(23日、第97回選抜高校野球大会1回戦 東海大札幌7―6日本航空石川) 「悔しい」 記録員としてベンチに入った、日本航空石川のマネジャー横田彩弥(さや)さん(3年)は試合後、涙を浮かべ、声を絞り出した。 1年生だった昨年元日の能登半島地…
(23日、第97回選抜高校野球大会1回戦 東海大札幌7―6日本航空石川)
「悔しい」
記録員としてベンチに入った、日本航空石川のマネジャー横田彩弥(さや)さん(3年)は試合後、涙を浮かべ、声を絞り出した。
1年生だった昨年元日の能登半島地震で、石川県輪島市の同校は被災。生徒たちは、いまも東京で授業を受けている。
野球部だけが昨春の選抜大会後、輪島で学校生活を再開。横田さんは輪島に戻った同学年では唯一の女子生徒としてチームと一緒に甲子園の頂点をめざしてきた。
出身は富山県。父は少年野球のコーチ、6歳上の兄も野球に打ち込む中で育った。
「ベビーカーのころから、グラウンドに連れていかれていました」
中学3年の夏、高校で野球部のマネジャーになると決めた試合があった。
富山大会決勝。スタンドから応援する高岡商は10―11で迎えた九回、2死走者なしからの3連打で2点を奪い、甲子園の切符をつかんだ。
「高校野球って、見ている人の心を動かす力がある」と感動した。「自分も、あの舞台に立ちたい」。甲子園出場が夢となった。
両親に相談し、女子マネジャーを募る強豪校を探した。そのひとつが日本航空石川。充実した練習設備に加え、「甲子園で日本一を目指す」という中村隆監督(40)の言葉にひかれた。
ただ、女子マネジャーは各学年1人と聞いていた。見学の際、初対面の中村監督に思いを伝えた。「マネジャーができなかったら、この高校に入る意味がありません」。中村監督は「気合が違う」と感じたという。「君に決めるから、ここで一緒にやらんか」と返した。
主務兼マネジャーの仕事は幅広い。練習メニューや日程を指導者と選手の間に入って連絡したり、補食やドリンクを用意したり。試合のデータ入力や備品の管理、来客にも対応する。
あいさつや掃除、ごみの分別や靴をそろえるといったことまで、部員に徹底させる。
横田さんは「野球のプレーでも、ささいな目配りは必要な力だし、応援してもらえるチームになることが大事だと思っています」と話す。
1年生だった2023年秋の北信越地区大会で4強に入り、選抜大会出場に期待を持っていた翌年の元日、市内を震度7の揺れが襲った。全校生徒は輪島を離れた。
中村監督に「野球部に残るか」と問われたのは、スタンドで応援した選抜大会の直後だった。
迷わず、答えた。「残ります」
それでも、友達と離ればなれになり、寮生活も授業も同学年の女子生徒はひとり。「しんどかった」と口にする。
春の甲子園につながる昨年9月の県大会中には、輪島を豪雨が襲った。その中でチームは北信越地区大会で準優勝し、夢の甲子園にやってきた。
序盤から両チームが点を取り合い、同点の八回に1点を勝ち越すも最終回に逆転されて惜敗した。
「夢はかなった。でも、『日本一』という目標はかなっていない」と前を向いた。(砂山風磨)