8大会連続のワールドカップ出場を決めたサッカー日本代表。しかし、大勝の連続だった予選開始当初と比べ、3バックシステムは相手の対策にあい、試合ごとに機能しなくなっている。データと共にそれらを分析する。早々とワールドカップ本大会行きを決めたサ…

 8大会連続のワールドカップ出場を決めたサッカー日本代表。しかし、大勝の連続だった予選開始当初と比べ、3バックシステムは相手の対策にあい、試合ごとに機能しなくなっている。データと共にそれらを分析する。


早々とワールドカップ本大会行きを決めたサッカー日本代表だが、戦いはどんどん厳しくなっている

 photo by Sano Miki

【コンディションに差。球際の攻防で劣勢】

 2026年W杯アジア3次(最終)予選の第7節。グループCで首位を独走する日本はホームにバーレーンを迎えて2-0で勝利し、3試合を残した段階でW杯本大会出場を決めた。

「自分が監督をしている時にW杯出場を途切らせてはいけないという思いがあったので、ほっとしているというのが正直なところです」とは、試合後の会見における森保一監督のコメントだが、まずは順調にノルマを果たしたことは称賛に値する。

 その一方で、今回の試合を振り返ると「戦前から厳しい戦いになると思っていました。理由は、バーレーンの選手のほうが来日してからいい準備を長い期間できていたからです」と語ったように、出場選手全員が試合の3~4日前に帰国した日本にとっては、コンディション的ハンデも影響し、思うような試合ができなかったのも事実だった。

 それは、スタッツからも見て取れる。この試合における両チームのタックル成功率は、日本の61.5%に対してバーレーンは81%を記録(前回対戦時は日本が80%でバーレーンが71.4%)。とりわけ0-0で終えた前半だけで見ると、日本は50%という低い成功率に終わっている(バーレーンは78.6%)。

 個人デュエルのスタッツを見ても、先発したフィールドプレーヤー10人の合計はバーレーンの49勝34敗(ロスト)に対し、日本は32勝43敗(ロスト)と大きく負け越し。デュエルで勝ち越した選手数は、バーレーンが7人(3、23、4、10、7、8、20番)で、日本は伊藤洋輝(4勝3敗)、遠藤航(6勝3敗)、上田綺世(3勝1敗)の3人しかいない。

 サッカーの試合では、球際の攻防で劣勢を強いられるとプラン通りのゲーム運びが難しくなってしまう。そういう意味では、指揮官の発言の通りと言えるだろう。

 ただし、そのコンディション的な差は別としても、この試合では日本のシステムに構造的問題が潜んでいることが改めて露呈したのも確かだった。世界最速でW杯出場を決めたのは喜ばしいが、今後につなげるためにも、その点は抑えておきたいところだ。

【バーレーンの日本対策】

 試合は、前回対戦とほぼ同じ構図で展開した。そのなかで日本が苦戦するポイントになっていたのは、バーレーンのドラガン・タライッチ監督が、ホームで0-5の大敗を喫した前回対戦の反省を踏まえて守備戦術をブラッシュアップさせたことにあった。

 両チームの布陣は前回同様で、日本が両ウイングバック(WB)に純粋なアタッカーを配置する3-4-2-1、バーレーンは守備時に4-4-2に可変する4-2-3-1。両WBを高く配置し、敵陣で3-2-5の陣形で押し込みたい日本の攻撃に対し、バーレーンはミドルゾーンで4-4-2のブロックを形成。自陣に下がって守る時はサイドMFのひとりがDFラインに加わって5-3-2に、日本の3バックのどちらかが前に出てきた場合は5-3-2の「2」のひとりが中盤に下りて5-4-1に変化させる、前回と同じ守備システムだった。

 加えて、回数こそ少なかったものの、今回の対戦ではバーレーンが前からプレスをかけるシーンもあった。特に前半の立ち上がりに見られたかたちだが、その時はサイドMFのひとり(主に左の20番)が前に出て、日本の3バックに対して前線の12番、8番とともに数的同数でプレスをかけ、左サイドバック(SB)の23番が1列前に出て3-4-3にシフトチェンジ。3-4-2-1の日本と各ポジションをマッチアップさせるかたちをとった。

 つまり今回のバーレーンは、自陣ボックス付近に近づくと5-3-2(または5-4-1)、ミドルゾーンでは4-4-2、そして敵陣ボックス付近では3-4-3と、3つの守備システムを使い分けていたことになる。そして、いずれのシステムにおいても縦幅のコンパクトさをキープできていたので、日本はボランチを経由するビルドアップで困難を極めた。

 たとえば、日本のDFラインがボールを保持した時のミドルゾーンでの攻防では、バーレーンの前線2枚が遠藤、守田英正のボランチコンビへのパスコースを遮断し、日本の2シャドー(南野拓実、久保建英)に対してはバーレーンのダブルボランチ(4番、10番)がマーク。前線2枚が日本の3バックにプレスをかける場合は4番と10番が守田と遠藤をマークするが、全体がコンパクトなので、もし日本が中央から強引なビルドアップを試みたとしても、どのエリアでもプレスをかけやすい構えになっていた。

 それは、日本が3-2-5になって敵陣でボールを保持する場合も同じ。バーレーンは5-3-2に陣形を変え、日本の前線5枚に対して数的同数を作り、中盤では日本の2枚に対して3枚で対抗。数的優位を保ったうえにデュエルでも上回ったため、中央エリアでのセカンドボールの回収という点でもバーレーンが優勢だった。

【勝利の要因は個の打開】

 こうなると、日本の主な前進ルートは両WB(三笘薫、堂安律)経由になるが、ミドルゾーンでは三笘に対してバーレーンの右MFの7番と右SBの5番が、左の堂安に対しても左MFの20番と左SBの23番が数的優位で構えるため、スムーズな前進は不可能だった。むしろ1対2と数的不利なサイドは劣勢なため、日本は前半から三笘と堂安が最終ラインに吸収されて5バックを形成する時間が長くなるという現象が起きてしまった。

 結局、この状況を打開するため、序盤から日本は相手DFラインの背後を狙うロングフィードを多用した。とりわけバーレーンの守備に苦しめられた前半は計10本のロングフィードを供給し、そのうち3バックが7本を記録(伊藤2本、板倉滉3本、瀬古歩夢2本)。しかしその精度は高くなく、成功したのは前半32分の板倉から左サイドの三笘につながった1本だけだった(ただし、三笘が収めた直後にボールロスト)。

 実は、昨年9月の前回対戦時も、同じような現象が起きていた。

今回と同じバーレーンの守備システムを前に、日本がロングボールを多用。序盤はほとんどチャンスを作れずにいたが、日本が上田綺世のPKで先制した直後に、その試合でもバーレーンの右MFを務めていた7番(アリ・ジャファル・マダン)が負傷交代を強いられ、戦況が一変。代わって投入された11番(今回の試合では9番を背負ったエブラヒム・ムバラク・アルハタル)が7番と同じような守備タスクを遂行できず、後半はバーレーンの守備が破綻して日本のゴールラッシュにつながった。

 しかし今回の試合では、同じようなトラブルは発生しなかった。そのため、後半も同じような構図で試合は展開したが、63分に左シャドーに入った鎌田大地が中盤に出入りしたことでバーレーンの守備上の混乱を誘発。また、久保が独力で打開する活躍で1ゴール1アシストを記録し、過去最高とも言えるパフォーマンスを披露して、日本が2-0で勝利を収めることに成功した。

【森保監督は対策を用意しないのか】

 ただ、勝利したとはいえ、日本の3バックシステムに潜む構造的な問題は見落とせない。昨年11月のインドネシア戦では今回のように個の力で、中国戦ではセットプレーによって勝ち点3を手にしたが、いずれも相手の対策に苦しみ、3次予選序盤のような戦術的機能性を発揮できなくなっているからだ。

 最大の問題は、3バックの両脇を使われる相手の速攻に脆弱な点と、両WBにアタッカーを配置しながら、守備時に5バックで構える時間が長くなっている点だ。特に格下相手の試合では最も攻撃性を高められる布陣であるにもかかわらず、肝心の両WBが自陣で守るのであれば、この布陣を採用する意味はない。

 当然だが、相手のレベルが上がれば、両WBを務めるアタッカーがDFラインの大外で守備を強いられる時間はさらに長くなるのは明らかで、それなら最初から両WBにDFを配置するのが理論的という話になってしまう。

 確かにアジアカップで破綻した4バックを諦め、攻撃的3バックに移行したことが今予選のロケットスタートにつながったのは間違いない。しかし相手も日本の戦い方を研究し、今回のバーレーンのように、2度目の対戦ではより効果的な対策を講じられて戦術的機能不全に陥る試合が続いているのも事実。気づけば、攻撃的であるはずの3バックシステムは、守備的とも言えない中途半端な3バックシステムと化してしまった。

 果たして、森保監督はこの矛盾をどのように解決していくのか。対策の対策も用意せず、現状のままの戦術で臨むとすれば、おそらく次のサウジアラビア戦は今回以上に厳しい戦いを強いられそうだ。