かつては浦添商を夏の甲子園ベスト4、美里工を選抜出場に導いた神谷嘉宗監督 第97回選抜高校野球大会は21日、創部4年目で春夏を通じ甲子園初出場のエナジックスポーツ(沖縄)が1回戦で至学館(愛知)に8-0で大勝。69歳の今大会最高齢監督で豊富…
かつては浦添商を夏の甲子園ベスト4、美里工を選抜出場に導いた神谷嘉宗監督
第97回選抜高校野球大会は21日、創部4年目で春夏を通じ甲子園初出場のエナジックスポーツ(沖縄)が1回戦で至学館(愛知)に8-0で大勝。69歳の今大会最高齢監督で豊富な経験を持つ神谷嘉宗監督が繰り出す“ノーサイン野球”が炸裂した。
「最後まで元気があって、よかったと思います」。神谷監督は試合後、好々爺的な笑みを浮かべて穏やかに振り返った。
送りバント、ヒットエンドラン、バスター、盗塁といった攻撃上の作戦を、全てグラウンドで戦っている選手たちの判断と、選手同士のアイコンタクトに任せている。監督が直接手を下すのは、代打、代走、投手の継投くらい。この日、1-0とリードして迎えた3回の守備で2死満塁のピンチに追い込まれたが、神谷監督はベンチから伝令を出すこともなく、バッテリーと内野陣が話し合うのを眺めていた。「タイムを取るタイミングも基本的に、選手たちに任せています。最近はいいタイミングで取れるようになってきたので、言うべきこともありません。私は『楽しいな』と思いながら見ているだけ……」と全幅の信頼を置いている。
なぜ、ノーサインなのか。「私は40年ずっと、沖縄の公立校の監督を務めてきて、どうすれば弱いチームが強い私立を食えるかを研究してきました」と神谷監督。これまでに八重山、前原、中部商などの監督を歴任し、2008年の夏の甲子園では浦添商をベスト4、2014年には美里工を選抜出場に導いた。
「美里工在任中に出会ったのが、山口県の東亜大の監督として3度の明治神宮大会優勝を成し遂げた、中野泰造さんの野球でした。彼がノーサイン野球の神様です」と力を込める。
美里工在任の途中からノーサイン野球を導入し始めた神谷監督は、2021年に学校法人大城学園が名護市に開校したエナジックスポーツ高等学院に初代野球部監督として招かれ、ここで熟成させていくことになった。
ノーサイン野球に必要なのは勇気、反省とフィードバック、コミュニケーション
「こちらの攻撃も、相手の守備も動いている中で、相手の隙に気付けたとしても、サインが出ていたら、そこを衝けない。ワンテンポ遅れてしまう。瞬間瞬間に勝負していく野球は、今後もっと広まっていくと思いますし、広まってほしいと思います。子どもたちにとっても、こういう野球は楽しいと思います」と説明する。
ノーサイン野球を行うには、必要なものがある。まず第一には「勇気」と神谷監督は強調する。「自分で判断して、自分で責任を取らなければなりませんから。日頃の練習の積み重ねを信じ、失敗を恐れない。それも勇気です」。
もう一つは「反省とフィードバック」だ。試合後はこれに長い時間を費やしているという。さらに、ノーサインでも選手同士がお互いの考えていることがわかるくらい、普段の深いコミュニケーションが大事になる。「その点、ウチの野球部は1学年18人くらいの小所帯で、みんな寮生活ですから、コミュニケーションを深めやすいと思います。人数が増えすぎると、できなくなることです」と指摘するのだ。
「僕も一応、選手たちにセオリーを教えます。しかし理由があれば、セオリーは無視しても構いません。型にはまってしまったら、意表をつけません」とも付け加えた神谷監督。基本的な考え方として「必ずしも監督の言っていることが正しいとは限りません。監督はベンチで選手たちと同等に会話をする、仲間の1人に過ぎないと思っています」と言い切った。
数多くの公立校を監督として渡り歩き、輝かしい結果も残した名将が還暦後に到達した境地は、刺激に満ちていてワクワクさせられる。神谷監督はこれからまだまだ時間をかけて、日本の野球を南端から変えていくのかもしれない。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)