上田の鮮やかなターン、久保のラストパス、そして鎌田のゴールと流れるような攻撃で先制弾を挙げた(C)Getty Images 3月20日に埼玉スタジアムで行われたワールドカップ・アジア最終予選のバーレーン戦は、前半にスコアを動かせず苦戦しつつ…

 

上田の鮮やかなターン、久保のラストパス、そして鎌田のゴールと流れるような攻撃で先制弾を挙げた(C)Getty Images

 

 3月20日に埼玉スタジアムで行われたワールドカップ・アジア最終予選のバーレーン戦は、前半にスコアを動かせず苦戦しつつも、後半21分に鎌田大地、42分に久保建英がゴールを挙げた日本代表が、2-0で勝利を収めた。これにより、グループCの日本の2位以内が確定。来年に開催される北中米ワールドカップ、アジアの一枠は日本に決まった。

【動画】鎌田大地がW杯の扉を開ける先制弾!お手本のような中央突破から奪ったゴラッソを見る

 それにしても、苦しい試合だった。今回の最終予選で実績を挙げてきた日本の[3-2-5]だが、もはや対戦相手に与える意外性は無いようだ。バーレーンのシステムは[4-2-3-1]。日本の5トップに対して4バックになり、形がかみ合わない。かといって、5バックで数を合わせれば、全体が深く下がりすぎてサンドバックになってしまう。さあ、どうすると、すべての対戦相手は考えるはずだが……。

 バーレーンはこれを「アシンメトリー」で解決した。

 まずは両SB。4バックのうち、右SBの5番アルシャムサンは、三笘薫にスピードに乗らせないよう、常にスライドできるサイド寄りの立ち位置を取る。CBとのすき間が空きがちになるが、そこを狙ってくる南野拓実はボランチの4番ジヤがマーク。

 一方、左SBの23番アルハラシは、やや内寄りに立ち、久保を見る。堂安律がしばしば空くのだが、三笘よりも縦に勝負される危険は少ない。左サイドハーフの20番アルフマイダンは背中で堂安を消しつつ、彼の足下にパスが入りづらいようにスペースに蓋をし、攻略されそうになれば、下がって5バック対応する。

 このようにバーレーンは、左サイドハーフが最終ラインまで下がる守備的な役割を果たす一方で、攻撃的な右サイドハーフの7番マダンは高い位置を取り、伊藤洋輝や守田英正へ寄せる。両サイドハーフの立ち位置は、右高左低だ。こうした左右アシンメトリーの役割分担により、バーレーンは両サイドがズルズル下がって6バック化する現象を防ぎ、ハイラインの維持を可能にした。

 そもそも日本の[3-2-5]自体も、左ウイングハーフの三笘が縦突破型、右ウイングハーフの堂安はカットイン型と、左右非対称な特徴を持っているので、バーレーンのアシンメトリーな守備が合ったのも、当然と言えば当然だ。

 日本としては、前半46分に守田のスルーパスを受けた三笘が左足でシュートに至った場面のように、南野がサイドの大外まで動いて相手ボランチのマークを混乱させるか、あるいは瀬古がもっと高い位置を取って左サイドハーフの20番アルフマイダを引きつけて5バック化を邪魔するか。考えられる解法はいくつかあり、後半の序盤にもトライしたが、うまくいかなかった。

 その後、日本は試行錯誤の末にどうにか攻略に至ったわけだが、ポイントは2つある。1つはハーフタイムに行った、守田→田中碧の交代だ。

 バーレーンは上記のアシンメトリー守備だけでなく、前線もしっかりプレスをかけてきた。1トップの12番アブドゥルジャバールは板倉滉の前に立ち、両サイドハーフも瀬古歩夢と伊藤洋輝にプレッシャーをかけ、前進を制限する。その一方、トップ下の8番マルフーンは遠藤航をマークし、その遠藤よりも高い位置を取る守田は、ボランチなど中盤で引き取った。

 これまでの試合と同様、守田は5トップに加わる6人目のアタッカーとして遠藤と縦関係になってライン間へ潜ったが、今回はどちらかと言えば、守田のほうから相手の狭い中央に吸い込まれた感がある。こじ入れた縦パスを、久保や守田が個の技術で打開すればチャンスになったが、囲まれて奪われるケースもあり、効率の悪さは否めなかった。

 しかし後半、コンディション不良を抱えていた守田と交代した田中は、守田のように高い位置を取らず、遠藤の近くで横並びに立った。前半とは違い、8番マルフーンに対して2対1の優位が生まれるため、右へ左へ、パスがスムーズに回る。逆にバーレーンは前半のようにプレッシングがハマらず、ラインが下がる。

 この段階でじわり、じわりと日本のペースになっていたが、押し込まれてもバーレーンの中央は固く、日本はサイドも打開し切れなかった。そこで最終的な決定打になったのが、後半18分に投入された鎌田大地だ。

 優位になっていた遠藤と田中のビルドアップに、さらに鎌田も下りて3ボランチのように振る舞う。すると手持ち無沙汰の相手ボランチは、鎌田らを追いかけてバイタルエリアを空けがちに。バーレーンのコンパクトな守備にヒビが入り始めた。その刹那……、伊藤洋輝から上田綺世へ縦パスがスパーンと入る。

 上田は素晴らしいターンから、久保へスルーパス。さらに鎌田がクロスオーバーし、最後は絶妙なループシュート。ついにハイラインを完璧に打ち破った。尺の長いゴールって素敵。

 それにしても、鎌田という男よ。日本の[3-2-5]も、バーレーンのアシンメトリック[4-2-3-1]も、よく設計されたポジショナルな戦術だった。それが当然のように膠着に陥ったとき、一人のアーティストというべきか、自由人というべきか、マジシャンというべきか。創造性の塊のような男が、すべての設計をぶち壊しに来た。しかも、最後はループシュートで! 痛快すぎんか。

 井手口陽介…三笘薫…。42分の久保のゴールもそうだが、どうしてワールドカップ出場を決めるゴールはいつも鮮烈なのだろう。これは記憶に残りそうだ。

[文:清水英斗]

 

【動画】大一番で1ゴール1アシスト!久保建英がニアをぶち抜いた鮮烈ゴラッソを見る

【関連記事】「24-2!」森保ジャパンの“得失点”に中国が驚愕 最速でのW杯出場に脱帽「圧倒的な成績だ」

【関連記事】日本が“史上最速”でW杯出場を決めた一方…韓国は「ため息をつくしかない」 現地メディアが“対照的な一日”に嘆き「呆れて物も言えない」