昨夏の甲子園は延長タイブレークで初戦敗退となっていた「良いご縁で出会った選手たちと甲子園まで来ながら、最近はちょっと僕のふがいなさで勝てていなかった。きょうは勝ててよかった……」。智弁和歌山の中谷仁監督は大きく息…

昨夏の甲子園は延長タイブレークで初戦敗退となっていた

「良いご縁で出会った選手たちと甲子園まで来ながら、最近はちょっと僕のふがいなさで勝てていなかった。きょうは勝ててよかった……」。智弁和歌山の中谷仁監督は大きく息を吐いた。

 第97回選抜高校野球大会で智弁和歌山は21日、1回戦で春夏を通じ初の甲子園出場の千葉黎明に6-0と快勝。甲子園での白星は、兄弟校の智弁学園(奈良)との決勝を制し全国制覇を成し遂げた2021年の夏以来で、その後は2022年夏、2023年春、そして昨年夏に初戦敗退していた。

 特に昨夏は優勝候補の一角に挙げられながら、初戦で霞ヶ浦(茨城)に3点を先行され、8回に本塁打2発で同点に追いつくも、延長11回タイブレークの末に敗れた。中谷監督は「去年の夏の敗戦を鮮明に記憶しているメンバーが多いです。きょうも相手の先発投手が霞ヶ浦の投手に見えたほどです。ベンチも同じ三塁側で、すごく緊張感がありました」と吐露した。確かに千葉黎明の先発・飯高聖也投手(2年)は、昨夏の霞ヶ浦の先発投手と同じ左腕ではあった。

 この日は昨夏と打って変わり、初回に5番・新井優聖内野手(2年)が左翼線へ2点二塁打、6番・山田凛虎捕手(2年)も適時二塁打を放ち、早々と3点先制。その後も6、7、9回に1点ずつ追加し、守っては渡辺颯人投手(3年)が9回90球無失点の“マダックス”(100球未満完封)達成で、相手に付け入る隙を与えなかった。

 それでも中谷監督は「去年の夏も試合に出ていた選手、そこで3年生の最後の夏を終わらせてしまい涙を流した選手がいます。チームは代替わりして、昨夏のリベンジができるわけではないのですが、そういう思いを選手個々が持っています」と語り、表情を和らげることはなかった。

 そんな中で最近成長著しいのが、2年生正捕手の山田凛である。二塁送球タイムが平均2秒を切る強肩が売りで、昨秋の和歌山大会、近畿大会では5番を任されたほど打撃も好調だ。中谷監督は「守備は安心して見ていられます。打撃はまだまだかなと思っているのですが、試合となると本当にいいところで打つ。キャッチャーらしいというか、相手投手の配球を考えながら打席に入っているのだと思います」と評する。

指揮官は2年生捕手として選抜準V、主将として夏の甲子園で全国制覇

 中谷監督自身、1996年の選抜で智弁和歌山の2年生正捕手として準優勝に貢献し、翌1997年の夏には主将として全国制覇を成し遂げた。同年のドラフト会議で阪神から1位指名されプロ入り。阪神、楽天、巨人で通算15年間活躍した。

 一方、山田凛は名古屋市出身で、小学生の時に中日ドラゴンズジュニアに選出されたこともあるが、中谷監督の実績を慕って、はるばる智弁和歌山に入学してきた経緯がある。「高校を選ぶ際、自分がキャッチャーとして一番成長できるのはどこかと考えて、中谷監督の下でやるのがいいと思いました」と振り返る。

 中谷監督は「僕の下で2年生捕手と言うと、僕にも、あいつにもプレッシャーになりますが、二人三脚で成長していきたいと思います」と山田凛の思いを受け止める。秘蔵っ子の成長をテコに、この春頂点へ駆け上がるか。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)