものでもあったと、サッカージャーナリスト後藤健生は考える。
■非公式の決勝で「完勝」も…
今シーズンから正式にスタートしたAFC女子チャンピオンズリーグ(AWCL)の準々決勝で、三菱重工浦和レッズレディースが中国の武漢江大と対戦。PK戦で敗れて、浦和にとっては“まさかの敗退”となった。
今やアジアの女子サッカー界をリードしている日本のチャンピオン・チームの浦和。昨年のパイロット大会では非公式の決勝で韓国の仁川現代製鉄レッドエンジェルスに完勝しており、今シーズンもグループステージでは3戦全勝。得点21、失点0という圧倒的な成績で勝ち上がってきた。
一方の武漢は中国湖北省武漢市の江漢大学のチームで、選手は学籍を持っているらしいが、プロ選手で固めたチーム。中国の女子スーパーリーグ(女子超級聯賽)で5連覇中の「絶対女王」とはいえ、AWCLグループステージではホーム武漢での開催だったにもかかわらず、1勝2敗の3位通過だった。
あらゆるデータを見ても「浦和絶対有利」は間違いなかった。
FIFAは2026年1月に第1回女子チャンピオンズカップを開催することを決めており、アジアからは今シーズンのAWCL優勝チームが出場することになっていた。
従って、もし浦和レディースがAWCLに優勝すれば、FIFAクラブ・ワールドカップに出場する男子の浦和レッズと合わせて、浦和は男女の世界大会に駒を進めることになるはずだった。
■「完全に支配した」ゲーム
実際、埼玉県熊谷市の熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で行われた試合は、浦和が完全にコントロールした一方的な試合だった。
立ち上がりの5分に武漢はMF宋菲(ソン・フェイ)からのロングボールで1トップのテリー・エンゲシャ(ケニア代表)が抜け出して、枠内シュートを放った場面があり、これはGKの池田咲紀子がはじき出したものの、その後、武漢が連続してCKを獲得する時間帯もあった。
しかし、開始から10分ほどが経過すると、ゲームは完全に浦和が支配した。
立ち上がりの場面で脅威かと思われたエンゲシャだったが、さほど足が速いわけでもなく、浦和のCB長嶋玲奈と後藤若葉が連係して完封。いつも安定したプレーを見せるキャプテン柴田華絵とこの日は絶好調だった角田楓佳のボランチ・コンビがセカンドボールを拾いまくり、1トップで起用された高橋はなが前線で体を張り、2列目の島田芽依、塩越柚歩、伊藤美紀がクロスを入れたり、自らカットインするなどチャンスを作り続けた。
■単なる「不運」ではない
武漢は、開始早々(5分)のエンゲシャのシュート以降、延長後半の117分に飛び出してきたGKの池田をかわして唐涵(タン・ハン)が無人のゴールに向けてシュートするまで、102分間シュートを撃つことすらできなかった。
しかし、浦和は武漢の分厚い守りを崩すことができず、ゲームはスコアレスのまま終わってPK戦に突入。8人目までもつれ込んだ結果、武漢が6対5でこれを制して、ジャイアントキリングを達成した。
サッカーという競技はきわめて得点が入りにくい競技であり、その結果、番狂わせが起こりやすい。僕も、これまでにも大番狂わせを何度も見てきた。
だが、この浦和対武漢の一戦ほどのアップセット(番狂わせ)はなかなかお目にかかれるものではないだろう。それほど、一方的な試合だった。
しかし、だからと言って、浦和にとっての単なる不運。武漢にとってはラッキーだっただけではなかったように思う。
武漢は、浦和との力の差を認めたうえで、徹底した守備の戦略を描き、それを120分にわたって実行し続けた。そしてPK戦まで見据えた戦略も立てていたのだ。そして、浦和はその武漢を攻略できなかった。