鶴岡慎也の2025年日本ハム戦力分析(前編) 昨年、日本ハムは新庄剛志監督就任以降、最高となる2位でシーズンを終えた。悲願の優勝に向けてポイントになるのは、現有戦力にどれだけプラスアルファできるかだ。日本ハムOBでキャンプ、オープン戦と取材…
鶴岡慎也の2025年日本ハム戦力分析(前編)
昨年、日本ハムは新庄剛志監督就任以降、最高となる2位でシーズンを終えた。悲願の優勝に向けてポイントになるのは、現有戦力にどれだけプラスアルファできるかだ。日本ハムOBでキャンプ、オープン戦と取材を続ける鶴岡慎也氏に2025年の新戦力を診断してもらった。
オープン戦にDHで出場した日本ハムのドラフト1位ルーキー・柴田獅子
photo by Sankei Visual
【長身の高卒新人投手を3人獲得】
── 昨年のドラフトで明治大の宗山塁(楽天)を1位で指名しましたが、クジで外しました。
鶴岡 外したあと、すぐに将来性を見越した指名に方向転換しました。「即戦力補強」よりも「育成重視」にしたわけです。それだけ現有戦力が充実しているということだと思います。新庄監督が3年間で育てた選手が一軍で活躍していますから。
── 昨年の戦いを見ていると、誰かが調子を落とせば、代わりに誰かが出てくるといった感じで、チームの状態がガクッと落ちることはありませんでした。
鶴岡 新庄監督が1、2年目に"トライアウト"と称して、多くの選手に一軍でチャンスを与えたのがよかったと思います。たとえば、投手なら「一軍ってこういうものだよ。これくらいの変化球をここに投げないと打たれるよ」、打者なら「甘い球は一軍では1球あるかないか。初球からでも1球で仕留めないといけない」といった感じで、一軍に残るために「何がOK」で「何がNG」なのかを肌で感じられたことは大きい。
新庄監督は「開幕一軍メンバーから外れても、不貞腐れたりするような選手は一軍に上げるつもりはありません」という主旨のコメントを残しています。選手層が厚くなったことは間違いないです。
── では、将来性のあるルーキーの投手から聞きます。
鶴岡 ドラフト1位で、二刀流を目指す柴田獅子(福岡大大濠)は中日とのオープン戦にDHで起用され、2打数ノーヒット。私が柴田を見た時、入団時の大谷翔平選手が「二刀流」に挑戦する姿を彷彿とさせました。もちろん、大谷選手のほうがレベルは上ですが、柴田のボールの待ち方やきれいなスイングなど、かなり完成されています。
本人は「パワー不足を感じた。でも、トップレベルの球を見られたのがいい経験になった」とコメントしたように、今後に生かしてほしいですね。また投げるほうでは、鎌ヶ谷での練習で自己最速の151キロをマークしました。体の動き方のロスを少なくしていけば、もっと出力は上がると思います。
【守備だけなら宗山塁以上】
── 同じ高卒では、2位の藤田琉生投手(東海大相模)、4位の清水大暉投手(前橋商)はどうですか?
鶴岡 藤田は198センチ、清水は192センチ、そして柴田も187センチの長身です。かつて日本ハムは、196センチのダルビッシュ有投手(パドレス)、193センチの大谷選手を育成した経験があり、そのことも考慮して獲得したのでしょう。今後は栄養学、トレーニングで体をつくり、技術面では"意識"を"無意識"に変えていければいいと思います。たとえば、変化球なら変化球で、精度の高い球を連続して投げる"再現性"を身につけていくことが大事になります。
── 3位で宗山選手とチームメイトだった浅利太門投手(興国→明治大)、6位で高校時代に山下舜平大投手(オリックス)と同級生だった山城航太郎投手(福岡大大濠→法政大)を指名しましたが、彼らはどんな印象を受けましたか。
鶴岡 ふたりともオープン戦で登板しましたが、さすが東京六大学でもまれてきた投手です。浅利はカットボールの制球力がすごくよかったです。山城はまだ荒削りですが、縦のスライダーとフォークボールの軌道に見るべきものがあります。日本ハムの中継ぎは選手層が厚く、そのなかに割って入るのは簡単ではありませんが、ブルペン陣の疲労がピークになる夏場がチャンスですね。
── また、ドラフト5位で指名された遊撃手の山縣秀選手(早大学院→早稲田大)はいかがですか。
鶴岡 昨年8月末、東京六大学選抜対日本ハムファームの試合がエスコンフィールドで開催されました。その時に山懸のプレーを見ました。守備だけなら宗山以上と言ってもいいと思います。ひと昔前の名選手でたとえるなら、宗山は小坂誠さん(ロッテほか)、山縣は松井稼頭央さん(西武ほか)といった感じです。守備固めだけならすぐ一軍で起用できるレベルにありますが、ファームで打撃を磨かせるのではないでしょうか。
【台湾のMVP右腕をどこで使うか】
── ルーキー以外の新戦力はいかがですか?
鶴岡 184センチ右腕・古林睿煬(グーリン・ルェヤン)が台湾プロ野球の統一ライオンズからポスティングで入団しました。高校時代から日本ハム入りを希望していたらしいです。昨年は台湾で最優秀防御率のタイトルとMVPを獲得しています。2023年のアジアチャンピオンシップで、日本を6回途中までパーフェクトに抑えています。独特なコンパクトな腕の振りから、角度あるストレートとフォークボールを投げ込んできます。縦のパワーカーブも持ち球です。先発か中継ぎ、どちらで使うか楽しみです。
── 現役ドラフトで、ソフトバンクから吉田賢吾捕手が入団しました。
鶴岡 一塁、三塁、レフトを守れる捕手ということで、アリエル・マルティネスや郡司裕也とポジションが被るのですが、中日とのオープン戦で4打数4安打を放ち、強烈にアピールしました。昨年の水谷瞬ではないですが、「現役ドラフトはソフトバンクから獲得」というのがひとつのトレンドになるかもしれないですね。
── また、中日から開幕投手を務めた経験のある福谷浩司投手がFAで加入しました。
鶴岡 日本ハムは私を含め、FAで他球団に移籍するケースが多かったのですが、伏見寅威、山﨑福也(ともにオリックスからFAで移籍)もそうですが、魅力ある球団になってきたのは喜ばしいことです。
── 鶴岡さんは昨年のこの時期、金村尚真投手と田宮裕涼捕手のブレークを予想していました。今年、注目の選手はいますか?
鶴岡 ブレークとまではいきませんが、2年目の明瀬諒介は楽しみな選手です。守備はまだまだですが、打撃は思い切りがよく面白いです。急成長の匂いがプンプンします。浅村栄斗(楽天)、細川成也(中日)のように、右打者で"マン振り(フルスイング)"するタイプです。相手バッテリーからすれば、怖い選手だと思います。
── 投手ではいますか?
鶴岡 西武から移籍してきて、育成から支配下に入った松岡洸希という投手がいます。春季キャンプには、頭を丸刈りにするなど気合いを入れて臨みました。めちゃくちゃいい球を投げていました。
いずれにせよ、今年の日本ハムは一軍だけでなく、ファームも強いと思います。一軍枠から外れた投手がファームで投げたら、なかなか打たれないですよ。僕がソフトバンクにいた時、攝津正、中田賢一、ジェイソン・スタンリッジが一軍にいて、あふれた東浜巨や岩嵜翔が二軍で投げてとても強かった。そんな時代を思い出しています。
つづく
鶴岡慎也(つるおか・しんや)/1981年4月11日、鹿児島県生まれ。樟南高校時代に2度甲子園出場。三菱重工横浜硬式野球クラブを経て、2002年ドラフト8巡目で日本ハムに入団。2005年に一軍入りを果たすと、その後、4度のリーグ優勝に貢献。2014年にFAでソフトバンクに移籍。2014、15年と連続日本一を達成。2017年オフに再取得したFAで日本ハムに復帰。2021年オフに日本ハムを退団した