2025年のJ1リーグは、昨シーズンとは違う魅力を提供している。その要素のひとつが、監督の存在だ。特に新監督には、チームをガラリと変え、上昇気流に乗せることが期待されている。サッカージャーナリスト後藤健生が、新監督たちの今シーズン序盤戦を…
2025年のJ1リーグは、昨シーズンとは違う魅力を提供している。その要素のひとつが、監督の存在だ。特に新監督には、チームをガラリと変え、上昇気流に乗せることが期待されている。サッカージャーナリスト後藤健生が、新監督たちの今シーズン序盤戦を振り返る!
■川崎時代も見せていた「執着」
実は、川崎フロンターレ時代にも、鬼木達監督はこうした結果への執着を見せていた。
4度の優勝を飾った頃の川崎は“横綱相撲”だった。対策を考えるのは対戦相手の監督の仕事。川崎側は、自分たちのサッカーを貫けば、おのずと得点が生まれて勝利できた。しかも、中村憲剛や大島僚太のような天才的MFがおり、献身的な守備をする守田英正がいて、旗手怜央がユーティリティー。そして、決定的仕事ができる三笘薫という切り札もいた。
だが、4度目の優勝を遂げた後は、川崎にとって厳しいシーズンが続いた。日本代表級の選手たちが次々と欧州クラブに移籍してチームを離れ、選手が入れ替わった。また、サンフレッチェ広島やヴィッセル神戸のようなカウンタープレス型のチームが台頭し、川崎のパス・サッカーがなかなか通用しなくなった。
そんなときには、鬼木監督は試合途中にシステムを変更したり、選手交代を駆使して戦っていた。家長昭博をトップに置いて2トップにしたり、MFである橘田健人をサイドバックで起用したりと、用兵の妙も見せた。そういえば、川崎時代にも知念慶は切り札的に使われてもいた……。
鹿島でプロ選手としてのキャリアを始めた鬼木監督。まさに、鹿島らしい勝負にこだわる指導者なのである。鹿島の指揮官におさまったのだから、川崎という攻撃志向のクラブにいたときと同じようなスタイルを追求することはないのではないだろうか。
■長谷部監督への「二重の誤解」
鬼木監督が退任した川崎には、昨年までアビスパ福岡を率いていた長谷部茂利監督がやって来た。開幕前には鬼木監督の場合と同じように「チームのスタイルと適合するのか?」という疑問の声が聞こえていた。
福岡時代の長谷部監督は守備的な、結果にこだった試合をしていた。その長谷部監督が攻撃サッカーを志向する川崎でどんなチームを作るのだろうか?
しかし、ここには二重の誤解があった。
一つは、長谷部監督は守備サッカーを志向する指導者なのかという点だ。
福岡という、J1の中では財政規模が小さいクラブを率いて結果(J1残留)を残そうとすれば、当然、守備を優先せざるを得ない。
もともと、現役時代の長谷部監督は桐蔭学園高校から中央大学を経て全盛時代のヴェルディ川崎に入団した、テクニックのある攻撃リーダーだった。
当然、川崎というテクニックのある選手が揃ったクラブでは、福岡時代とは違ったスタイルを追求するはずだ。
そして、長谷部監督は川崎に守備を考えた慎重なプレーを持ち込んだ。相手には不要なスペースは与えない。そうした、慎重な戦い方と、選手個々の特徴を生かしたプレーを両立させることに成功したようだ。まだまだ、不安定さはあって、試合ごとに攻撃が機能して大量点を取る試合があったこと思えば、ノースコアに終わる試合もあるのだが……。
■新しい川崎の「スタイル」とは
3月12日のACLエリート、ラウンド16では川崎は上海申花(中国)相手に4ゴールを奪って快勝した。
アウェーで0対1で敗れた後の試合だけに、勝たなければいけないのと同時に、先に失点を喫したりしたら非常に難しい展開になってしまう。
そのため、ボールを握る時間が長くなったものの、川崎の戦い方は基本的に慎重なものだった。
中盤でパスをつなぎながら、両サイドに丹念にパスを散らし続ける。相手の守備陣をスライドさせながら、同時に危険な位置でボールを失うリスクを最小化しようという戦い方だった。
だが、同じようなリズムでパスを散らすだけでは、なかなか決定機は作れない。
そこで時折、前線で裏のスペースを狙って走り込むマルシーニョをターゲットにロングボールを入れるような変化もつけていった。
そして、先制点をもたらしたのは、右サイドバックの佐々木旭の個人技だった。ドリブルで持ち込んだ佐々木はカットインして、相手DF2人の間に小さな隙を見つけると、そこから左足で無回転のシュートを決めてみせた。
佐々木は、エリソンによる2点目もアシストし、マン・オブ・ザ・マッチに選ばれて記者会見の場に登壇した。序盤戦でなかなか得点が生まれなかった時間帯についての質問を受けると、佐々木は「チャンスを作り続けたことがジャブのようになっていた」と語った。
長谷部監督も「丁寧に、ミスなく、攻撃回数を増やす一方で、個人能力を生かして多くの攻撃の方法で点を取る」と語る。
ボールを失わない慎重さと、大胆な攻撃のバランス。それが確立できれば、新しい川崎のスタイルができてくるのだろう。