現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」 レアル・ソシエダは久保建英をはじめ多くの選手をローテーション起用し、シーズン佳境へ臨んだが、ヨーロッパリーグでは敗退し、国王杯も決勝進出へ厳しい状況。リーグも12位と苦しい。 今回はスペイン紙『ム…

現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 レアル・ソシエダは久保建英をはじめ多くの選手をローテーション起用し、シーズン佳境へ臨んだが、ヨーロッパリーグでは敗退し、国王杯も決勝進出へ厳しい状況。リーグも12位と苦しい。

 今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、現状を分析してもらった。

【昨季はローテーションを行なわずに非難】

 今季のレアル・ソシエダはプレーの安定性を欠き、フレッシュな状態を維持できず、結果を得るのに苦労している。ミケル・メリーノ(アーセナル)とロビン・ル・ノルマン(アトレティコ・マドリード)の退団によるレベルの低下や、1シーズンでクラブ史上最多の試合数(※国王杯の結果次第で57試合か58試合)を記録することが確定しているなど、さまざまな要素が影響している。


ラージョ戦に久保建英はフル出場し引き分けだった

 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 レアル・マドリードが「十分な休息が取れない」と公然と不満を漏らしていることでもわかるように、今季の試合数の多さはどのチームにとっても耐え難いものだ。ましてや、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)規模のクラブがメガクラブと同等の試合数をこなすのは、2、3倍も難しいものがある。

 イマノル・アルグアシル監督はこの困難を乗りきるため、チームに常にフレッシュさを求め、キャリア最多のローテーションを組んできた。これについてはラ・リーガ第28節ラージョ・バジェカーノ戦の会見で、「今年に入り3日おきの戦いが続き、今日は19試合目だったが、選手たちの前向きな姿勢を誇りに思う。試合ごとに多くの選手をローテーションしてきたことでチームに酸素が行き渡っている」と言及した。

 また、「今の競争力を維持できれば再び欧州カップ戦に参加する目標を達成できると確信している。チームはまったく諦めていない。まだ勝ち点30残っている」と自信をうかがわせた。

 イマノルはここまでの戦いぶりに満足しているが、「我々はマンチェスター・ユナイテッド戦以降、サン・セバスティアンに戻っていない。この後のインターナショナルブレイクでも休めず、代表参加のためにマドリードに残る選手や、20時間のフライトで日本に向かう選手、アメリカ大陸に行く選手がいる。3日後にまた試合をするなんてクレイジーだ。ケガなく戻ってくることを祈っている。我々は全員を必要としているし、彼らには休養も必要だ」と新たな不安要素を吐露した。

 これまでに行なってきたローテーションの効果はそこまで大きくなかったかもしれないが、チーム状況を考えるとイマノルには他の選択肢はほとんどなかっただろう。もし議論の的になることがあるとすれば、ほぼすべての試合に出場してきてパフォーマンスが低下したマルティン・スビメンディのような主力選手にもう少し休養を与えるため、もっとローテーションを増やすべきだったかどうかという点かもしれない。

 昨季まではあまりローテーションを行なわず、主力選手が疲弊した状態で2月、3月を迎え、非難された。そのため今季は大胆なローテーションで臨んでいるが、結果が伴っていない。そのためローテーションがうまく機能していないように見えるかもしれないが、もしそれを行なっていなければ、選手のフィジカル面は今よりも悪化していた可能性がある。

 ラ・レアルは直近のリーグ戦12試合で勝ち点11しか獲得できずに12位に沈み、ヨーロッパリーグ(EL)はラウンド16で敗退した。国王杯は準決勝に勝ち進んでいるが不利な状況にある。しかし、来季のカンファレンスリーグ出場権が8位のチームに与えられる可能性が高いため、まだ諦めるわけにはいかない。

 過密日程を過ごしてきたラ・レアルはここのところいいサッカーができていないが、試合が週1回になれば、練習や回復の時間を得られ、リーグ戦の終盤はよりよくなるはずだ。それはすなわち、イマノルがローテーションを終了させ、パフォーマンスに不満のある選手を自由に入れ替えられるようになる、ということだ。

【過密日程のなかでもフレッシュな状態でELに臨んだが】

 イマノルのローテーションはELを勝ち進むため、とりわけマンチェスター・ユナイテッドとの大一番にフレッシュな状態で臨むことを目的としていた。その前のセビージャ戦ではフィジカルを考慮し、最後の15分しかプレーしなかった久保建英は、オールド・トラフォードで旋風を巻き起こすために選ばれた選手のひとりだった。

 フレッシュなチーム状態を生かし、昨季チャンピオンズリーグ(CL)で見せたように、立ち上がりに高い位置からプレスをかけるというイマノルのプランはうまくいった。"赤い悪魔"を抑え込み、ゴールチャンスを作って、ミケル・オヤルサバルのPKで先制に成功。しかしその後、レフェリーの不可解な判定もあって逆転を許し、ラ・レアルはELからの敗退が決定した。

 2025年初めから続く地獄のような19連戦の最後を締めくくったのはアウェーでのラージョ戦だった。イマノルはこの試合の重要性やインターナショナルブレイク前最後の試合であることを理解しつつ、久保をオーリ・オスカルソン、アンデル・バレネチェアと組ませて前線で起用した。

 前半、ラ・レアルの守りは堅固だったが、攻撃にあまり流動性が見られず、久保とオスカルソンのコンビは機能しなかった。そんななかでもラ・レアルが先制点を奪ったが、不運にも後半に入り逆転されてしまう。

 イマノルが選手交代を次々と行なうなか、フル出場となった久保は、サイドを突破して右足でクロスをあげるなど、いくつかの場面でチームを牽引した。同点ゴールは彼がペナルティーエリア内で仕掛けて鋭いクロスをあげ、GKのクリアボールに反応したアルカイス・マリエスクレナが決めたもの。ふたりはそのゴールの喜びを分かち合っていた。

【久保がうまくいかないのはローテーションのせいではない】

 今季はローテーションにより頻繁に休みが与えられている久保だが、そのパフォーマンスは力強さがありながらも不安定だ。全体的に低調だった昨季終盤に比べると多少は改善されているが、昨季前半戦のCLグループリーグで披露したような、決定的な働きをした時のレベルには程遠い。

 すばらしいプレーを見せることもあれば、ほとんど重みのないプレーをする時もある。それは休養の有無というよりも、ラ・レアルのプレーが遅いことや彼自身の閃きの欠如が大きく影響していると思う。

 彼は以前、できるならすべての試合に出たいと話していたが、現実的にそれは不可能だ。今季一度もケガをしていないのは、運のよさに加え、例年よりも休みを多く与えられていることに起因している。

 久保は優れた選手だが、チームのパフォーマンスがよくないのは彼がローテーションで頻繁にスタメンを外れているからではない。久保は先発とベンチスタートを繰り返しながらほぼすべての試合に出場しているが、ホン・アランブル、ブライス・メンデス、オヤルサバル、バレネチェアといった、いつも一緒にプレーしているメンバーとうまく連係が取れていないことが多く、ローテーションメンバーであるオスカルソンとも理解し合えていない。

 状況によっては、オスカルソンとの相互理解を深め、うまく連係しているシェラルド・ベッカーが、より決定的な働きを果たすこともある。

 そのため、ピッチでの存在感がズビメンディと同じくらい重要になり、フィジカルがそれに耐えられるものでない限り、久保にはローテーションのなかでシーズン終盤での活躍を期待するべきだ。

(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)