篠塚和典インタビュー 巨人歴代ベストナイン 後編【前編を読む】バッテリー、内野の布陣は?>> 篠塚和典氏が選ぶ、「ON」を除くV9以降の巨人歴代ベストナイン。前編で選んだ先発ピッチャーと内野手に続き、後編では外野手、中継ぎ・抑えのピッチャー…
篠塚和典インタビュー 巨人歴代ベストナイン 後編
【前編を読む】バッテリー、内野の布陣は?>>
篠塚和典氏が選ぶ、「ON」を除くV9以降の巨人歴代ベストナイン。前編で選んだ先発ピッチャーと内野手に続き、後編では外野手、中継ぎ・抑えのピッチャー、さらには歴代ベストナインを率いる監督を選んでもらった。
ホームランを放ち、高橋由伸(左)に迎えられる松井秀喜
photo by Sankei Visual
【ライトとセンターは、早く自分の形を作った2人】
――内野手に引き続き、外野はいかがでしょうか?
篠塚和典(以下:篠塚) レフトとライトが悩みどころなのですが、ライトは高橋由伸ですね。彼はベストナインやゴールデングラブ賞は獲っているのですが、不思議なことに打撃のタイトルを獲っていないんです。
でも、安定したバッティングを長年続けてきましたからね。2007年には1本差で本塁打王を逃しましたが35本をマーク。狙えば首位打者を獲れる可能性もあったかなと。ほかには、吉村禎章もケガがなければ、由伸と同じような成績を残せたかもしれませんね。
――篠塚さんは、高橋さんのバッティングをどう見ていましたか?
篠塚 入団当時から、ある程度完成していました。指摘するようなところもほとんどなかったですし、バットにボールを"乗せる"のがうまいんです。逆に調子が悪くなると、バットからボールが離れるのが早くなってしまう。練習でも試合でも、センターから右に打球が飛んでいくくらいが状態のいい時でした。
――ライトに続き、センターはいかがでしょうか?
篠塚 自分と同じ時代にプレーしたウォーレン・クロマティを入れたい気持ちもありますが、やっぱり長年の実績を考えればセンターは"ゴジ"(松井秀喜の愛称)でしょう。先ほど(前編で)ショートで選んだ坂本勇人にも同じことが言えるのですが、私がコーチとして関わった時代に成長して、1年ごとに技術や成績を上げていったというのが共通点ですよね。言い方を変えると、自分のバッティングの完成形を作るのが早いんです。
高卒でプロ入りして4年目以降は、30本以上の本塁打を7度もマークしてメジャーへ行きましたし、日本人選手としては王貞治さん以来の50本超えも果たしたわけですから。プロではなかなか芽が出ず、常に悩み続けている選手も多いですが、高橋や松井は早い段階で自分にとってベストな形にたどり着いたからこそ、あれだけの成績が残せているんだと思います。
――MLBの名門、ニューヨーク・ヤンキースでもその名を刻む活躍を見せました。
篠塚 アレックス・ロドリゲスやジェイソン・ジアンビ、ゲイリー・シェフィールドらスター選手がひしめき、伝統を重んじる球団のプレッシャーのなか、チームプレーに徹して勝利に直結する"打点"を稼ぐことに注力していましたね。長打にこだわれば、本塁打ももう少し打てたかなと思います。
【打順は右・左も考えて隙なし】
――続いてレフトはどの選手を選びますか?
篠塚 一番難しいのがレフトですね。僕らの時代から安定して守っていた選手がいないんです。松本匡史さんはセンターを守っていましたし、生え抜きでレフトを考えると清水隆行くらいですかね。でも、守備に難があることを考えると、長野久義になるかなと。
首位打者を獲りましたし、20盗塁以上する足もあった。かつ強肩強打で攻守のバランスがよく、守備は外野ならどこでも安心してまかせられました。今回はセンターにゴジを選びましたが、センターに長野、レフトにゴジという形でもいいです。
――以上でベストナインが出揃いました。
篠塚 長嶋茂雄さんと王貞治さんを除くという条件付きでしたが、新旧の実力者で構成されたいいメンバーになったんじゃないですか。
――次に打順を決めていきたいと思います。1番はいかがでしょうか?
篠塚 選んだメンバーの中では、やっぱり由伸かな。2番は「自分しかいないかな?」と思ったけど、勇人のほうがいいかもしれませんね。
――篠塚さんの現役時代は2番の印象が強いですが、3番の印象もあります。
篠塚 でも、このメンバーだとさすがに3番は打てませんよ(笑)。あと、今の2番は昔と違って打てるバッターが入ることが多いですし、やっぱり2番は坂本にしましょう。
3番には阿部慎之助を入れてジグザグの打線にして、4番はやっぱりゴジですね。ゴジはピッチャーの右・左は関係ないですから。その後の5番に岡本和真を入れて、6番は長野。右バッターが2人続くので、7番に左バッターで自分を入れます。やっぱりジグザグにすると、相手チームに継投を考えさせることになりますから。それで8番は中畑さん、9番に江川さんとなります。
◆篠塚和典が選出した歴代の巨人ベストナイン
※ピッチャーの右・左によって変動あり。
1番 ライト 高橋由伸 左打
2番 ショート 坂本勇人 右打
3番 キャッチャー 阿部慎之助 左打
4番 センター 松井秀喜 左打
5番 サード 岡本和真 右打
6番 レフト 長野久義 右打 ※右ピッチャーなら篠塚でも。
7番 セカンド 篠塚和典 左打 ※左ピッチャーなら長野、中畑でも。
8番 ファースト 中畑清 右打
9番 ピッチャー 江川卓 右打
――巨人の歴代の選手から選んでいただいたこともあり、攻守のバランスがいいメンバーですし、どこからでも点を取れそうな打線ですね。
篠塚 長嶋さん、王さんを除くのであれば、個人的にはこのメンバーがベストだと思います。どんなチームが相手でも勝てるんじゃないですか?(笑)
【チームを率いるのは、やっぱりあの人】
――ちなみに、抑えのピッチャーを選ぶとすれば誰になりますか?
篠塚 上原浩治です。彼の場合は、もともとは先発でルーキーイヤーに20勝を挙げたし、僕らからすれば先発の印象が強いのですが、抑えとしても実績がありますから。北京五輪の日本代表に選ばれた時はリリーフとして出ていましたし、メジャーでも後ろで投げていましたしね。
現段階では上原ですが、今の巨人ブルペン陣の柱である大勢には、実績を積んでいってもらいたいです。いずれは、上原を超えるような抑えになってほしいなと。
――中継ぎを選ぶとすれば?
篠塚 僕らの時代でいえば角盈男さん、近年だと山口鉄也、スコット・マシソンも長く活躍しましたね。いずれにしても、この編成だったら監督は楽ですよね。作戦もいらないですし、選手たちがやってくれますから(笑)。
――そんなドリームチームを率いる監督を選ぶとすれば?
篠塚 僕がひとりを選ぶなら長嶋さんです。もちろん川上哲治さんや原辰徳も歴史に名を残す名将であり、王貞治さんや藤田元司さんも偉大な方ですが、長嶋さんに対しては選手たちが"憧れ"を抱いていました。
僕の場合は、長嶋さんがドラフト1位で指名していただいた縁もありますし、戦ううえで「長嶋さんのために」という思いが選手たちの心の中には少なからずあって、その思いがチームの結束力を強くしていたんです。
作戦うんぬんをいえば、突拍子もないことをやったりしますけど(笑)、長嶋さんという存在が"選手たちを動かす"と言えばいいんでしょうか。全員が同じ方向を向いて戦っていた印象が強いです。
――チームがひとつになる?
篠塚 そうなんです。ファンの間でもおなじみになった「勝つ!勝つ!勝つ!」っていう言葉に乗せられて、本当に勝ってしまうんですよ。確か「10.8決戦(※)」の時に初めて長嶋さんがそう言ったのかな。それ以降は春季キャンプに訪問した時などに言っていますよね。
(※)1994年、巨人と中日のレギュラーシーズン最終戦時の勝率が同率首位で並び、10月8日の試合に勝利したチームがリーグ優勝という大一番。
――これだけのメンバーでも、長嶋さんであれば自然にまとまる?
篠塚 そうですね。長嶋監督のもと、一度でいいからこんなメンバーで戦ってみたいですね!(笑)
【プロフィール】
■篠塚和典(しのづか・かずのり)
1957年7月16日生まれ、東京都出身、千葉県銚子市育ち。1975年のドラフト1位で巨人に入団し、3番などさまざまな打順で活躍。1984年、87年に首位打者を獲得するなど、主力選手としてチームの6度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献した。1994年を最後に現役を引退して以降は、巨人で1995年~2003年、2006年~2010年と一軍打撃コーチ、一軍守備・走塁コーチ、総合コーチを歴任。2009年WBCでは打撃コーチとして、日本代表の2連覇に貢献した。