篠塚和典インタビュー 巨人歴代ベストナイン 前編 卓越したバットコントロールと華麗なセカンドの守備で、長らく巨人の主力として活躍した篠塚和典氏。引退後は巨人の打撃コーチや内野守備・走塁コーチ、総合コーチを歴任するなど、長きに渡って巨人の歴史…

篠塚和典インタビュー 巨人歴代ベストナイン 前編

 卓越したバットコントロールと華麗なセカンドの守備で、長らく巨人の主力として活躍した篠塚和典氏。引退後は巨人の打撃コーチや内野守備・走塁コーチ、総合コーチを歴任するなど、長きに渡って巨人の歴史と共に歩んできた。

 そんな篠塚氏に、レジェンドの「ON」を除いたV9以降の巨人歴代のベストナインを選んでもらい、選出理由と併せて語ってもらった。


自身も長らく巨人で活躍した篠塚氏。セカンドでの選出はある?

 Photo by Sankei Visual

【バッテリーのふたりは誰?】

【動画で見る】篠塚和典が選ぶ巨人歴代ベストナイン

――巨人の歴代のベストナインを選ぶとすれば、多くの方がサードに長嶋茂雄さん、ファーストに王貞治さんを選ぶと思います。今回はあえて長嶋さんと王さんを除いた選手(V9以降)、篠塚さんが現役時代やコーチ時代など、実際に近くでプレーを見ている選手を対象とさせていただきます。まず、ピッチャーはいかがですか?

篠塚和典(以下:篠塚) 昨年に行なわれた、巨人球団創設90周年の特別企画「あなたが選ぶベストナイン」では斎藤雅樹が選ばれましたが、僕が選ぶのは江川卓さんです。江川さんのボールは「打つのが難しい」と思いましたが、斎藤は何度か対戦すれば打てそうな感じがするんです(笑)。

 V9以降、小林繁(※)さん、西本聖さん、斎藤、槙原寛己、桑田真澄、上原浩治、内海哲也、菅野智之ら時代ごとにいい投手はいましたが、やはりあの浮き上がるストレートの打ちづらさは間違いなく江川さんがナンバーワンです。

※小林繁はV9最後の1973年にルーキーとして6試合に登板。

 ピッチャーの中のピッチャーですよね。高校時代に初めて対戦した時の衝撃は今でも忘れられませんし、あの大きな体をさらに大きく見せるような豪快な投げ方がすごく印象に残っています。今は何種類もの変化球を投げるピッチャーが多いですが、真っすぐとカーブだけで勝てるピッチャーはいないと思いますよ。江川さんは「たまにチェンジアップも投げていたんだ」と言っていましたが、チェンジアップには見えませんでした (笑)。

――キャッチャーは誰を選びますか?

篠塚 現監督の阿部慎之助です。僕らが一緒にやっていた山倉和博さんや中尾孝義さんもいいキャッチャーでしたし、江川さんとバッテリーを組んだといえば山倉さんなのですが、ひとり選ぶとすればやっぱり阿部ですね。

 あれだけ長く(19年)、大変なポジションであるキャッチャーを続け、かつ首位打者や打点王のタイトルも獲っていますし、2000本安打を達成して400本以上の本塁打を打った。(2013年の)WBCでは侍ジャパンの4番を任されていましたし、長年に渡って司令塔としてチームを牽引していました。文句なしです。

【セカンドに自分は入る?】

――続いて、ファーストはいかがですか?

篠塚 王さんを除くとなるとファーストはなかなか難しいですが......同じ時期に一緒にプレーしていた中畑清さんは、ファーストで7年連続でゴールデングラブ賞を受賞していますし、選びたいところです。そのほかにファーストを守った選手といえば、落合博満さんや清原和博といったFAで加入した選手、ロベルト・ペタジーニなど外国人選手が多いイメージで、年数が短いんですよ。長く守っていた点を重視すると、中畑さんになりますね。

 長年一緒にやっていて、ファーストの守備のうまさを近くで見ていたこともありますね。ゴールデングラブ賞を7回獲れたのは「シノ(篠塚氏の愛称)のおかげ」といつも言ってくれていますし(笑)。打撃面も、通算打率は.290ありますから。あと、ベストナインを選ぶにあたっては実績もそうですが、チームをまとめる雰囲気を出せる選手も選びたいところ。そういう意味でも、やっぱりプロ野球選手会初代会長でもあり、ムードメーカーの中畑さんがファーストですね。

――セカンドはいかがでしょうか?

篠塚 言いづらいのですが、攻守両面で考えると自分ですかね?(笑)。自分の後に長くセカンドを守った選手は仁志敏久くらいしかいませんよね。昨年は吉川尚輝がよかったので今季以降も期待できますが、近年セカンドを守った選手は不振で外されたり、故障でダメになったり、1、2年で終わってしまう選手が多いじゃないですか。そういう観点からも、自分を入れざるをえないのかなと。

――ご自身のことは語りにくいですよね?

篠塚 語りにくいです(笑)。

――篠塚さんは、先ほど話に出た「あなたが選ぶベストナイン」のセカンドで選ばれていますし、首位打者を2度、ゴールデングラブを4度受賞されていて攻守両面で貢献されています。1980年代の黄金期は巨人戦の視聴率も高く、知名度も圧倒的でした。イチローさんをはじめ後世の多くの選手に影響を与えましたし、誰もが納得の選出ではないでしょうか。

【名選手が多い三遊間は?】

――続いて、ショートはどうしますか?

篠塚 これは、もう坂本勇人です。昨季から本格的にサードへとコンバートされましたが、ショートという大変なポジションをこれだけ長く守りながら、打撃面でも歴史に残る成績を残してきています。河埜和正さんや川相昌弘といった名手もいましたし、"打てるショート"という意味では二岡智宏もいましたが、ひとり選ぶとすれば、右打者で最年少2000本安打も達成し、2016年に首位打者を獲得、2019年には40本塁打をマークした坂本ですね。

――続いてのサードといえば、長嶋茂雄さんを思い浮かべる方が大多数だと思いますが、今回はあえて除いています。誰を選びますか?

篠塚 原辰徳が4番・サードで長く活躍していましたし、同じ時代にプレーしてよく知っていることも含め、原と言いたいところではありますが......打撃の安定感と本塁打王という打者の勲章を3度獲得している観点から、岡本和真を入れることになるでしょうか。巨人は注目度が高く大きなプレッシャーがかかる球団で、FAで移籍してきた選手でも活躍することが難しい。岡本はそういう球団で、結果をコンスタントに出し続けている選手ですから。

 昨季こそ30本に届きませんでしたが、毎年のように30本前後のホームランを打ち、打点も稼ぐ。打撃に安定感があり、サードの守備もまずまずですし、ゴールデングラブ賞も獲っています。ファーストを守ったりレフトを守ったり、大変でしょうけどね。

――ほかには小久保裕紀さんや小笠原道大さん、村田修一さんなどもサードを守っていた時期がありました。

篠塚 それぞれ巨人で活躍してくれた、いい選手たちであることは間違いありません。ただ、ひとりを選ぶとなると、OBとしてはどうしても生え抜きの選手を選んでしまいます。やはり、そのポジションを守り続けた年数を重視したいからです。移籍してきた選手だと、どうしても期間が短くなってしまいますから。

――ここまでのメンバーも豪華ですね。続く後編では、外野手を選んでいただくほか、歴代ベストナインを率いるうえでふさわしい監督、さらにはオーダーを組んでもらいたいと思います。

篠塚 わかりました。よろしくお願いします。

【後編を読む】外野陣、打順、指揮官はどうなる?>>

【プロフィール】

■篠塚和典(しのづか・かずのり)

1957年7月16日生まれ、東京都出身、千葉県銚子市育ち。1975年のドラフト1位で巨人に入団し、3番などさまざまな打順で活躍。1984年、87年に首位打者を獲得するなど、主力選手としてチームの6度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献した。1994年を最後に現役を引退して以降は、巨人で1995年~2003年、2006年~2010年と一軍打撃コーチ、一軍守備・走塁コーチ、総合コーチを歴任。2009年WBCでは打撃コーチとして、日本代表の2連覇に貢献した。