アメリカの環境で選手として、人として成長を続ける佐々木 photo by Getty Images佐々木麟太郎のスタンフォード大学Life 後編花巻東高校時代に世代最強スラッガーとも言われた佐々木麟太郎が、スタンフォード大で1年目のシーズン…


アメリカの環境で選手として、人として成長を続ける佐々木

 photo by Getty Images

佐々木麟太郎のスタンフォード大学Life 後編

花巻東高校時代に世代最強スラッガーとも言われた佐々木麟太郎が、スタンフォード大で1年目のシーズンを送っている。全米トップクラスの野球に関することはもちろん、アメリカ屈指の学業レベルを誇る学生生活においても大いに刺激を受け、日々、さまざまなことを吸収して自身の成長につなげているという。

新たな人生を歩み始めた佐々木に、アメリカに来て感じたこと、チームメートとの関係について、聞いた。

前編「佐々木麟太郎の初ホームランにチームメイトが歓喜」

【東海岸遠征の負担と「みんな平等」の関係性】

 常にいくつかの選択肢を見出し、そこからいろいろな可能性を引き出す――。佐々木麟太郎ほどのレベルの選手になると、野球に明け暮れる日々を送っているというイメージが強いが、佐々木は野球での成功を追求する一方で、常に人生の第2オプション、第3オプションを考えている。

 スタンフォード大のデイビッド・エスカー監督は、「私たちは、いろんな方法で勝てる」とチームについて話したことがあったが、多くの選択肢を持ち、そこから最適な方法を選んでいくことは、野球やほかのスポーツのみならず、人生でも同じこと。佐々木は、アメリカでそれを実践している選手だ。

 前編の記事で、佐々木が科学技術社会論か経済を専攻することを考えていることに触れたが、その理由を次のように語っている。

「もちろん難易度もあるので、その部分も見ながら決めていますが、たとえメジャー(専攻科目)を持っていようが、いろんなクラス(授業)を受けるのは間違いないので、そこも見ています。なので、メジャーだけにこだわっているわけではなく、アスリート活動との両立も考えつつ学びたい気持ちもあるので、そこはいろんな要素があります」

 今季からアトランティック・コースト・カンファレンス(ACC)に移ったスタンフォード大にとって、最も厳しいのは移動だ。昨季まで所属していたパシフィック12から、同じくACCに移ったカリフォルニア大バークレー校以外は、ノースカロライナ州、フロリダ州、マサチューセッツ州、バージニア州など飛行機で5時間前後、3時間の時差があるような東海岸の大学ばかりだ。

 しかも移動は専用機ではなく民間機である。文武両道を図りながらのこの移動は、学生アスリートにとっては大きな負担となる。また、一学生として考えても、授業でとびきり学力レベルの高い生徒たちと肩を並べて勉強しなければならないことは、相当のストレスだ。そのため、安易に専攻科目を決めることは危険だし、時には希望する専攻をあきらめざるを得ない場合もあるだろう。

 だが、最終的に何を専攻しようとも、佐々木は学び、将来の引き出しを増やしていくつもりだ。

 佐々木は試合以外でも、チームメイトとよく話し、コミュニケーションを取っているという。

 1年生で三番を打っている佐々木に対して、チームメイトはライバル心を燃やしているのか? それとも可愛がられ、応援されているのか? そのことを本人問うと、「みんなすごくいい人たちですし、落ち着いていて、ゲームになったら勝つことしか考えてないので、とてもやりやすい環境です。みんなに支えてもらってプレーできているというのもすごくあります」。そしてそう言ったあと、「可愛がってもらっているほうなのかなって、すごく思います」と照れ笑いを浮かべた。

 アメリカはもともと上下関係が日本ほど厳しくないが、佐々木によると、「うちのチームは"みんな平等"というのがあります。エスカー監督もそこを意識しています。1年生でも4年生でもやることはみんな同じ。私も1年生とか4年生関係なくコミュニケーションを取ります。なので、やっぱり仲がいいですね」

 チーム内でも楽しく過ごせている様子だ。

【アメリカで発見し始めた新たな野球観と人生観】

 野球に関しては、大学最高峰のNCAA(全米大学体育協会)1部(D1)に来ただけに、レベルの高さは感じている。そんななか、より筋肉をつけ、体重も「高校卒業時より5~6キロ増えている」と言う。「ただ、力を上げるだけじゃなく、速さも上げるように意識しながらやっています。そこは、いい形にいってるんじゃないかなと思います」と自信を覗かせる。

 パワーに重きを置いたトレーニング指導をされていることも今の長打率(5割)につながっているが、「それが正解かわからないので、探り、探りです。野球は、探っていくことが大事。答えがどこにあるかわからないですし、本当に完成というわけでもないので、そこは常に探っています」と、どこまでも追求する姿勢を見せる。

 大学に来て、変わったことはほかにもある。

「練習は、日本に比べると短い。そうなるとやっぱり質を求めなきゃいけない。こっちの質とか効率はすごく高いという印象は、来た当初から受けてました」

 練習が短いことの意味も、すぐに理解した。

「どちらかと言うと、全体練習はチームの連係の確認作業。あとはみんな、どこで個人を高めるかと言ったら、やっぱり自分の練習であるのは間違いないです」

 それは、がむしゃらに練習するというだけではなく、いかに自らの体を知り、自ら管理するかも含まれる。

「オフは日によりますけど、休む時は休みますし、その時の自分自身の状況ですかね。何が必要なのか、何をやらなきゃいけないのか、何をやるべきなのかを考えて、オフも過ごしています。休みが必要な時、体の回復、リカバリーが必要な時は休みますし、それよりも練習が必要と思う時は練習します」

 また、ルーティンは、作る必要はないと考えている。

「ルーティンはあまりこだわっていません。いい時、悪い時、調子って毎日変わるので。その時に何が必要なのか、今日は何が必要なのか、何をすべきなのかを考えています。

 人って日々、体調や感情の調子とか、メンタルって言うんですかね? 日によって違いますし、(長い)リーグ戦なので、日によって何が必要かというのは変わってくる。だから、その日に応じて、日々の感覚を見ながらやるようにしてます」

 佐々木は、このように自らの信念を持っている。同じ野球はとはいえ、違う環境のなかで、自らの考えを巡らせ、野球と向き合っている。英語のインタビューの受け答えは、まだ緊張しているようだが、日常生活ではもっと流暢に英語を話す。その秘訣は何なのか。

「私も最初そうでしたが、日本人って、どうしても間違えたら恥ずかしいというのがあるじゃないですか。そういうのは怖がらないようにしようと思ってやっています」

 いつも自信に満ちていて、たくましい佐々木だが、アメリカに来た当初はコミュニケーションについては落ち込んだのだという。

「ここに来る前、多少勉強していましたが、アメリカに来て、(喋りの)スピード感とか全然違って、全然ダメなのかと思って、最初は一気に絶望しました」

 それが今では、試合でチームメイトと同じように振る舞い、話し、声を出し、すっかり溶け込んでいる。

「今まで日本という世界しか見たことがなかったので、アメリカに来て、すごく価値観とか考え方が変わりましたし、視野が広がったなって思っています」

 アメリカに来て、まだ1年。佐々木は、さまざまな経験を通して、選択肢をどんどん増やしている。

 野球選手としても、人間としても−−。